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[首を傾げる疾風を見れば、膝を折り、視線を下げる]
お前、ここんちのか?賢そうで何よりだ。
育ての親の躾が良いのかね?
[小さいものの扱いが得手そうなラスを思い出し、頷く。
数日前に、犬の賢さに関する話で不機嫌になっていた事を思い出せば、非常に複雑な表情を浮かべたかもしれないが]
……そうか。
負担をかけたなら当然だな。部屋にでも置いてやれ。
[カルロスの示す籠を見、頷いた。出所など知らない。]
俺は睡眠不足で倒れた馬鹿を寝かせていただけだ。
………どいつもこいつも。
[低く呟き、カルロスを見る。]
流石にね…普段だったら女の子の見舞い以外は行かないんだが。
まあ、俺にだって、罪悪感の一つくらいはあるのさ。
部屋に…って、断り無く上がっていいもんなの?
[既に玄関に入っているのは、置いておき]
そもそも、ラス本人は――…って、そう言うことか。
一応聞きたいこともあったんだが、止めとくか。…全く、虚がもう普通の人間にも影響しだしてるなんてことは無いんだよな?
[ひとりごちるように呟き。スティーヴの視線に気づけば、静かに見返した]
…何?この村にそういったバカと強情張りが多いのは非常に同意したいところだけど。
顔を見ずに帰る見舞いがあるか。
……お前がそれでいいなら代わりに置いてくるが。
他にも病人がいるんだ。早くしろ。
[鼻を鳴らし、一歩身をずらす。
顎をしゃくって部屋の方を示した。
掴み上げた疾風は腕に抱き、軽く背を撫でて宥める。]
普通の人間に、か。
…………わからん。
[嫌な想像に苦渋の顔になる。
同意には知らぬふりをし、先立って歩き出した。]
……前言撤回。客を追い出すような奴に、この果物はやらん。
[睨むような視線と、大人気ない言葉。
悪戯を仕返そうと伸ばした手。
けれどスティーヴが疾風を持ち上げるのに、空振る。
誤魔化す様に、靴の埃を払い立ち上がった]
…なんだ。アンタでも、そんな風に笑うことがあるんだな。
そこまでは知らないが……
最近きいたばかりでね。
[肩を抑える様子をみる。
何を気にしているのかは、すぐにわかった]
……一体、なにを意味するものか、お前にも聞いておこうと思っただけさ。
[宙を掻く四足に浮かべた笑みを指摘され、への字口になる。]
………いいからさっさと行け。
[結局、返した答えは愛想のない促し。]
他に…病人?まあ、この騒ぎだし、心労で倒れた人が居てもおかしくはないか。
[ラスの家の事情を知らず、適当な一人合点。
部屋を示され、頷きを返し、そのまま家へ上がりこむ。
疾風を宥める様子には、驚いたように軽く眼を見開く]
俺にも、分からないけどさ…少し、昨日ラスの羽根に影が差したみたいに見えたのが、気になって。
…神経過敏にでもなってんのかね。やだやだ。
[愛想の無い促しには、含み笑いを浮かべた]
[一人合点するカルロスの言葉は、否定も肯定もしない。
黙って部屋の扉に手をかける。
その背に届いた言葉の内容に、目を見開き振り返る。]
……影、だと。
―――それは確かなのか?
[先程、上空から感じた違和感。
あれほど懐いていた疾風が怯えている様子。
嫌な符号だけが組み合わさる。
無意識に力を入れた扉が小さな音を立て、微かに開いた。]
[足音を潜めて、スティーヴの後を付いて行く。
軽く呟いた言葉に、驚く様子にはこちらもまた驚いて、]
あ…いや、木漏れ日かなんかだと思うんだけど。
でも、ちょうどその時、ラスの羽根を近くで見てたから、ちょっとの間だけ暗くなったのは、確かだ。
[運ばれていたとは、言いにくく。事実のみを口にする。
けれどその表情には、流石に違和感を覚え]
何か、あるのか?
[音を立てる扉が、嫌に緊迫感を増したような気がして唾を飲む]
最近、聞いたばかり?
[鸚鵡返しに繰り返す]
……理というからには、
皆の中で、「当たり前」であることなのだろうけれど。
[聞いてどうするのかと、
口にはせずに視線で問うた]
…ぅ…
[部屋の中から、苦しげな声が漏れる。
薄い布団の中、長い体を胎児のように小さく丸め、体中から汗をかいている。
その目は糸のように閉じられたまま。
背の翼胞が、強く脈動している。]
[小さな舌が無精ひげの生えた頬を舐める感触がした。
慰めてくれたらしい子犬の頭を少々乱暴に撫でる。]
………どちらにしろ、確かめるのが先だな。
大丈夫だ。もしそうでも…ちゃんと元に戻してやる。
[半ば己に言い聞かせる様に呟き、カルロスに頷く。]
遠目だしはっきり見た訳でもない。
ただなにか…違和感を感じた。
………さっき見た時は確かに薄金の羽根だったがな。
[詳しくは外でと目で告げて、扉の内へと入る。
扉の側で疾風を宥めつつ、カルロスを待った。]
[部屋に入れば、疾風はクゥ、と小さく鳴いたかと思えば、グル、と怒ったように喉を鳴らしたりもする。
落ち着かない様子で、スティーヴの腕をかりかりと引っかいた。]
そう。
最近、ね……
[くすりと嗤う。
エリカの様子に、狐はやはりもう一度頭を撫でて]
それを壊すというのは、どういうものなのかと、考えていたんだが
当たり前だというのなら、それは――
とぶこと、も、あるか。
[スティーヴの言葉に、かすか心臓が冷える。
あまり、今回の事で核心に踏み込むような事はしたくなかった。
それ以上に、核心に踏み込むような人物に気付きたくは無く、視線で告げられる内容に僅か躊躇した。
それでも頷きを返し、部屋の中へ。
手近な場所に、果物の籠を置き、顔を覗きこむ]
…随分、苦しそうだな。
[熱を見ようと手を伸ばし、…止まる。
方向を変え、薄い布団の上から、翼胞に触れようと]
なんだ…これ……?
[苦しげに呻くラスの姿に、眉間に深い皺を刻む。
どう見ても大丈夫とは程遠い姿だった。
更に汗をかいた様子に、傍らに出しかけた服を目で示す。]
……着替えさせられるか?
俺がやってもいいが、疾風の様子がおかしい。
[鳴いたり唸ったりと、落ち着かない様子の子犬の背を撫でる。
腕を引っかく姿は懸命に何かを知らせているように見えた。]
[全身があつく熱を持っているが、最も熱いのは翼胞だった。
触れれば必要以上に強い脈動と有り得ない程の熱を感じられるが、色の変化等はわからないだろう。
意識は完全に手放しているようで、荒い息の合間に呻くばかりで全く起きる気配は無い。]
クゥ…
[疾風はスティーヴの腕の中、唸るのをやめて完全に怯えた体勢になってしまい、カタカタと震えつつ眠る主人から顔を逸らす様にしている。]
[触れれば、酷くきつく眉を顰める]
…ああ、着替えさせるのは良いんだが……。
翼胞がおかしい…。これは、医者を呼ぶべきじゃないか?
[近くにある服の籠を引き寄せ、ラスが着ている服を脱がしていく。熱と、脈動]
エリカ嬢
[目を強く瞑った彼女の頭を、やさしく撫でる。
声もそれに合うほどに、ふだんには見えない毒のようなやさしさが。]
――異端は、厭か?
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