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「……きゅう」
[時折上がる、不安げな声。
未だ獣の姿を取るセレスは、眠り続けるナターリエに擦り寄り、時に呼びかけて]
「ね、おきて」
「元気じゃないの、やだ」
「ボク、寂しい。白いにゃあさんもきっと悲しい」
「……時空竜も、辛いって」
[呼びかける事しかできぬ無力さに苛まれつつ、それでも。
セレスは何度も呼びかける。
癒しの術を持たぬ自身に、苛立ちという新しい感情を覚えつつ]
[ブリスを軽くにらんだのは、そこに本性を解放しようとする可能性を見たから。
結果として何もなかったが]
…まったく。
[ちいさくぼやいて、精霊は相変わらず不機嫌そうに壊滅を免れた部屋へと戻る。
―――微かに翠樹の気配を残して]
─二階・自室─
[ふ、と戻る意識。
目覚めを呼び込んだのは、訴えかける従魔の声]
ち……きつ……。
[掠れた声で呟いて、ベッドを寄せた壁に寄りかかる。
白梟から向けられる、睨むよな視線]
……そう、怒りなさんな、と。
[部屋へと戻ると手荷物のなかから煙草を探し火をつける。
香りは蜂蜜のように甘く。
実際には煙草ではないのだけれど]
……まったく。
ここのやつらと来たら本当に後先見ないのばっかりだねぇ……。
[疲れた、と小さく呟いて吐息ひとつ。
薄青の煙がゆらゆらと揺れては消えた]
[セレスの声は聞こえている。
自分も辛い、という言葉には、苦笑して]
辛いっていうか……苦手な、だけだ。
[ぽつり、零れる、小さな呟き]
……どうしていいかわからねぇ……それだけ、だよ。
どいつもこいつもバカっていうのか、騒げない方がバカなのか。
[首をかしげればこきりといい音。
そのままぼんやりとした表情で中央塔のある方へと視線を向ける]
「……わかんないって、なにが?」
[聞きつけたらしいセレスの問いが、無限鎖から響く]
ん……ちょっと、な。
「ちょっと、って?」
ちょっとはちょっと。
……セレスは、ちゃんとできてる。だから、気にしなくていい。
「……きゅ?」
[疑問の声。それに掠めるのは、苦笑]
……いいんだよ。
……セレスは、わかってる。
俺は、わかろうとしてないだけ。
[無限鎖を介した言葉のやり取りを、こんな言葉で締めくくると、ゆっくりと立ち上がる。
足元がやや覚束ないが、取りあえず下へ行こうと部屋を出て。
ふらついてます、見事なまでに。
こんな状態で階段はまともに下りられるのかというと]
…ま、いざとなったらひっぱたいて多少のお仕置きも必要か。
[ふむ、と首を捻って火を消すと立ち上がって廊下に出る。
壊滅を免れた酒があるなら寝酒にかっぱらってこようと]
……なんか、前にもどっかから落ちたような……。
[がったんと、派手な物音と共に滑り落ちた直後に零れたのは、こんな言葉。
以前は窓から、精霊たちの寛ぐ庭に落ちたんだっけ……などと思い返しつつ]
[扉を閉める音と、階段から何かが激しく落ちる音はどちらの方が大きかっただろう?
表現通りキョトンとすると、首を一捻り。
階段へと近づき]
…何してんの、おとっつぁん。
[上から見下ろし]
[呼びかける声に、一つ、瞬いて。
見上げれば、眩い陽光。落ちた後には精霊に会うものなのかと思いつつ]
……見ての通り、階段から落ちたとこです。
ていうか、誰がおとっつぁんですかと。
[あくまでそこは突っ込むのか]
あれ、誰かにおとーさんて言われてなかったっけ。
ライデンかな?
[階段をのんびり降りながら、起き上がる気配がなければ手をさしのべて起こしもするだろうが]
「……時空竜?」
[落ちた気配は伝わったか、セレスが不思議そうに呼びかけるのが耳に届いて]
ん……大丈夫だ、心配するな?
「きゅー……無理するの、ダメー」
[碧の獣、少しちたぱたしているかも知れない]
[ほんの一瞬掠めた苦笑は、どこへ向いたのか。
恐らくは、降りてくる陽精ではないのだろうけれど]
……そりゃま、彼にも言われてますけどね。
[投げられる言葉に、小さくため息。手を差し伸べられたなら、素直に助力を受け入れて立ち上がる。
その際に、気の乱れは伝わるだろうが]
どうも、助かりました。
―1F・厨房―
[とりあえず休息は一応取って。実際には大きな力を使ったわけでも無いし、彼女自身はそれ程酷い疲労もしておらず。
昨晩の思いつきどおりに階下へと降りてきていた]
うー、無理しようとしたわけじゃないのに。
[その台詞が昨日のハインリヒの言い訳と同じになっているのには気が付いていない。鍋をかき回しながら小さくぼやく]
あれ、そういえば。
なんでヘルガさんは何もしなかったし、なかったの?
[時竜と風の人が紡いだ防御は一通りのそれを防いでくれたけど。ヘルガの位置には場所的にそれを越えるほどの刃が迫っていたはずで。疑問符を浮かべながらおたまを動かしていた]
[それ以外にも考えることは多く。
響いてきた音もどこか遠く聞こえて首を傾げたのみ]
力を求めて、かぁ。
皆で協力してあげられるようなことならいいのに。
それなら普通に行けば終わるのにな。
[ぐるぐるぐる。脳の中もお鍋の中も。
作業台には雑多な調味料]
[深き眠りの中。
おぼろげに誰かが呼んでいる気がして、私は小さく啼く。
声には成らず、コエにも成らず、響く小さな波紋]
[なかないで]
[慰めるように散り行く余韻]
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