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……誰も、いねぇか。
[鉈を再び鞘に収めてからシーツの傍にゆっくりとしゃがみこみ、僅かにめくる。
左目に最初に激痛が走った時、気遣ってくれた少女が、変わり果てた姿で横たわっていた。]
……お嬢ちゃん、か……すまんな。
[血の変色具合やこぼれた血の固まり具合から、恐らくはベルナルトと戦う前に殺られたのだろう推測できたから。
少女が喰われる前にベルナルトを狩っておれば、とつい侘びの言葉が口を吐いた。]
― 二階/リディヤの部屋→ ―
[キリル>>7には、「彼女」の方を見ぬまま無言で小さく頷いてみせた。
何処か曖昧に聞こえる響きは、理解しきれていないようだとも漠然と思いはしたが、それでもさらに言葉重ねることもせず。
やがてサーシャに続きアレクセイ>>8の足音が遠ざかるのを聞いた時も、そちらに一瞥を向けるでもなく、ただ黙っていた。
それから幾らかして、メーフィエもまた顔を上げ、立ち上がった。
スカートの膝元にはリディヤの血が染みるも、それに視線をくれることもなかった。
もしこの時キリルが未だ部屋に居たとしても、メーフィエの方から視線を向けたり、何かしらの言葉を残したりすること無く。
ただ無表情を保って、部屋を出て行った。]
─ 一階/大浴場 ─
[オリガの骸を抱き締めたまま、彼女が言っていたことを思い出す]
[── …私の時も、そうして下さいね ──]
[ああ…、と小さく声が漏れた。
腰を折って抱き締めていた状態から起き上がり、自分に凭れさせる形でオリガを抱え上げる。
パシャリと水飛沫を散らしながら、僕は湯船から上がった]
……まだいる……
『鬼』が、まだ 居る
[死んでいない。
ジラントが『鬼』と言ったベルナルトが死んでも、終わらなかった。
何故?]
……ベルナルトさんじゃなかったんだ……
アイツが、嘘ついたんだ
[正しい思考は為されず、顔の左半分のように歪み行く。
憤りは、憎悪は、先刻手当てをした狩人へと向いた]
─ →二階/オリガの部屋 ─
[脱衣所を抜け通路へと出て。
滴る雫はそのままに客室のある二階へとオリガを運ぶ。
左足の痛みなんてもう分からない。
足首は恐らく悲鳴を上げていたのだろうけれど、僕はそれを感じることが出来ないままに階段を上って行った]
……………
[誰かに声を掛けられたとしても足は止めることなく。
醜く捩れた肌を晒したままオリガの部屋の前へ。
一時だけオリガを左腕だけで支えて部屋の扉を開いて、彼女を抱えて部屋の中へと入った。
ベッドに仰向けに横たえて、備え付けられた毛布をオリガにかけてやる。
それを終えて力なく両腕を垂らした後、僕はゆらりとオリガの部屋を出て行った]
─ 三階・展望室 ─
[硝子張りの部屋、一人佇む。
外の異変に気付き、確認の為駆け込んだ時と同じく、見上げるのは紅い月。
けれどあの時のように、震えが身体を走りはしない。
身の内にある感情は変わらぬもの、だけれど]
───…?
[ぐ、と。
無意識、握ろうとした掌に走った痛みに気付き。
視線落とすと、ナニかの棘が作ったのだろう、小さな傷から血が滲んでいた]
─ 三階・展望室 ─
[微かな、けれどはっきりと流れ出る赤を見つめる。
命あるものから流れるそれ。
『鬼』が置き去った華と、重なる色。
それに口つけ、嘗め取って]
…やっぱり、不味い。
[小さく声落とす、表情に色は無く*]
― ニ階・リディヤの部屋 ―
[切り裂かれた喉と胸元。
そして、飾られていたのは真紅の薔薇。
女主人の元にも落ちていたもの。
そして、ベルナルトが庭園で触れていたものと同じ。]
随分キザったらしいこった。
手向けのつもりかね?
