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[こんな時にまで、他者の存在を気遣うラスに眼を円く。
けれど、立ち上がる様には流石に慌て、布団に引きずり戻そうと、腕を伸ばす]
…っ、ふざけんな、バカ。
お前…、少しは頼ることを覚えておけよ。
お前が頼ると一言言えば、俺はきちんとそっちだって見に行ってやる。なんで、そんなことにも気付かない?
[荒げかけた声は、押し殺した分だけ必死さが滲む]
あァ、そうだな
[くすり、と、狐はわらった。
頭を、髪を、撫でて、頬へとすべらせる。
指を離して、後ろにさがった。]
そうだろうな
[笑みをえがく、くちびるは見えない。]
…頼る?
何言ってんだ。
俺の親を俺が見ずにどうするんだよ。
[カルロスの言葉には、不思議そうにきょとりと目を丸くして見て、苦笑交じりに返しながら腕を取られても強くは引っ張らないが部屋を出ようと、扉に手をかけた。]
そう言うこと、当然そうに言うなよ…。
[家に帰れず、親に会う事すら出来ぬ身には酷く響いて。
傷ついた顔で、取った腕を離した]
ホント…なんでこの村には、自分の健康を顧みない奴が多いんだかね?
ラスも、動き回るならせめて…もうちょっとマシな体調になってからしろ。……向こうで倒れでもしたら、更に不安にさせるだろ。
[滑る指の感触。
ぎゅと硬く目を瞑るも、離れてゆくのを知れば、
すぐさま眼は開かれて手が動きかけた]
―――……なに、が
[唇を引き結ぶ。
揺らめく眼は、面の奥を捉えない。
行きどころを失くした手が、宙を彷徨った]
さァ、なにがか。
[くすり、喉で嗤うおと。]
――エリカ。
おまえは、何を望む?
[名を囁いて、狐は、金の目で、揺れるひとみをとらえた。]
[いつもなら、傷ついたカルロスの顔を見れば申し訳無さそうに眉を下げるだろうに、振り返ったその目はがらんどうで。
それが糸のように細められる事は無く。]
いや、ああ、そうだ、施療院に払ってない金も、払わないと。
[カルロスの言葉は全く届いていないかのように、うわごとのように焦点の合わない目で呟いて。
半身に服も身につけないまま立ち上がり、すたすたと父親の部屋と母親の部屋を覗いて無事を確認し、ゆらりと夢遊病のように外に出ると、小屋から飛び出てきた疾風が激しく吠え立てた。]
私は……っ、
ただ――
[朱唇が動くも、音は紡がれず。
拳を握り、己の胸元に引き寄せる。
頑是なく、かぶりを振った。
不安定な足場、逃げ道はない]
望まない、何も……。
[振り向かれ、視線が合う。
ただそれだけの事に、何故か恐怖が生じて躊躇いを生む]
ラス…?おい。なぁ……、なあって!
[焦燥に駆られ、声の大きさを自制も出来ず、叫び呼びかける。
遅れ、部屋を飛び出して、外に飛び出れば抱きついてでも止めようと、また腕を伸ばす]
んな変な様子で外に出たら、今は危険だ…!
施療院の人間なら、今からスティーヴが連れてくるから!
あぁ、疾風、今日も美人だな――
[言う笑みは力無く。
後ろからカルロスに腕を捕まれるも、まるで気がつかないように膝をく、と曲げ、熱い翼胞から大きな翼がしゅわりと出、飛び上がる事で抜け逃げる。
カルロスの手の中には、仄暗く黒いドロドロしたものが一瞬纏わりつくだろう。
ばさり、力強く空を叩く。
――その翼は、漆黒の。闇の色をしていた。]
−施療院−
[そんな事態になっている事も知らず、露台へと舞い降りる。
翼を仕舞うのも惜しく、背に畳むだけで院内へ踏み込んだ。]
……先生はどこだ?
ああ、患者だ。おそらく急患だと思う。
[低い声で問えば、珍しい自体の為にか速やかに案内された。
簡潔に症状を説明し、往診を頼む。
手が空き次第行くとの返事に頷き、熱と脱水症状を和らげる薬を手に再び空へと露台を蹴った。]
な…っ。
[空を、仰ぎ見る。自らでは、行けるべくも無い、空を。
闇の、色]
………。
[手にまとわりつく、同じ色の、それ。
――――…知りたくなんて、なかったのに]
……だって、
望んでも、掴めない、
掴んでも、離れていく――
[思考が混ざり合う。
何を否定して、何を求めるか。
己ですらわからず、
ただ、眦に触れる温もりに身を竦ませて、
金糸雀色の瞳を大きく揺らす]
[バサリ、強く空を叩いていつもでは出せないスピードで飛ぶ。
それは黒い塊となって、空を駆ける。
途中、鷹の目がこちらを捉えたのは分かったけれど、それには目を向けずに「虚」の力と「陽光」の元来の力で引き離し、見えなくなって。
凄まじいスピードで、壁にぶつかるように転がり込んだのは――海辺の、大きな屋敷の、ベランダ。]
…よう。
[そこで読書していた人物に、疲れた顔で手をひらり、上げた。]
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