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[駆ける間に、その姿は風となる。
蒼の風の狼へと。
ヴィント──『風』の名は。
遠い昔の第一の覚醒の際に、瞬間触れた、緋色の世界で。
父が自分を呼んだコトバだったかと。
今更のように、思い出しながら]
[傷口を縛られたことで、落ちる雫は少なくなってゆく]
ありが、とう、ございます。
[崩れかけた所もナターリエに支えられた。
もう何度目になってしまうだろう]
…は、い。
あの。下、恐らく、は。
あのまま、じゃ。
[マテウスの言葉にも切れ切れに答える。
遠く聞こえるのは狼の声なのだろうか。
正確に伝えられなくても、彼ならわかってくれるだろうか]
一人で背負い込んではダメよ、イレーネさん。
少し落ち着いて休んだ方がいいわ…
[今はそれは無理な話だとも思ったけれど]
何も聞きません、今は。
理由なんて、きっと本人にしかわからないと思いますもの。
[そして、本人にもわからないのではないか、と]
[木々の間、どれほど駆けたか。
やがて、森の中の異変が目に留まる。
雪の上、何かが引きずられたような、跡。
そこにつく、あかいあと]
……こっち、か?
[呟いて、その先へ。
血の匂いは、更に強くなり、そして]
は、ぁ。
[大きく、息を吐き出す。
白く染まった。
手袋を嵌め、上着を羽織り直す]
ん、……行きます、か。
[一歩ずつ、けれど、なるべく速くと急いで、歩みだす。
手を貸すかと聞かれたけれど、断った]
自分の足で歩いていかないと、いけないんだし。
それに狼の警戒、しておいて下さい。念の、ため。
[乱れる髪を掻きあげ、前をしっかりと合わせる。
寒いのは、気温の低さだけじゃなかった]
……あ。
[歩みが、止まる。
森の中の、小さな広場に横たわる、銀の身体]
…………。
[何と呼べばいいのか、一瞬、わからなかった。
余りにもたくさんの名前があって、皆違って。
畏怖を抱いたもの、苛立ちを覚えされられたもの、懐いてじゃれついてきたもの。
それら全ての源となるものがいる、とも聞いたけれど、それは知らなかったから]
……ブリス。
[一番呼び慣れた名を、そう、と紡いで。そっと、その近くによる]
大事じゃないなら、どうして探しに行くのさ。
[駆けていく蒼い狼。]
ずるいよね。
あんなに簡単に食べてしまって、平然としていられるんだ。
[ブリジットのほうは見ない。
あくまで淡々と紡がれる、幼い感情。]
ぼくにはきっと殺せなかったのに。
[小さく頷いたイレーネを見て軽く頷き返し]
聞かないでくれるのは助かるな。今そんなに余裕ねえんだよ
[といって、イレーネを抱え、ナターリエを伴い、一階。広間へと下ろし]
見てくる。シスター、イレーネ任すぞ
[端的に告げて、引き止められなければ外へと]
[歩みながら、考える。
誰が殺したのか。
集会場にいた人間に違いない。
アーベルのことを、どう捉えるだろう。
残りたい気持ちもあったけれど、そちらの方が心配で、何より、自分の身体がそう持たないのなんて、よくわかっていた]
本当に、……嫌になる、な。
[月のひかりは絶え間なく降り注いでいるのに、酷く遠い]
[生命が既に絶えているのはわかっていた。
答えがない時点で、それははっきりしていたから。
雪の上の、銀の身体。
それは、既に冷たくて]
……あは。
なんか……寂しい、な。
[小さな呟きが、零れる]
でも、さ。
俺は、お前がいて……お前らがいて、よかったんだ。
……色々、安心してたんだ。
だから……さ。
[広間へと降りて、イレーネを楽な状態で下ろすのを見届けてから、マテウスへと目を向ける]
はい、イレーネさんはお預かりします。
お気をつけて。
[何があるかわからないから、と付け加えて、マテウスを見送る]
[呟きは、緋色の世界の内に零れ。
そして、蒼狼は、そのまま。
その場で目を閉じ、体を丸める]
……さて……これから、先。
俺、どうしますかね、と……。
[死ぬ気はない、けれど。
他者を牙にかけたいと思いもしない、けれど。
システムに抗うために、ここから離れるためには。
どうすればいいのかと。
そんな事を考えつつ、その場でまどろむ。
戻るべきかどうかを決めかねているのもあるが、今は、唯一の同胞と*共にありたくて*]
[リディが何を指しているのか。][ぼんやりと、視界を広げればようやくそれが分かる。]
[蒼狼。近しい兄のようだった人。]
…アベル、は。
ヴィントは、猩を、グリズを、嫌ってた。
私は…。私は。どう、思われてたかなんて、分からない。
[他人の気持ちには元々疎いのも手伝って。][嫌われては居なかった、はずだけれども。]
[殺せなかったと、ずるいという幼く感じる感情には。][少し、考えて。][思い出しながら。][言葉を捜して。]
アベルは。途中で、大切なものを、望みを、変えてしまったから。
[平然としていたかどうか。][赤い世界での彼の様子は、口を噤んだ。]
[彼の心の中を。][代弁する事などできるはずが無かったから。]
[森を抜ける。
狼たちは、襲って来なかった。
白い雪の上に、点々と痕が残されている。
視界に焼きついて残る、赤]
……ブリジットの?
