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……もっとも。あまり、手荒な事はしたくないのよねぇ。
[経験がないわけじゃないけれど、と。
そんな呟きは、ここ数日で何度も接したもの──血のにおいに遮られる]
……また……誰か?
[掠れた声で呟く。
狼は、まだいるというのか。
そんな疑問を抱えつつ、においを追う。
やがて、目に入ったのは僅かに開いた玄関の扉。
そちらに近づくにつれ、においは強くなるようだった]
─館外・玄関前─
[僅かに開いた隙間を押し開き、外へ出る。
湿った風が吹きぬけ、金の髪を揺らした。
身に纏った紅の紗が翻る──その色の向こうに見えた、それよりももっと深い、紅]
……っ!
[玄関の、すぐ横。
倒れ伏した少年の身体を中心に開く、色鮮やかな、大輪の花]
……何故?
[口をついたのは、短い言葉。
少年の、痩せ細った身体には、はっきりそれとわかる獣の爪痕]
まだ、いるという事、ね……。
[低い呟きが口をつく。
女はしばし少年の亡骸を見つめ、やがて、ひとつ、息を吐く]
ねぇ。
あなたは、何を知っていたの?
……あの時、何を「見てた」と言うの?
[ヘンリエッタが笑っている、と。
少年の発したその言葉は、捉えてはいた。
けれど、それが何を意味するのかは女にはわからない。
否、わかりたくもない]
このままには、しておけないわね。
皆に知らせて……中に、入れてあげないと。
ここは……寒いもの、ね。
[呟くように言って、立ち上がる。
一際強く吹き抜けた風が、金と紅を大きく揺らした**]
―使用人の部屋→厨房―
[自分の治療は自分では難しいので。
シャーロットに包帯を巻いてもらい血止めをした後、脱いでいた上着を着た。
少し落ち着いたところで部屋を出ようと立ちあがり、扉を開けようとして手を止めた。]
そうだ…腕の怪我はすぐ治るだろうけど、なるべく暫くの間、使い辛いように振舞うんだよ。
もし使った後は痛むようにするのを忘れないように。
[そう言い聞かせるように助言して、扉をあけた。
そうして一旦、水を求めて厨房へと向かう。
シャーロットは共に来たか、それとも途中で分かれたか。
左手で水を飲みながら、残った者の事を考えていた。]
(霊能者と占い師は死んだ。守護者は…分からない、元々いないのかもしれない。
居たとしても、もう遅い。)
……さぁ、次はどうする?
[誰に言うともなく、ぽつと小さく*呟いた。*]
―使用人の部屋→広間―
[いくらかの時間がたった後、ハーヴェイとそこで別れた。
別れ際にかけられる言葉には頷いて、微笑みかけた。]
……(こくり
[廊下を歩きながらあたりは人の気配も少なくなったせいか静かだった。
向かう先はまず広間、そこにトビーは一人でいた。]
……
[どうしたの、シャーロットさん。血に汚れたままだよと彼は笑いかけるのだろうか?
そちらによっていききゅっと抱きしめた。トビーの反応はどうだっただろうか?]
