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―回想―
[膝を抱えて座り込むようにして、ふよふよと漂っていたところで。
アーベルとライヒアルトの騒ぎに顔をあげる。
戦場で幾度も見た、赤。
騒ぎを止めようとしても、既に死した身で何かが出来るはずもなく。ただ、命が喪われていく様を見て、アーベルとクロエの言葉を聴くだけ。]
………ライヒアルトさんが、人狼……
[自分が命を落とす原因となった人狼だったと聞いて、こてんと首を傾げた。
殺される原因となった人狼に対して、憎悪を抱くかとも思っていたけれど。そんな感情は、湧いてこなかった。
思ったのは、何故ライヒアルトがリディを…という疑問と。
そして、ライヒアルトの死と人狼だったということに衝撃を受けている様子のヴィリーに対する心配だけ。]
[宿を出て行くヴィリーの後についていこうかとも思ったが。
ライヒアルトがその後についていく様子を見て、無言で酒場に残った。
何となく、邪魔をしてはいけないような気がしたから。]
……ヴィリーさん、大丈夫ですかねぇ。
[膝を抱えた体勢で、ふよふよと酒場の中を漂いながら。ぽつりとそう呟いた。
そして、ライヒアルトの事を思う。
彼は、どういう人狼だったのだろう――と。
祖国で一度、人狼と会った事がある。
そのときの人狼は、人間と共存する事を望んでいた。出来ることならば、人間を殺したくはない――と言っていた。]
[する事も、出来る事もなく。ただその場でふよふよと漂いながら。
お酒飲みたいなぁ…とか、カレー食べたいなぁ…とか、どうでも良い事を考える。
どれだけ時間が経ったのか。血の匂いとともに戻ってきたヴィリーに、顔を上げて。
彼の腕の中にある存在と、そしてヴィリーの言葉に表情が凍りつく。
漂流していた自分を、助けてくれた女性。
祖国に何も伝えられないままに命を落としていたかもしれない自分に。もしかしたら、祖国に自分のことを伝えることができたかもしれない、機会を与えてくれた女性。]
………私は、騎士失格…ですね。
[命の恩人を護ることができなかった自分に対する嫌悪に。そう呟いて顔を伏せた。
嵐の中で沈んだ船と運命をともにしただろう部下たちならば。もっと何か出来たはずなのに――と。]
僕がもしも、自分を人と錯覚しているなら、愉しい、では済まないだろうね。
縁起の宜しく無い事に、二日連続で人に殺されたのは僕の既知だ。
幾らだって悲観振れる。
[哀しむ様子が見えたとして、其れは縁起と言わんばかり]
[呆れの色が届いても、反発はしない]
[了承のコエは、当然だとばかり受け止めて]
[後天性の狼についての記憶は]
[ほとんどと言って良い程に無い]
僕の周りは先天性の方が多いから…。
正直、解らないな。
[果たして興味が無い様に、淡い口振り]
[気の無さは何の所以か]
僕は作家だから、物語の完成の為に動くだけだよ。
ヒースクリフが僕を助けようとしてくれるなら、少し嬉しいけれどね。
[仮令、利用し合うだけの関係であっても、と]
─回想・自衛団詰所─
[詰所へと向かうと、複数の団員達が詰所の中から出て来るのが見えた。彼らはフーゴーの姿を見つけると足を止める]
…うちに来るつもりだったか?
その必要は無ぇ。
……人狼を仕留めた。
つってもてめぇらが見ても判別はつかねぇだろうがな。
ともかく、今日の処刑は既に済ませた。
うちに来る必要は無ぇ。
[厳しめの視線で団員達を見返しながらフーゴーは言葉を紡ぐ。それに対し団員達は「本当か?」「じゃあもう人狼は居ないのか?」などと言いながら顔を見合わせている。「処刑の確認だけでもさせろ」と言われると、フーゴーは首を横に振る]
もう弔わせた、見せることは出来ねぇ。
……てめぇらもう顔出すな。
憎しみの連鎖に巻き込まれるぞ。
てめぇらは既にダーヴィッドを強制連行したことで恨みの対象になってる。
自分の身が可愛かったら、全部終わるまで大人しくしてろ。
それに、人狼は何匹居るか分からねぇんだ。
今回ので終われば良いが……な。
[否定の言葉に続いたのは脅すかのような言葉。たじろぐ団員達も多い。そんな中で怖いもの知らずなのか、人狼を埋葬したことに文句をつけて来る奴がいた。「団長を殺した奴を弔う必要なんてねぇだろ!」と声を荒げている]
……喧しい!!