[それだけでは、ないように見えた]
[ナターリエに、頼んだ。と言い残し、外へと向かい、先程外から覗きみていたところに向かう。
雪の上には窓ガラスと、血が飛び散っていて、そしてその中央にミハエルが横たわっている]
…悪い…あそこで仕留められてたら……いや、もしもの話なんてしても仕方ないか
[悲鳴を上げる間もない、本当に一瞬だったのだろう
ミハエルの体は潰され、爪によってかところどころ抉れていて、その亡骸をそっと手で触れる]
[其処に滲むのは嫉妬心だったのかも知れないし、疎外感だったのかも知れない。
少女には初めてのそれが何であるかなど分かりはしなかったし、如何でも良かった。]
・・・ぼくがいなくたって、なんにも変わりやしない。
[森から眼を背け、足を踏み出す。]
知らない。
[ゆっくりと紡ぎだされるブリジットの言葉も、聞きたくないと*眼を閉じた。*]
…弔いは…明日まで我慢してくれ
[ミハエルを抱えあげようとして、また意識が霞むために、懐の短刀を腕に浅く突き立てた
その痛みに顔を顰めるが、意識はこれでもう少しもつだろう。
抱え挙げて入り口の近くまで運ぼうとしたところに、人影に気づき、そちらを見て]
ユリアンに、ハインリヒか
何していたのか知らんが、おかえり。で、今悠長に挨拶できる状態じゃないんで話があるなら集会所でな
[そういいおいて、入り口近くまでミハエルを運ぶ]
きを、つけて。
[ナターリエと同じように見送る。
というよりもそれしかできなくなっていた]
シスター。
…ありが、とう。
[衝撃の影響が薄れてくれば、意識を繋ぎ止めるだけでも精一杯だった。
失血、風邪、食事が取れていなかったこと。
心に引き摺られて身体を考えなかった代償。
そしてその心もまた、過度の負担を覚えていたから]
どうすれ、ば…。
[それでも必死に考える。
この後はどうすればいいのかと。
最後まで諦めないと言っていた人は、どうするのかと]
……ミハエルさん。
[ただいま、という言葉は紡げなかった。
間に合わなかったのは、ひとつだけじゃない。
金の煌めきを持った青年は、もう、口を開くことはない]
話、
わかりました。
[頷きを返して、ゆっくりと扉を開いた]
[そして倉庫に一旦行って、また戻り、ミハエルの遺体を布に包み]
ふぅ…さすがに…きつい…くっ…
[今更になって、ドゥンケルによって付けられた肩の傷口が傷みだす]
[イレーネが微かに呟く。
出血から見れば意識を保つのがやっとだというのに]
今は、ゆっくりと休む事が大事だわ。
そうでなければ、何も考える事も出来ないもの。
[微笑む]
[こんな時でも笑える自分が少し嫌になる]
…変わった事も、あったよ。
[でもリディは言葉を聞く耳は持たないと、顔も意識もこちらへは向けず。]
[彼女を殺したのは彼で。][結局の所それは、誰にも如何する事も出来なくて。]
[だから結局、自分が何を言っても仕方のないことだと。]
[無論、謝罪など。][口に出来るはずも無い。]
[それは彼女に、だけではないが。]
[どこからか、子守唄と、祈りの声が聞こえた。]
[目を閉じる。眠りはしないが。][声だけに耳は傾けて。]
…ふん…ここで倒れるわけには…いかんな
[そういって広間へと戻り
広間の面々に、ミハエルが亡くなったこと。
ブリジットが人狼だったこと、など、起きた出来事のみ端的に告げ
己の治療、する人間がいなければイレーネの傷口も治療し、*自室に引き上げるだろう*]
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