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[走って行った先は、図書館。
一度中で歌って両親に怒られてからは、
自分から来る事はあまり無かった場所。
そうっと大きな扉を開けて中に入るも、
司書は書庫に居るのか姿が見えなかった。
扉が開き、読書室から子供が出てきた。
入れ違うように読書室に入ると今の子が見ていたのだろうか、
絵の入った本が開かれて居た。
近づいて見下ろし手に取って、じいいっと、見入る。]
[描かれているのは、白く大きな鳥。
みにくい白い鳥の子供、のお話らしい。
じい、と見つめる目にはうっすらと笑みが浮かび
口の中には、小さく歌が転がり始めた。]
[耳に届く微かな物音]
…ん。
[幾人かが眠る部屋を覗き]
あれ。
窓、開いてたっけ。
[少し考えて。
蒼い少女が出て入ったばかりの窓を、そうとは知らずに閉め直した。
自身が“眠らせた”少女のほうから、微かにミントが香るのには気がつかず]
じゃあ、僕はそろそろ。
アトリエの片付けもありますので。
[丁度、慌ただしさも一段落した頃。
ブリジットにそう申し出れば、案外すんなりと許可をもらえた。
ちなみにその日診療所に訪れた人々が、『絵師』の後継者の働く姿にどのような思いを抱いたかは己の知るところではない]
[アトリエの惨状はそのままで。
やや苦笑を浮かべながら、床に散らばる画材を纏めた。
漆黒の絵筆だけはその手に握って。
それから]
…ああ。
絵、取りに行かないと。
[兄の姿が見えて、そう呟きながらも。
アンバーの少女の絵の前に立つ]
ごめんなさい。
[小さく呟いてから、イーゼルから絵を降ろし、隅に立てた]
[手を青く染めた彼女を絵に捕らえ。
それでもつがいは見つからなかったと聞いた。
手の中の絵筆に一つ、溜息を吐いて。
立ち上がって、新たなキャンバスをイーゼルに載せた。
そこに加わるのは、赤い色]
― 図書館 ―
[リディが封じられ、ユリアンが倒れた事を、伝令ではなく図書館の客の噂から知ると、絵師の肖像を書庫に一旦収め、そのまま、そこで一夜を明かした。まともな眠りは訪れはしなかったが]
・・・・・・・
[図書館を開けた後しばらくの間、記録の続きを記す事に費やした。見聞きした全てを正確に、主観を交えず書き加えていく。それは、自分が居なくなった後も残るはずのものだったから]
[書庫を出たのは、その作業が一段落してからのこと。読書室に見つけた少女の姿に、静かに声をかける]
エルザ。大丈夫か?
[ミハエルが無事である事は聞いていたから、そう問いかけた]
[目は呆っと本を見つめたまま立ち尽くしていて、
誰かが近づくのにも気づかなかった。
肩からかけた鞄からは、
鼻がよければ僅かなミントの香に気づくだろう。
声をかけられて、はっとしたように振り向く。
オトフリートの姿を認めて]
ぁ、ごきげんよぅ!
あたしは大丈夫、大丈夫よ?
あのね、あなたに聞きたい事があって、此処に来たの。
[にこりと笑い、正面に立ってじいっと見た。
両手はそっと、後ろへと隠される。]
質問なら、いつでも受け付けるぞ。
[勉強を教えている子供に言うのと同じように答えながら、近づいて来るエルザを見る]
何が聞きたい?
うん、あのね。
どうして、「知っている」の?
[端的に、それでも全てを篭めて。
じいっとオトフリートを見上げる目は外さない。]
[素直な問いかけに目を細めて、傍にある自分のデスクに軽く寄りかかるようにして答えた]
匂いがした。お前とリディから、絵師と同じ絵の具の匂いがな。
[彼が直前に描き上げた絵に使われたのと、同じ絵の具の匂い。絵筆に微かに残ったそれを感じることは、キノコを使った自分でなければ出来なかったろう]
におい?
[びっくりして目を見開いて、
くんくんと自分の腕を上げて匂いを嗅ぐ。
それからはたと黒く汚れた掌を見て、そこも匂いだ。]
…わかんない。
鼻、利くのね?
[目線を手や腕からオトフリートへと戻し、笑う。
にこにこと笑みを浮かべたまま]
どうして黙ってて、くれるの?
[彼女とも話していた疑問を、口にした。]
・・・・・一人か二人くらい、望みを叶える者がいてもいいと思ったからだ。
[他の者の望みは叶わない、叶ったとしても、その先に待つものが絶望としか自分には思えない、だから、海を見たいと言ったリディの願いだけは叶えばいいと]
俺からも聞いていいか?エルザ。
リディは、海を見たいと言った。
お前の願いは、何だ?ただ、外に出たいだけか?
[オトフリートの言葉に、口は笑んだままじっと見つめ。
満面の笑みを浮かべて両手を広げ、その場でくるりと回った。
白いワンピースが膨らみ、裾をたなびかせる。]
ね、ほら、判らない?
あたし、空に戻りたいの。
ん、戻らなきゃいけないの。
そこにはパパもママも、居るのよ?
[周りながら、手を上下に少し動かした。
それは、知識があれば鳥のようだと、判るかもしれない。]
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