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[人の気配が無くなった。何となく見上げてみたが、いつまで経っても何も見えて来ない。
どうやら僕の視力は喪われてしまったらしい。
今が昼なのか夜なのか、僕の居る此処が何処なのかも分からなかった。]
他にも居るのかな。
[僕は確かに死んだ筈で、だけどこうして意識がある。
他の人もそうなのか。確かめようにも、何も見えなければ動きようも無かったが。]
( ───にげて )
[音にせずに唇がかたちを紡ぐ。
届かない、それがこんなにももどかしい。
……嗚呼。
自分の我侭が、遺した言葉がまた大切なひとを危険に晒す]
[意識は、ふ、と掻き消え。
次いで気付くのは、家の扉の前。
少し笑った。]
便利よねえ。
[しばらくの間、といっても時間の経過は曖昧で。
家の様子を眺めて]
ロラン……
[泣きそうなまま、ロランを見つめて。
嬉しいというロランの笑みに、安心しかけたけれど。
続く言葉に瞳をみひらき]
やらなきゃいけないことって……
――待って、ロラン……っ!
[問いかける前に、彼は行ってしまった。
すばやい動きで茂みにまぎれて離れたロランを追いかけたけれど。
森に入る前にその姿を見失って]
……ミハイルさんのところに行くって言ってた……
ミハイルさんに、会わなきゃ……
[呆然としかけたけれど、ふるふると首を振って気を取り直した。
まだ、まだ時間は、あるはず――]
[ミハイルの家の裏側へと回る。
それは、イライダを襲う時にそっと抜け出した、
泊めてもらった部屋の窓を覗きこもうとして、身を離した。
中に人の気配を感じる。ミハイルだろうと思う。
もしかしたら、ユーリーかもしれないとも思う。
うろうろと周りを巡る様子に少し警戒が薄いのは、
先程カチューシャに会ってしまったからなのだろう]
っ、ロラン?
駄目。行っちゃ駄目だよ。
……もう、いいから、
[猟銃を持つミハイルの家。
ボクはひどく恐ろしい予感に目を見開く。
ぎゅ。と、胸元に手を当てた。
そこに受けた傷は、痛みを伝えてこないけど]
──…カチューシャ、お願い。
ロランを殺させないで……!
[ひどく虫のいい願いと知りながら、
共にあった幼馴染へと、届かぬ願いを小さく叫ぶ]
[そう、虫のいい願いだろう。
殺さなければ殺される。
紅い月は今宵も天に昇るだろう。
───彼の瞳は、今宵も赤く染まるのに違いない]
――。
[何か、感じた。
旅人を弔った日に感じた、森の中の違和感に似ている。
獲物を狙う側から、狙われる側になったようなそれ。]
来た、か…?
ロランは、 ミハイル を能力(襲う)の対象に選びました。
[もどかしい思いで、手で顔を覆った。
また自分は、我侭でロランを危険に晒す。
あの時と同じだ。
14年前も、こうして彼を危険に晒した。
雨の中、泣きながら植えた花を忘れてはいない。
…なのにまた。
再び同じ過ちが、繰り返されようとしている]
…約束を、違える訳にはいかないから。
これだけはしないと、…
[呟いて息を吐く。
意を決して、狼の後ろ足は大きく跳躍をした。
ガシャアン!と高い音を立てて窓ガラスが割れ、
その身はミハイルの家、ローズウッドの扉の部屋へと踊りこむ]
[それでも、ミハイルがどこにいるのかは知らなかったし。
駆け出す気持ちに寝不足の体はついていかなくて。
早足程度の動きで森から離れようとしたとき、川の方から音が聞こえた気がして振り返る。
視界に入ったのは、狼か、それともユーリーだったろうか]
…ミハ…ッ
ごめ、ん……!
[狼の足は止まる事無くそのまま疾走する。
素早くキリルの遺体を見つけると駆け寄り、
その腕へとかぶりついて。
首をぶんぶんと振り、その手首から先を千切りとる。
その間、ロランはその首にただただしがみつくのに必死で
ぎゅう、と、黒銀に顔を埋めていた。
――ミハイルの顔を見たくない、と言う風でもあって]
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