人狼だって人だってなぁ、死んじまえば同じなんだよ!
人狼だった奴だって、普段は人だったんだ…!
[いつしか自衛団員達を見る目は睨みに変わっていた。過去の記憶が甦る。それが一層睨みに拍車をかけていて、その威圧感に声を荒げて居た団員も身を強張らせ、一歩引いた。しばらくの間団員達を睨みつけていたが、ふっと視線をそらし、背を向ける]
………もう一度言うが、騒動が沈静化するまで宿には来るな。
来たら……もしかしたら、俺がてめぇらを殺しかねねぇ。
[振り返らぬままに告げて、フーゴーは宿へと戻って行った。気迫に気圧され立ち尽くす自衛団員達。しばらく茫然としたのちに、宿へは向かわずに詰所へと戻って行った]
…胸糞悪ぃ。
連中、結社と同じようなこと言いやがって…!
[左手で胸元の服をぎりと握った。苦々しげに眉根が寄る。宿屋へと辿り着き、中へ入る前に一呼吸置いてから扉を開いた。戻った時にはもう人影は少なくなっていたか。リッキーに指示を出し片付けると自室へと戻って行った。その日もまた、壁に背を預けるようにして一夜を過ごす]
─翌朝・酒場─
[起きた時間はいつものように。客足が無いのが分かっていても、常の行動は崩せなかった。カウンターで溜息に似た息を吐いていると、酒場の扉が開いた。そこに居たのは血に濡れたヴィリーと、抱えられたゲルダの姿]
ヴィリー、おめぇその格好…。
[どうした、と問う前にヴィリーからゲルダが殺されたと聞かされる。人狼がまだ居る、と。瞬時に表情から色が消え失せた]
……まだ、居るか。
一匹じゃ、無かったんだな。
[可能性として考えてはいたが、これ以上起きて欲しくは無いと言う希望も少なからずあって。声にはやや落胆の色が乗る。ゲルダを寝かせる場所を、と頼まれると少し悩んでから、リッキーにダーヴィッドが使っていた部屋を空けて来るよう指示した。支度が終わればリッキーがヴィリーを呼びに来る]
外の壁にメッセージ、だと?
……そうか。
…ヴィリー、誰かの命を奪う覚悟があるなら、これを貸してやる。
純銀製の短剣だ、人狼には絶大な効果がある。
もちろん、人の命も奪える。
奪う覚悟があるなら、受け取れ。
[ヴィリーを試すように言いながら、腰に差していたスコルピウスを取り出し、彼の目の前に突き出した。ヴィリーが短剣を受け取ろうが受け取らまいが、そのやり取りの後にフーゴーは外の壁にあるメッセージを確認しに行く*ことだろう*]
─宿屋─
[リッキーから部屋の準備が出来た、と言われれば世話をかける、と頭を下げ。
ゲルダを連れていこうとした時、フーゴーに引き止められる。
そして眼前に出されたものは、彼の左腕に巻きついたものと同じ煌きを持つ短剣だった。
そして、覚悟があるなら受け取れ、と告げられれば、手を伸ばしかけて、一旦思い留まり。]
…俺に渡して…良い、のか。
俺が、人狼かも、しれないんだぞ。
[人間だという証を立てられているものは、フーゴーにクロエ、ユリアンだけだった。
自分のことを信じると言ってくれた彼女は、腕の中で冷たくなっている。
知らず、抱きしめる手に力を込めて、フーゴーを見つめ。]
[つかの間、沈黙が続き。]
俺が、疑わしいと思ったら。
迷わず、殺せ。
[そう言って。
改めて手を伸ばすと、差し出された短剣を受け取った。
命を奪うだけでなく、奪われることも念頭に置く。
それが、己の覚悟を示す言葉だった。]
…ダーヴィッドを殺したのは、自衛団員で。
ライを殺したのは、アーベルだった。
俺は、どちらも許せない。
だが、どちらの言い分も、解る。
…でも。
ゲルダを殺したのは、人狼で。
こんな、ことをしたモノを、俺は、許せない。
だから。
[そう言うと、短剣を懐にいれ。
ゲルダをダーヴィッドの部屋へと運び、そのまま傍を*離れないで。*]
―回想―
生きて…。
[手当てをしてもらったことで死の影は消えていた。
許せないと言った、その人物から言われた言葉は重たかった]
…ああ。分かった。
全力を尽くす。
[ヴィリーの顔を正面から見て頷いた]
―回想―
[ゲルダも近くにはいたのだろうか。