―広間→館外・玄関前―
……とびーが…いけないんだよ……
[小さく呟く声はきっと彼の耳に届いて、それは微かな声だったためか恐怖をあおるかもしれない。
彼の小さい体を抱き上げて口をふさいであたりに注意をしながら広間を後にし、玄関を出て外に。
ここで見つかったら元も子もないから。あたり人の気配を感じないの確認してから玄関の外に。
抵抗をしようともがくトビーをこのまま崖の下に放り投げればその行方もわからなくなるのだろうけど。
そんな考えも浮かんだけど、左腕の治療されたところを何度も叩かれる。痛みとともにもうここで殺してしまおうと思って……]
―館外・玄関前→浴場―
[屋敷の中に戻ると物影に隠れてキャロルが外に出て行くのを見送る。
キャロルの姿が見えなくなったのを確認してから見つからないように注意深くそこから離れた。]
……
[ラッセルとトビーの返り血でだいぶ血塗れていたので浴場に向かった。
トビーの抵抗のためか傷口はまだ開いたままなのでそこに注意をしながら血を落とすだけにして、ハーヴェイの忠告を思い出す。
ちょうどいいのかもしれないとそっと包帯の巻かれた左腕を*撫でる。*]
―二階廊下―
嬉しい。
[望む言葉を貰えて微笑む。
此の状況下で笑みが出る事は異常を感じさせるだろうか。最前に指摘されても其処まで考えが至らない。
本心からの想いは自然と顔に出てしまう]
ジーンさん。
お願い致します。
[キャロルが頼むのを聞けば視線は合わせず頭を下げた。
キャロルの部屋に入ると思い出した様に身体の痛みを感じ始める。青黒い内出血の痕が大きく背に残されても居た。
特に頑強でも何でも無いのだから当然の事だった]
―キャロルの部屋―
[痛みや不安を紛らわせようとする様に踊り子は物語る。
他愛無くとも其の話は緊張を解し落ち着きを取り戻すのに十分過ぎる程だった]
ええ。食べる物は余り欲しく在りませんけれど。
それならお手伝いを。
[答えながらの提案は何方も穏やかに拒絶された。
此方を気遣っての事とも判るから強くは言えず大人しく其の場で待つ事にした]
キャロルさんと一緒に私も旅をする。
何て素敵かしら。
ありがとう。
[続く名前は空気を震わせず囁き落とされた]
私は幸せ。
あの御本や母さまと違って一緒に居られるのだもの。
[一人きりの部屋に響く小さな笑い声。
其処に宿る物を人間は「狂気」と呼ぶのだろう]
私本当に気付いて居りませんでしたの。
教えて下さった事には感謝致します。
あの人達はきっと私と母さまの事を知っている。
だから捕まえに来たのでしょう。お父様も知っていらっしゃるのかも。
だから母さまは逃げる様にと教えて下さったのでしょう。
感謝は致しますけれど貴方は邪魔でしたの。
[死者は天に昇るもの。
其方に語り掛ける様に窓越しの空を見上げた]
貴方達がいけないのです。
「私達」の邪魔をしようとするのですから。
[歪んだ月が唇に浮かぶ]
本当の価値を知っているのは人間では無いのですから。
[キャロルが知らせに来るのは如何程後の事になるだろうか。
聞いた最初は驚きを示し後は仮面の様な無表情を*作った*]
―客室―
[どのくらい眠り込んでいたのだろうか?
目が覚めたときは日は既に高く、少し寝すぎた所為か少し頭痛もする。軽く頭を振りながら、ゆっくりとベッドから下りた]
少し寝過ぎたか・・・。
そうだ、皆はどうしておるだろう?
[今日は何もない事を祈るような気持ちで、部屋を出て階下へと下りる。その思いは、すぐに無残にも打ち砕かれた]
―客室→1階玄関―
[階下に下りると、すぐに新しい血の気配に気付く。既にこの屋敷全体に血の匂いが立ち込めているも同然であったが、新たに感じたそれは今までは違う場所のようであった。]
・・・っ!
童っぱ!!
[玄関の傍らに白いシーツが敷かれ、そこに横たわっているのは紛れも無いあの少年であった。
その無残な傷跡は、それが間違いなく人狼の手によるものである事を雄弁に物語っていた。]
何と言うことだ・・・!
ギルバート殿やラッセル殿に続いて、お主まで・・・!!
必ず我の国まで連れてゆくと約束したのに・・・。
すまぬ・・・!
