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─ヘルガの宿─
[場所は知っているものの、滅多に訪れる事のない宿。
案の定というか、女将は来訪者に意外そうな視線を向ける]
……そんな、露骨に驚かなくてもいいじゃん。
それよりさ、ここに泊まってるヴィリーって人、今、いる?
[困ったような問いかけに、返るのは否定。聞けば、早くに出かけたと]
……そっか……。
あ、それともう一つ、さ。昨夜、なんかおかしな事、なかった?
[唐突と言えば唐突な問い。
女将は目を細め、探るような視線を向けてくるが、それはこてり、と首を傾げる仕種で受け止めて。
ある種奇妙な沈黙の後、返されたのは妙な時間に風の音がしたらしいとか、そんな話。
それは、自分の成した事が現実であったという裏づけで]
そっか……ん、ありがとね、女将さんっ!
[ほんの僅かな刹那、蒼に険しさを宿すものの、すぐにそれは打ち消して、宿を出た]
んー……そうなると、いつもの場所かな……。
[小さく呟いて。ゆっくりと、歩き出す]
[話題の見えない会話に首を傾げもしたが、
寂しげに映るゲルダの表情に首を振る]
いえ。
[何も言えず、少しの沈黙]
あの後どうなったか、訊きに行こうと思って。
[自衛団に行くつもりだと、暗に言う]
―大通り―
[この時点で犯人の可能性を浮かべていた相手]
[隻眼の記者が親しく話していたライヒアルトとレナーテ]
[そのどちらでもないから警戒はそこまで高くなかった]
それはまた。
[苦笑を浮かべかけたところでエルザの声]
何かあったのか。
[謝るのを見て問うでもなく問いかけた]
[振り払われた影は一度退いた。
尖った先には血がついていただろうか。
掴み出された紙に彼は眼を細めて、けれど笑みは変わらない]
分かってるくせに。
[影は形を変え、ゆらりと動く。
丁度蛇が鎌首を擡げ、威嚇するかのような]
─広場─
[途中、異変がなかったかを聞き歩きながらたどり着いた広場。
閉めたままの露店も増え、ここ数日での変化がはっきりと感じられた]
……ホント、早く何とかしないと。
祭り前だってのに……。
[呟きながら、周囲を見回し。
ともあれ、尋ね人を良く見かける場所──噴水の方へと歩き出した]
いえ。
昨日の事よ、
[ハンスの問いに、今日はまだ何も、と苦笑した]
……知ってるんじゃないかなって思ったけど。
誰が連行されたか。
私とミューラさんは、その場にいたから。
ん?
[そのまま手持ち無沙汰のように、噴水の傍で道行く人々を見つめていたが、不意に先ほど見かけた青髪の青年の姿を見つけると、大きく手を振った]
おー。どした、兄さん。
屋根の上走ってまでやる用事は終わったのかい?
―大通り―
そういえばアーベルはまだ家かい?
[ゲルダの探し人についてを口にして]
ああ。あの後はゲルダさんと。
……カヤ君のことか。
[噂話で連行時の一幕も聞けてはいた]
[隠そうとはしたけれど]
[自己嫌悪も混じる表情が浮かぶのを完全には抑えられなかった]
─広場・噴水傍─
[やって来た噴水に、尋ね人の姿は見えず。
戸惑っていると、声をかけられた。
振り返った先には、一際目立つ姿]
あ、ねーさん。
ん、まだ終わってないんだけどね。
あと、俺にとっては、屋根の上走るのは特別じゃないんだ。
[軽い口調で問いに答え]
ねーさんこそ、どしたの。
なんか、ぼーっとしてるっぽいけど。
─教会─
[貫かれた腕からはだらりと紅い雫が落ちる]
[けれど痛みなぞ感じていないような素振りで]
[友人に対し半身の構えを取った]
そうだな。
こうやって襲いかかって来た時点で明白だ。
下らんことを聞いて悪かったな。
[口調は友人といつも話すものへとなっていた]
[威嚇するような影を見つめつつ]
[左の拳を持ち上げる]
…この紙、なんだか知ってるか?
「口伝の術符」──声を記憶して離れた相手に伝える魔道具だ。
こいつには今、ここで会話した内容が記憶されてる。
俺がここに来てお前に声をかけた時からの内容がずっと、な。
[変わらぬ笑みを隻眸で見つめ、言葉を続ける]
[術符に記憶させる切欠]
[『アロー』、それがコマンドワードだった]
[ふぅ、と紫煙を吐き出すと呼吸を整え]
アーベル! ハンス! エリザベート! レナーテ!
これを聞けばライヒアルトが事件の実行犯と言うことが分かったはずだ!
