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─Kirschbaum・3階東/昨夜─
[翠樹の魔が部屋から去った後。
白梟はしばし、不安げに眠る時竜を見つめ。
それから、ふ、と窓の方を見やって首を傾げる。
しばし、間を置いて。白梟は、歌を紡ぎ始めた]
「いまはおやすみ時のいとし子
巡る輪のうちこぼれし子
わたしの腕のうちにいるまは
皆と変わらぬいとしい子
世を彷徨いし時のいとし子
終わり無きを定められ
御魂の安らぎえられぬ子
今はおやすみただゆるやかに
わたしの腕をはなれたようとも
変わること無きいとしい子」
[響く歌は、彼が幼竜の頃に育ての母が歌ったもの。
幼い器にあわぬ力と知識、記録に押し潰されかけた時、時竜に安らぎを与えたもの。
だからだろうか、やや、苦しさを帯びていたその表情は。
*ほんの少し、安らいで*]
−昨夜/墓場→工房−
[千花が恐れたのは、対極である疾風の力ではなく、それを制御できないユリアンの無意識。
彼に傷つける意図が無くとも、深い眠りにあるアマンダは、それを和らげる事が出来ずに受けてしまうから。
けれど今、彼が纏っている樹の力は、アマンダに馴染み深いもの]
…
[千花は黙って頷き道を空け、アマンダを抱きかかえ運ぶユリアンの後ろを付いて行く]
[千花は、アマンダを寝かせるユリアンを、円らな目で見つめる。
噛み付いたのは、彼が噛み付かれても仕方のない暴言を放ったから。それに関しては、何も知らないユリアンは、まったく悪くはないのだけれど、そこはそれ。
そしてアマンダの上で力尽きたユリアンに、小さな小さな溜息を付いた事も、きっと仕方がないのだろう]
−翌朝/工房−
[窓から差し込む朝の光。その眩しさに、土の床――大地に伏せていた千花は、目を糸のように細めて起き上がった。
ベッドに飛び上がり、アマンダの頬を舐める。
けれど、大地から離れ眠っていたアマンダは、まだ回復が浅いのか、起きる気配は微塵もない。
ユリアンの鼻先も前足で叩くが、帰って来るのは小さな呻きだけ]
「…チチ…チィ」
[千花はアマンダの顔――その器の仮面を円らな目で見つめ、前足を伸ばした]
[千花は小さな前足で、アマンダの頬を幾度も撫でてから。アマンダのしている千の花(欠片)が封じ込まれたとんぼ玉の首飾りを外し、自分の首輪へと重ねて着ける]
「チィ…」 『おやすみ…』
[千花と呼ばれていた小さな獣は、その姿と気配を一つに還し――]
…おやすみ、千花。 ありがと…
[毛並みと同じ色の長い髪に包まれて、ベットの上に座り込み、アマンダと呼ばれていた陶磁器の器(身体)を見下ろしたのは、そこに眠る人形と同じ顔をした*大地の精霊だった*]
−昨夜/ベアトリーチェの部屋−
[ベッドの上にごろりと仰向けになって、ベアトリーチェはぼうと考えごとをしていました。今日学んだことを復習するように、小さく繰り返します。]
違えるものがあるから、
対なるものがあるから、
世界は調和が取れている。
[それから指を折って、なにかをたしかめるように、数えます。]
光が消えて、雷が散って、水が失せて、命が還って。
……ああ、たくさん、崩れてしまっているのだね。
[そばに置いていた、曲りくねった輪を手に取ります。鎖の部分を持って、ゆらゆら、ゆらりと揺らします。表も裏も終わりもない、不思議なかたちの輪。]
ベアトリーチェの対は、居るけれど、居ない。
でも、共にあると、不思議な感じがしたんだ。
[そしてそれが失われると、きっと寂しいとオトフリートは云ったのでした。]
……それは、どんな感じなのだろう。
[ベアトリーチェは一度も、自分から「寂しい」のだなんて口にしたことはなかったのです。だって、ベアトリーチェにはその感情がわからなかったのですから。]
―アマンダの部屋―
[彼は目を覚ます。
一瞬自分がどこにいるのかわからなくて、
不思議そうな顔をするがすぐに思い出し]
ああ、アマンダさん寝かしつけてそのまま力尽きたんだ……。
[目の前で動かないアマンダの姿をみやる。
視界の端にふわりナニカ目に入り、
条件反射的にそちらの方に振り向く]
[そこにはベッドに腰掛けて髪をたなびかせている――]
[ザ・プチパニック]
ちょ……!!
そこのお姉さん、なんて格好なんだよ!
思春期まっただ中の青少年には刺激的だから!
せめて、これで隠して!
[わたわた近くにあったシーツを彼女に被せ、
ぐるぐる巻きにしてみた]
あっ、僕は決して怪しいものでは!
アマンダさんを送り届けたら、うっかり寝てしまっただけで、決してやましい事なんてありませんから!
……ていうか、誰なんですか?あなた。
アマンダさんの双子の姉さんとか。
[パニックすぎてなにやら意味不明なことを早口でまくし立てる]
[アマンダは、どうしてユリアンがパニック状態なのかわからない。シーツでぐるぐる巻きにされて、不思議そう。
その表情には、ユリアンも見覚えがあるだろうか]
ん…? ああそうか、人は服を着なくてはいけないのか。
毛皮が無いって、不便だね。
[観点がおかしいが、アマンダは気にしない。
そして「双子の姉さん」とか言われてようやく理由(の一部)がわかって納得]
ああ…、そうだね。うん。
ティルも、ここまでは知らないかな?
私は、アマンダだよ? 君の、知っている。
眠っているのは…千花に借りていた器(身体)。
私は人の姿をとるのが、とても苦手だから…ね。
姿と意識を交換していたんだ。
[そう言いつつ、首元に手をやり愛しそうに撫でる]
[アマンダの唇に笑みが浮かぶ。仮面で無いその表情は柔らかい]
千花は眠ってる。
今は、私が人の姿を取る、手助けをしてくれているんだよ。
[「私が元の姿で元気な時は、人形に千花を着けてあげれば起きてくれるんだけれど」なんて呟きにも似た説明は、ユリアンの耳を通り抜けて行ったかもしれない]
[頬を赤らめながら、彼は叫ぶ。
多少互いの話が食い違っていても気にする余裕はない]
「アマンダさん」が「千花」で、
「千花」が「アマンダさん」ってこと?
しかしとりあえず人間の女性の時は、男性の前では絶対服を着てください。
そんな綺麗な姿をみせらられたら理性が持ちません。
[本人も変なことを口走っている自覚なし]
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