[トビーの亡骸の傍に屈み、その冷たくなった手を握る。その口から出るのは謝罪と後悔の言葉。その目からは、大粒の涙がこぼれだしていた]
―玄関―
[どれくらいの間そうしていただろうか。
もはや言葉は意味を持たない嗚咽となり果て、誰かが来たとしても見向きもしなかった。
ややあって、ひとしきり泣いた後ようやくトビーの手を離し、腰から脇差を抜く。彼の髪を、なるべく血に汚れていない所を選んで、一房切り取って紙に包んだ]
童っぱ、不甲斐ない我を赦せ・・・。
せめて遺髪だけは、我の国まで持って帰るゆえ。
[紙包みを懐に大事にしまい、トビーの手をそっと体の上で組ませた。]
―館内―
[トビーの傍を離れた後、井戸で軽く顔を洗い、他の者達を探しに館内をさ迷い歩く]
ギルバート殿、ラッセル殿、そして・・・童っぱ。
あの日書庫にいなかった者は、もはや我だけと言う事か。次は我の番かも知れぬな・・・。
[これは果たして偶然だろうか?セシリアが死んだ日のことを思い出す。一度は収まった疑念が、再び頭をもたげ始めた。]
しかし、これでようやく人狼が誰なのか、分かりかけてきたでござるよ、童っぱ・・・。
[そう、小さく呟く。誰にも聞こえぬように。
トビーが死んで得をするのは、彼女以外にはいない。]
味方が、必要でござるな・・・。
[間違いなく、キャロルは邪魔立てするだろう。他の者も事情を知らねば止めに来るのは必定だった。
では・・・闇討ちか?
否、それこそ相手のもっとも得意とする領分ではないか。同じ土俵に立てば、こちらが負けるのもまた必定。]
せめて、ギルバート殿が生きておれば・・・。
[2番目に死んだ、気のいい青年の事を考えて溜息をつく。
キャロルは論外だろう。シャーロットも話すら聞いてもらえないかもしれないし、頼めるような相手ではない。
残るはユージーンかハーヴェイだろうか。
だが、ユージーンはあの書庫の一件以来、どうにもどす黒いわだかまりのようなものが自身の心から消えることはなかった。]
ユージーン殿には話しにくいでござるな・・・。
ここはハーヴェイ殿に尋ねてみることにいたそう。
―厨房→外―
[厨房で一息ついてから、足は外へと向けられる。
トビーの亡骸はもうそこにはなく、赤い彩りが残されるのみ。
館の周囲に咲く白い花が、獣が手掛けた人の赤に染められていた。
可憐な白き花を染めるは、人か獣か――
ふとそんなことを考えながら、暫くその場に留まった。
雨はすでにやみ、地は少しずつ*乾いついた。*]
―自室―
[着ていた衣服は血が乾いていたので一旦それを着て自室へと戻った。
着替えを済ませると部屋に置かれたぬいぐるみに視線をやる。
窓の傍にはひつじさんのぬいぐるみとうしさんのぬいぐるみ、ねずみさんのぬいぐるみをつかむと窓の傍に置いた。
ねずみさん今日はひつじさんとうしさんに用があるみたいなの。
羊、牛、鼠、3匹は狼のお腹の中。
机の上のりすさんのぬいぐみのとなりにねこさんのぬいぐるみを置く。ねこさんはりすさんと仲間だったみたい。
栗鼠と猫は刺された。
ベッドの傍にはとりさんのぬいぐるみとうさぎさんのぬいぐるみ。とりさんとうさぎさんは今日も仲良し、仲良しなのはうれしいこと。
いぬさんのぬいぐるみとくまさんのぬいぐるみ。いぬさんはくまさんが大好き、大好きなのはたのしいこと。
ぶたさんのぬいぐるみとうまさんのぬいぐるみ。ぶたさん、うまさんはどうしてるのかな?
熊と兎は犬の仲間、鳥は兎の仲間、豚と馬は敵かな味方かな?]
……
[ぬいぐるみの配置を終えユージーンに一度会って話すべきだろうか、自分の敵になるか味方になるか。
確かめる必要もあるかもしれないそう考えたりしながら、いまはまだ自室の中に*いる*]
─館内─
[トビーの亡骸を見つけた後。
すぐには戻る気になれず、しばし、館内を歩いていた。
思い返すのは、ここを訪れてからの事。
馴染みのものとの変わらぬやり取り。
初めて会う来訪者との語らい。
思わぬ場所で再会した少女。
穏やかだった空気は紅によって断ち切られ。
そして、紅は塗り重ねられ]
……それでも、私は生きてる。
生きられているのか、生かされているのか。
[それはわからない。
何が正しくて何が誤りなのか。
それもわからない──否]
考えても、仕方ない、わねぇ。
[零れ落ちたのは、小さな呟き]
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