何か言われれば小さく煩いとか返しもするだろう。
ただ言い合いにはやはりならない。一抹の寂しさすら感じた。
それもまた自分のせいであると分かってはいても]
厄介をかけた。
…気をつけて。
[戻るというヴィリー、あるいは途中までついてゆくかもしれないゲルダに向けて言った。
そしてクロエと二人になってから。その問いは投げられた]
……俺が知りたかったから。
疑ってもいたんだろうな。もしかしたらお袋みたいになっちまったんじゃないかって。
夢に生活を蝕まれてるんじゃないかってさ。
[近しい相手でないと視れそうになかったのも嘘ではない。
けれどやはりそれだけでもなくて。
天井の一点をじっと見つめ答えた]
占いは親父との接点だから…もう二度とやらないつもりだったんだ。それでも、やらなきゃいけないんだと思った。
最初は前の日にフーゴーの親父さんを視ようとしたんだけど、手が動かなかった。どうしても集中できなかった。
だから仕切り直して。集中してたら…クロエの顔しか浮かばなくなってた。
[ハ、と嘲う]
馬鹿だよな。いくら似てきたからって、クロエはクロエなのに。
見方が一つ違っただけでこのザマだとか。
お前のことしか考えられなくなるとか、よほど俺の方がお袋と一緒だ。
測量士 アーベルが「時間を進める」を選択しました。
―昨夜・宿屋内酒場―
――……人狼は、人でも、ある。
[フーゴーの言葉を反芻し、眼を伏せる]
[同じ様な言葉がアーベルによって囁かれたのも耳に入って]
[けれど、其れ以上、其の事について口を開くことはせず]
[成すべきこととばかり、死者に向き合う]
必要そうなら、手を、借りるかも。
[人狼に貸してくれる手があるかは分からないけれど]
[誰にともなく、そう告げた]
[ふたりをとむらったのは、森の奥ふかく。
あまり人目につかないだろうことと、かつてライヒアルトに取材をしたとき、こういった場所を好んだのをおもいだして]
――……、ずっと、いっしょね。
[ふっと、うかんだ言の葉を、思うまま口にだした。
組んだゆびさきは、いのりのかたち。
月明かりをみあげたのなら、そこから去って]
[月の中、森で動けたのは、間違い無く狼の性質ゆえ]
[土に埋める以前に、ヴァイオラの肉を食んだ]
[其れこそが、狼同士の弔いだと信じていたのかもしれなかった]
[唇の端にはまた、紅の残滓が宿る]
ヒースクリフ。
今から、そちらに行くから。
[弔いは終わったとそう告げて]
[占いを理由にして、ゲルダを部屋から呼び出せないかと問う]
[もしも駄目でも、弔いの事で誘い出すつもりではあったのだが]
仮令恋人では無くても、彼女は親しいらしいから。
あの、占い師殿と、ね。
ねぇ、ヒースクリフ?
人では無い僕には解らないけれど。
人が自らが傷付く以上に拒む事とは何だと思うかな?
僕の思うこの答えが正しいのか。
其れを、試してみたいんだ。
[より強く、心を揺るがせたのなら]
[きっと其れは快い]
――……。
[作家で在る男は、其の想像に口端で笑った]
広い壁が有る場所が良い。
[そうヒースクリフに伝え、場所を外へと移す]
[男二人で女一人を無力化して攫うのは容易い]
[必要ならば、獣の力を用いれば良いのだから尚の事]
うつくしいものは、のこすわ。
強いモノは、愉しむけれど。
[異なる口調と共に創り上げる形は]
[顔は其の侭に、其れ以外を蹂躙し尽したもの]
こうしたのなら、もっとゆれるかしら…?
[身体を引き裂き、紅に染まった爪が壁に文字を描いていった]
[「まだ見つけられないのかな」「まだここにいるよ」]
[あからさまな挑発の言葉]
[けれど其れは、物語の終焉を求める様にも捉えられる*モノ*]
―翌朝―
[目覚めて、袖を通したのは、これまでのドレスでは無く]
[男物の服]
[黒の色彩の其れは、教会へ向かう時や]
[死者を悼む時に男が着るもの]
――……血の、香り。
[別荘を離れて、宿に近付いたのなら香る其れ]
[足を止めて、路地の奥を見た]
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