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(なるほど、銀ですか…――。
嘗ては、私も銀によって命を永らえましたけれど)
[死の間際でも、マイペースに怒るでも恨むでも悲しむでもなく、
思考を巡らせる。]
(人はそうして生き長らえた、私のその後を哀れと思うのでしょうか)
[急速に失われていく、様々な感覚。
その中で薄れ行く景色の中――見やる先。]
…―――。
[動かした唇は最早、声を紡げず。
それでも、無表情だった顔の、唇の端。
誰にも分からないほどささやかに持ち上げて、
海と森の中間のような眸は、光を失った。]
哀れと云う感情は私には分かりませんが。
それでも、哀れだとは思いません。
…――生き長らえたからこそ、貴方に会えました。
[最期に見ていた先は。鳥籠を抱えた同胞。
我知らず、密やかに微笑んだ理由は、
死に逝く人狼本人にも分からないものだった。]
─宿屋─
…ならば、死ぬな。
[それだけのことをした、そうつぶやいたアーベルを一瞥すると、険しい表情で言い放つ。]
お前が、人ならば。
生きて、使命を果たせ。
お前が、人狼だとしても。
生きて、償え。
[そのまま手当てをすませ、フーゴーの指示に従ってアーベルを部屋まで連れていき。
クロエの言葉には、ただ、気にするな、とだけ告げて部屋を後にする。
ゲルダはその背についてきただろうか。
ヴィリー兄、と声をかけられれば、振り返りもせず。]
…俺は、家に戻る。
少し…一人に、させてくれ。
……すまない。
[立ち止まって、そうとだけ告げると、そのまま自宅へと戻り。]
…ライ。
[呟いたのは、幼馴染の名。]
俺は…お前を。
友だと、思っていた。
理解していると、思っていた。
…それは。
間違って、いたのか。
[そう、呟くと、ただそのまま、立ち尽くして虚空を見つめ。]
……お前は、俺を…
友だと、思ってくれていたか。
俺は、お前を。
苦しめた、だけか。
[そこに、幼馴染の姿があるかのように、ただ、語りかけた。
答えなど、返ってくるわけもないのに。]
[ライは人狼だと、アーベルに告げられた。
クロエも、そうだと言った。
ならば。
リディを殺したのも、ライなのか。
否。
フーゴーは、まだ人狼がいるかもしれないと言った。
己自身の知る伝承も、複数名の人狼が人に混じっていたものが多かった。
だから、せめて。
リディを殺したのはライではないと、信じたかった。
そんなことばかりを、考えて。
まんじりともせずに、いつしか白み始めていた空を見つめ。]
……朝、か。
[一睡もしてはいなかったが、眠る気にもなれなかった。
それに、宿に残っているだろう面々も気にかかった。
クロエは恐らくアーベルの側についているだろう。
ゲルダは、家に戻っただろうか。
それとも宿に残っただろうか。
…一人、置いていった自分をどう思ったろうか。
それも、気にかかって。
まず、ゲルダの家に寄り。
家人が帰っていないことを己が目で見て、改めて宿へと向かった。]
おや、まぁ…―――。
[そして、死を感じた次の瞬間。
死した人狼は、自分の遺体を見下ろしていた。
けれど、なんの感慨も浮かばずに、首を少し捻った。]
死んでも私は私……ですね。
[淡々と無機質に響く声もそのままに。
吐息を一つ吐く。]
私には何も思い残すことなどないのですが…――。
さて、私はこれからどうすればいいのでしょう。
[何がどうなるという気配はなく。
ほとほと困ったと立ち尽くしていると、脳裏に響く声。]
おや、死んでも会話できるものなのでしたか。
嗚呼、結局、生前は意味をお訊き出来ませんでしたね。
[同胞の言葉にそう返すも、応えは返ってくることなく]
…―――。
[去来した何かを、どう表現していいのか。
人狼と化す時に、おそらく壊れた心故に、
その感情を示す言葉を、男は持ち合わせていなかった。
ハタハタと瞼を動かし、押さえる胸元。]
…――貴方は最期まで愉しむと良いのですよ。
[その後、自分の居ない会話で交わされる無いように、
ホツリと小さく零すと、視界に移った幼馴染の後をつけるのは、
――何故か、その場に居たくないと思ったからで。]
……?
[最初に、気付いたのは。
この数日で何度も嗅いだ、鉄錆の臭い。
それは、宿に近付く毎に、強まっていって。]
………ゲル…ダ…?
