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[夜か朝かは分からぬ折に、ふと目を覚まして身体を起こす。]
―――だるい。
[それでも身体を起こし、日課となって久しい柔軟体操を始める。
1、2、3とフランス語で数え、身体をしならせ――]
[――大声が、城内にこだました。]
死なないように殺せばねえ……
生憎、あなたみたいに犯人かどうかもわからない人間をあっさり殺せるほど度胸が据わってる人間ばかりじゃないんですよ。
ある程度良心を誤魔化せる、免罪符みたいなのが欲しいものなんですよ。
[再度嘆息。]
[会話しながらシンクに水を注いで、汚れた鍋を浸した。]
[口許のくれないが笑みを模った]
[男の腕の上、這う蛇にあかのネイルに飾られた白の指先を伸ばす]
ご機嫌よう。
お気づき下さり、ありがとうございます。
[挨拶などを、告げてみた]
[痛みが無いのは、確かにと頷いて]
思い入れが有る…。
いいえ、ただあかを好いと感じるだけにございます。
[或いは]
[音には成らず、口許のくれないだけが動いた]
―――誰だ!?
[目を閉じ、耳を澄ませる。]
あの声、ネズミ男………!
[慌てた様子でシャツを着込み、部屋を飛び出す。]
どうした!ネズミ男ッ!!
何があったんだ!!
[何を叫んでいるのか、内容は分からない。それ故に、ギルバートは声がする方へと駆け出した――]
[声の源に人が集う。
逃れる先に、宛てはない。
一先ず玄関から外へ出ようとして、
前方には男の影、階上には少女の姿。
背後には、あの“鼠”も来ているのだろう]
鬼ごっこは得意じゃないんだけれど。
[呟きつつ、選んだ先は外ではなく階段。
一段飛ばしに駆け昇る]
[伸ばされる白の指、紅蛇はそれを拒む様子もなく。
移ろいを察したまでの事。
そう、吟ずるよに告げる]
そういや、色彩には大分拘ってたな。
……俺は、この色は好きじゃないが。
[生ある内に交わした幾つかの言葉を思い返しながら言う。
鮮やかな唇の動きは辿れども。
その意までは、拾いきれず]
[歩みを進めて行けば、向かって来る足音が聞こえます。
近くの部屋に隠れました。
目の前を少年が駆けて行くのを確認してから、何も知らぬ振りをして廊下へと出て来ます。
恐らくは追って来ているであろう者を、少しでも足止めする為に。
それに何の意味もなくても、できることといえばそのくらいでした。]
[階段を降りようと向かったところで件の少年が駆け上がって来るのが見えた]
っ、ラッセル!
[立ち位置から立ちはだかる形になるだろうか。クインジーが護りたいと思った人物。しかし彼は不精髭の男に言わせれば終焉の獣だと言う。信ずるに足るを考えれば、自分はどちらにつくことになるか──答えは、一つ]
……なんだ?
ネズミ男に危害が……?
いや。そういう類の話じゃあ無さそうだ。
[音を立てずに階段を降りる。いくら朝でも、獣の巣くう城の中で警戒を解くわけにはいかぬのだ――…]
[ギロリ。
琥珀色の右目が、周囲を見渡す。]
[小さくとも、城と呼ばれる程の場所。
階段の幅は、ゆうに人が三人ばかり通れる程。
四足の獣の如く身を屈めて脇を擦り抜け、背後を奪おうとする]
[一言の断りもなくナイフを振るったのは、相手が獣だったことを思えば結果的には正解だったのだろう。逃げ出した少年を追いかける。走りながら叫ぶのはさすがに無理]
獣だっ! 追え!
[途中で問う声に短く返し、剥き出しのナイフ片手に廊下を走り階段を下りる]
[蛇から告げられた言の葉]
[その怪奇さは、この現状に於いてさして気になるものでもない]
[指先は撫でる様にあかに触れた]
あかが好いのです。
[繰り返して告げる]
ハーヴェイ殿。
…あかが好きでないのならば、何ゆえに棲まわせているのです?
[腕に宿るものに、女は眼差しを落とす]
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