俺を利用するためにこの地へ呼び、正体を見破られたために俺を消そうとしている!
もし俺が消された場合は……解ってるな。
[術符に記憶させるように]
[はきとした通る声を張り上げる]
[その間も隻眸は友人を見つめたまま]
[不意に不敵に笑みを浮かべた]
もう一つ。
今居る面識のある中でまだ調べて居ない者が居る。
その人物以外は俺は犯人では無いと、事件に対する姿勢から判別した。
その調べて居ないと言う人物は…。
[一度言葉を切り、一拍置いて]
───人形師だ。
健闘を祈る。
[言い終えると左手の中で炎が上がる]
[燃え尽きたそれは効果を発動]
[呼び掛けた四人の頭に男の声として再生されることだろう]
[男が友人と為した会話の一部始終も全て]
……そう、ですか
すみません、お供したいところですが私はやめときます
自衛団の顔を見た瞬間どういう行動に出るか、自分でも保障しかねるので
[そう言って苦笑い
そこで、ああそうだ、と呟くと]
……ねえ、エルザさん
アーベルくん、何処にいるか知りませんか?
[先程ハンスに訊ねたのとまったく同じ質問、同じ笑顔]
[特別じゃないと言われると、からりと笑った]
ははっ。
随分とやんちゃな通り道使ってるじゃねえか。
こっちはまあ、思うように仕事のほうが進まないんで、ちぃと一休みってところかな。
[そういうと、空を見上げて]
やっぱ、こういう仕事は向いていないようでなあ。
誰が犯人なのか、さっぱり想像もつかねえ。親父も嫌な仕事回してきたもんだよ。
アーベル?
……、さっき出かけたけど、どうかした?
[僅かな間は、行き先を告げるべきか、迷ってのこと。
抑えきれぬ表情が、翠眼に映りこむ]
ハンス? 貴方が気に病むことじゃないのよ。
…な、
[理解が追いつかない間に、紙は燃え尽きてしまう。
表情から笑みが消えた。
俯き、小さく震えだした]
ふ…っく、はは、ははははっ…
[暫く響いていた笑い声はぴたりと止む。
ゆっくりと首を上げ、眼が開いた]
――まったく。
やってくれるねえ、きみは。
[はっきりと険を含んで。
黒蛇が大きく口を開けて、頭上より襲い掛かった。
けれどその勢いは、先程の錘よりは遅い]
[術符の言葉が全員に聞こえるとは限らない]
[けれど今この状態で他に伝える手段はこれしか無かった]
[己が見たクロが誰なのかのヒントは落とせど]
[はきとしたことは伝えていないために]
[結果がどうなるかは賭けに等しい]
(…少なくともアーベルには届くはず)
(上手くやれよ)
[その間も腕からは赤い雫が零れ落ちる]
[致死量には至らないが、徐々に意識は揺らいでくるか]
─教会─
捻くれてるもんでな。
ただじゃ倒れてやらん。
誰かさんの言うには俺は地雷らしいからな。
お前に消されるなら──お前も道連れだ。
[朦朧とする意識の中]
[険を含んだ友人の顔を見た]
[黒蛇と化した影が大きな口を開き、こちらへと迫って来る]
[身体に避ける程の力は残っていない]
[元々同僚宛てに調整された術符を、己の力を注いで別の人物へ届くように調整したのだ]
[それによる疲労も少なからず溜まっていた]
なぁ、最後に教えてくれ。
──お前の信じる神はどこへ行った?
お前だけは、俺の代わりに神を信じてくれると思っていたのに──。
気がついたら、あそこが道になってたんだよ。
仕事……って。
そか、ねーさんも、失踪事件調べてたんだ。
普通に捜しても見つからない、わからない、だもんね……。
それなりの所からの、圧力もかかってるみたいだし……って。
[不意に、途切れた言葉。
途切れさせたのは、風による『呼びかけ』とは異なる『声』]
……え。
なに、今……の?
[零れ落ちたのは、困惑を帯びた、声]
―――っ!?
[突然、魔剣がビリビリと哭いた。
物言わぬ、色々なものに姿を変える、気まぐれで、それでいて出所の分からぬ奇妙な魔剣が唸りを上げる。
沸き出、溢れ出る奔流は、一方的に送られた魔法の念にまるで怒っているかのようだった]
お、おい!?
なんだ、どうした!静まれ!
[湧き出る黒い力は、全て、周りのもの全てを飲み込むように鎌首をもたげ、命を刈り取るべく―――]
―――静まれっつってんだろ!コラァ!!
[……―――]
[レナーテが強靭な精神力で持って、その魔剣の暴走を無理やり引きとめた]
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