[宿のすぐ横の路地に広がる、大きな赤い池。
そこに横たわる者を、見止めて。
呆然と、名を、呼んだ。]
― ヴィリー宅 ―
…――私は、貴方を。
[幼馴染の独白に、聴こえぬ声を漏らす。
相手をどう思っていたのか、死した今、改めて考える。
――生前は、人が家畜を飼う際、
気に入りの物ができて、意志の疎通が出来ている気がして、
故に食用としてではなく、生かしている。
そんな感覚で居たように思う。]
大切な幼馴染だと思っていましたよ。
[けれど、零れた結論はそうだった。
それは人狼となる前、
人としてヴィリーに触れていた記憶が云わせたものなのか。]
嗚呼…――
[眸を見れば、彼が何を考えているか分ってしまう。
人狼と知った今でも、
どこまでも、自分を信じきっている幼馴染。
また、言葉に表せない痛みが、胸奥に生まれる。]
そうか、きっとこれが…――
[さびしいという感情だった。
そう、思った死した人狼は、
困ったように眉尻を微かに*落とした*]
ゲル、ダ。
そんな所で、寝るな。
目を、開けろ。
[そんな、見当違いな事を言いながら、傍に行って。
血で汚れるのも構わずに、膝をついてその身体を抱き寄せる。
彼女の顔は、まるで寝ている様に綺麗なままなのに。
身体は無残に引き裂かれ、かろうじて人の形を保つばかりで。
誰の目に見ても、人の仕業ではないことは明らかだった。]
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>>+14訂正
――生前は、家畜を飼う際、
気に入りの物ができて、意志の疎通が出来ている気がして、
故に食用としてではなく、生かしている。
それに近い感覚で、いたように思う。
………ゲル、ダ…ッ!
[一人にしなければよかった。
傍にいてやれば、よかった。
後悔を堪え切れなくて、力強く抱きしめる。
手も足も、もう冷え切っている彼女を温めるかのように。
けれど、ずっとそうしている訳にもいかず。
彼女を弔ってやらなければ、と、顔をあげたその時。
壁に書かれた文字に、思考が止まった。]
………ふざ…けるな……!!!
[すべてを理解した瞬間、男は、怒りを爆発させた。]
………許、さない。
人の命を、弄んだことを、後悔させてやる。
[ぎり…と、握った拳から血が滴り落ちた。
ゲルダの身体を横たわらせると、自分の上着をかけて無残に裂かれた体を覆い、もう一度抱き上げると血に塗れた自身の姿も気にせぬまま酒場へと向かい。]
……おっさん。
ゲルダが、殺された。
人狼は、まだ、居る。
[そう、フーゴーに告げ。
ゲルダを寝かせる場所を作って欲しいと頼んだ。]
……ここの外の壁に。
メッセージが、あった。
ゲルダは、その前に、倒れていた。
…俺は。
ゲルダを、こんな目に遭わせた奴を、許さない。
[それだけ言うと、ゲルダの傍について。
誰かに問われれば、己の見たモノをそのまま告げる*だろう*]
― 宿屋/昨夜 ―
[ウェンデルに向けられた笑みには何を感じ取ったのだろうか。
細い目で見て返し]
だからこそ、やる価値があるんだろ。
人狼があの程度の傷で死に至るかね。
人であっても、化け物に加担してりゃ正気じゃねえだろうしなあ。
死んでも身の潔白を証明したかった、とかかねえ。
少なくとも、今あいつのために動いてる奴には有効なんじゃねえの?
[肩を竦めたところでフーゴーの声。
過去の系譜に話が触れられれば]
……まだいるかも知れねえってのかい。
[だとすればアーベルが、とは口にせず。
それは意味のないことだと知っていたからか]
何れにせよ、もう必要ないかねえ。
あいつを信じて、仲良く死にたいっつーなら。
仲良しごっこで救われるんなら、勝手にやってくれ。
俺は人狼に大人しく殺されるまで黙ってるなんてしないぜ。
自分の手で見つけて、殺してやるよ。
[やがてフーゴーが宿屋を出るのを見送ると、先に休むと次げてウェンデルに手をあげる。
足はいつもの角部屋へと向けられた]
……なあ、今日はやめといた方がいいんじゃねえの?
[フーゴー達の話がちらりと掠めて。
とはいえ、先の囁きが覆るとは思えず]
俺は止めねえけど。
[一人で勝手な真似はするな、とだけ]
[部屋へ戻り、取り出した木箱を開く。
小さな小瓶がいくつかと、真珠がふたつ]
[その片方を摘み上げ。
――真珠は美しく、黒の輝きを放つ]
俺は、自分さえ生きられれば誰が死のうと関係ねえ。
[ふと掠めたのは、約束*]
あいつに…ヴァイオラに聞きそびれたことがあった。
後天性の人狼は、そう長くない、って本当か?
なら俺は……それでも…
[力に拘る理由]
[後に続けられる言葉はなく]
この騒ぎが終るまで。
死ぬんじゃねえぞ。
[それは幾分、強い口調で]
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