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[薄闇の中]
[立ち尽くす]
[白の衣服にはくすんだ赤]
[左手と右足には未だ外れぬ枷]
[片側の青は、ただ、前を見つめて]
[人の形をした右の手を][伸ばす]
[*その先に在るのは――*]
[厨房の惨状なぞ露知らず。深い眠りからようやく完全に覚醒する。その顔から疲労の色は消えないが]
……だる……。
体力まだ戻ってねぇんかな。
[もぞもぞと緩慢な動きでベッドを降りた]
[体力が戻らないのも当然と言えば当然。色々あってろくに食事を取れていないのだから。人間であるハインリヒに取って、何か食べなければ体力の回復も難しい]
うー、腹減った。
昨日も結局食べ損ねたな。
[空気を入れ替えるために窓を開ける。風が入り込み頬を撫ぜた。それに乗り、何かの匂いが漂う]
………。
何だこの微妙な匂い。
[何だか食欲が減退しそうになった。風にその匂いを運ばないように命じると、ようやく一息つくか]
厨房は危険そうだな…。
…果樹園何か生ってねぇかね。
[危険を感じ厨房には向かわず。階下へ降りると広間の前を通らずに裏口から庭の果樹園へ]
―二階個室―
[「休んでないとダメ」
雷精の残した言葉の通り、私はもう一度瞼を閉じて――今度は安心した彼の仔と共に――眠りに落ちて。
目を覚ましたのは、いつであったか。
私は緩やかに首を振り、乱れた髪を頬から払って褥から身を起こす。振動に目を覚ましたか、傍らの碧の獣が小さく鳴いて伸びをするを優しく見守り、羽を指先で整えてやる]
『…ええ、もう だいじょうぶ』
[心配そうに鳴く彼の仔へと、柔らかく口を動かして。
私は口内に未だ残る血の味を消す為に、静かに褥から下りた]
[水を求めて、私は裾を引きながら緩やかに階段を下りゆく――
途中で、獣の鼻がそちらに行ってはならぬとの警戒を発して。
どうやら同じ意見に至ったらしき彼の仔と共に、静かに厨房を避けて、瑞々しい果実の生る果樹園へと向かおうか]
─果樹園─
[様々な果物が生る果樹園。その中のリンゴの木へと近付き、赤々と生っている実を一つもいだ。1個貰うな、などと声をかけつつ]
…あのリンゴもここのだったのかね。
[先日陽光の精霊から貰った(顔面に投げられた)リンゴ。それを思い出して一人ごちる。シャリ、ともいだリンゴに齧り付いた]
[適当な木の根元に座り。背を預けて。ぼんやりとしながらリンゴを租借する。ふと、果樹園をうろつく黒い影を見つけた。それはどこか陽光の気配がする黒い猫]
あー、ヘルガの猫だっけか。
……おめーの飼い主、一体何なんだろうなぁ?
[それはヘルガの正体についてではあったが、一番かかっていたのは昨日ミリィが逃げた時の様子。草のカッターが向かってくるにも関わらず、何もせず、何も起きなかった。いや、何も起きなかった訳では無い。何もしなかったのに、”ヘルガには傷一つついていなかった”のだ]
[痛む喉に固き果実は辛くて、私は柔らかな実のなる温室へとゆく。
機鋼界の制御が狂いつつある中、たわわに実るは陽の麗人の恵みであろうか。
見た事なき果実の数々に目を丸くする彼の仔を、優しく導いて、辿り着くは紫と翠の垂れ下がる棚]
『いただきまする』
[唇の動きでそう告げて、豊かに房なすその実へと指先を伸ばす。
一房は食べられぬやもと思い、幾粒かを摘んで掌へと転がせば、彼の仔は興味深げにその珠を突付こうか]
[うろつく黒い猫の興味を引こうと、猫探しの時に鳴らす音を投げかけてみる。一度黒猫はこちらへと視線を向けたが、寄ってくることは無くまたうろうろ]
……飼い主が飼い主なら、ってことかね。
[嫌われていると認識したらしい]
[瑞々しい果実を食み、喉を潤して。血の匂いを嚥下する。
濡れた指先を舐めれば、彼の仔も真似をして前足を舐める姿に、仄かに目元を和ませようか]
[葉に包んだ土産を前足に抱いて飛ぶ姿を招きつ、私は翠の木立へと足を向ける。彼の仔に見せたき物がありしゆえに]
[風が緩やかに流れる。昨日より風精の数は少なく、元々このエリアに存在するくらいにまで落ち着いている。耳に届く声は相変わらずいつもより減っているが]
[リンゴを食べ終わり、流れる風を身に受けていると、小さな黒い影が目の前、立てられた膝の上に降り立った。それは対なる獣が連れていた鳥]
あれ、お前アーベルと一緒に居たんじゃ無かったのか?
[彼の者の下から逃げていたとは知らず、鳥に向かってそう声を投げかける。否定するように、ぴー、と鳴いた鳥は再び羽ばたき宙を舞う。眩しげにそれを眺めると、その先に影を2つ見た]
ん…ナタ・リェと、セレスティン?
[昨日オトフリートから倒れたと聞かされていた天聖の者。傍には機鋼の従魔の姿。2つの姿を見つけて、思わずその名が口から漏れ出た]
―果樹園―
[足を向けしは、私が種を植えし地。
なれどそこで待っていたは、小さな双葉でなく小さな若木。
不可思議そうに見つめる彼の仔の鼻先へと優しく触れ、次いで若木の萌える緑へと触れる。そなたと、こなた。そう告げるよに]
『そなたは まだ わかぎ』
『いずれは おおきくなり 実もなろうが』
『今は まだ まもられるが良い』
[彼の仔は幾度か瞬いて、小さく鳴いてみせた]
―厨房―
[オトフリートに何をどうしたのか聞かれれば]
お肉炒めて。野菜も入れて。見たことのあるハーブ入れて。
[見たことのある?]
黄色い調味料と、あれとそれとこれと…これを入れて。
[赤黄茶緑白。最後のが砂糖の壺っぽいのは気のせいか]
煮込み始めたところだよ?
[甘辛くてちょっと苦い。そんな代物になりかけていたが。
今ならまだ薄めて味を作り直すのも可能だろうか。
自分でも味見してごらんと言われればやっぱり硬直]
…おかしいなぁ。
[そんなこんなで徹底指導受けながら作り直し開始。
ちょっと不思議風味は残ったけれど、匂いも味もとりあえずカレーらしいものになった…かな?]
こっちのスープはどうすればいい?
[こちらはまだ味も何もつけていなかったから。
マトモなものが出来上がることでしょう。
陽光の精霊も作ってくれてるようですし。きっとちゃんとした食卓に*なるはず*]
[よっ、と言う声と共に木の根元から立ち上がり。ナタ・リェ達の傍へと歩み寄る。宙を舞っていた鳥もその後をついてきた]
よ、もう起きて大丈夫なんか?
[声をかけた相手が完全なる人型を保てぬ姿であるのを見れば、疲弊も大きかろうとその身を案じ。宙を舞っていた鳥はハインリヒの肩へと降り立つ。ぴー?と鳴いて首を傾げるような仕草をしたか]
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