[皮肉に口元歪めるも、薔薇の花はそのままに、シーツを元に戻す。
少女の素性を知っておれば、故郷に送り届けもできただろうけど、生憎男は知るわけがなく。
もしかしたら、オリガなら、宿帳から調べられるかもしれないと、雨に降られてこの館に来た時のこと>0:110>>0:114を思い出す。]
……あー、なんにせよ、ここを出てから、だな。
― エントランス ―
[がちゃがちゃ、虚しい音が響く。]
……どういうことだ?
[男は玄関に手をかけたまま呟く。
未だ、誰も逃がさないとばかりに閉ざされたまま。]
まさか……
[思い返すのは、リディヤの部屋で感じた違和感。]
―――まだ終わってないって事か?
[だとしたら。
まだ狩りは続くのに。
男の身体は、狩をするにはもうずたぼろで。
ましてや獲物すら見つけてはいない。]
くそったれが。
ただ狩られる側なんざぁ真っ平ごめんだってぇの。
[吐き捨てた。]
[ベルナルトを刺し――「コエ」で、それを聞いた――返り撃たれたのだろう者が誰だったのかは、その時以降に顔を合わせた者たちの顔を思い出せば、その時に見ていなかった者たちの誰かだと解る。
思い描いたのは、名を未だ聞いていなかった、たどたどしい口調の筈だったあの男。
「変化」しているように見えた恐ろしい彼も、この世に居ないのだと思えば。
心に抱かれるのはやはり、安堵の方だった。]
あとどのくらい、『人』が死ねばいいのかな。
[――それは何処まで、本当の「あたし」?
ふっと何処かで迷って、けれど、一先ずはそれ以上の思考を止めた。
「理不尽な」『ゲーム』に、のまれて、受け入れて。
そして――ただそれに勝たねば、と決めるように。]
あたしは、みじめじゃない。
ひとりじゃ、ないん、だから。
一緒に、生きて、勝つんだ。
―――…一緒に。
[「仲間」のひとりのコエが途切れて抱いた哀しみと。
もうひとりの「仲間」の行く先を気に掛ける心。
それさえも、「メーフィエ」ではないものの思考かもしれなくて――。
自分とも自分でないとも付かぬ心を抱えたまま。
けれど確かに「死にたくない」と思った彼女は、鏡の前を離れ、ベッドに一度身を沈めた。]
─ 二階 ─
[点々と通路に続く水雫の痕。
大浴場からオリガの部屋へ続いていたその上に立ち、僕は一度通路を見回した。
前髪は乱れたままであり、その下から窪んだ左目と、それを縫うように捩れた肌が覗く]
……最初から ” ”せば良かったんだ。
誰がどうとか分からないんだから、 ” ”せば良かったんだ。
僕と、オリガ以外、みんな。
[掠れた声で呟かれる言葉。
不穏な単語は紡がれたようで音にはならず、うわ言のように言葉を連ねながらある人物を探した。
”嘘”をついた、その人物を]
[水痕をなぞるように階段を下りて、エントランスへと向かう]
……あの人も。
誰も彼も。
────……”殺”してやる。
[歪みに歪んだ思考は、対象を選ばず。
生きるためと言うよりは、憎悪と喪失感に支配されて牙を剥こうとしていた]
― 客室→二階廊下 ―
[客室に籠りベッドで身を休めているのは、「仲間」から告げられた言葉故。
けれどそれでも、心安らかにこの場に留まっている訳ではなかった。]
ジラント、さん……は。
[鬼を見つけたと言っていた男。
今どんな傷を負っているのか、厳密に言えばその生死さえも、メーフィエは未だ知らないまま。
彼の動向を案じ、それでも尚、外に出ないままでいたのだけれど。]
…………………。
[もし「仲間」に見つかったならば、お腹が空いたからと言えば良い、と。
実際、最後にスープを飲んでから長いこと何も食べていないのは事実で――。
血の付いたスカートを脱ぎ、屋敷に着いた時に着ていた黒いワンピースに着替えてから。
少し長めの剣を、再び腰のベルトに差し、廊下へと出た。]
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