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[呟きは、緋色の世界の内に零れ。
そして、蒼狼は、そのまま。
その場で目を閉じ、体を丸める]
……さて……これから、先。
俺、どうしますかね、と……。
[死ぬ気はない、けれど。
他者を牙にかけたいと思いもしない、けれど。
システムに抗うために、ここから離れるためには。
どうすればいいのかと。
そんな事を考えつつ、その場でまどろむ。
戻るべきかどうかを決めかねているのもあるが、今は、唯一の同胞と*共にありたくて*]
[森を抜ける。
狼たちは、襲って来なかった。
白い雪の上に、点々と痕が残されている。
視界に焼きついて残る、赤]
……ブリジットの?
[それだけでは、ないように見えた]
[ナターリエに、頼んだ。と言い残し、外へと向かい、先程外から覗きみていたところに向かう。
雪の上には窓ガラスと、血が飛び散っていて、そしてその中央にミハエルが横たわっている]
…悪い…あそこで仕留められてたら……いや、もしもの話なんてしても仕方ないか
[悲鳴を上げる間もない、本当に一瞬だったのだろう
ミハエルの体は潰され、爪によってかところどころ抉れていて、その亡骸をそっと手で触れる]
…弔いは…明日まで我慢してくれ
[ミハエルを抱えあげようとして、また意識が霞むために、懐の短刀を腕に浅く突き立てた
その痛みに顔を顰めるが、意識はこれでもう少しもつだろう。
抱え挙げて入り口の近くまで運ぼうとしたところに、人影に気づき、そちらを見て]
ユリアンに、ハインリヒか
何していたのか知らんが、おかえり。で、今悠長に挨拶できる状態じゃないんで話があるなら集会所でな
[そういいおいて、入り口近くまでミハエルを運ぶ]
きを、つけて。
[ナターリエと同じように見送る。
というよりもそれしかできなくなっていた]
シスター。
…ありが、とう。
[衝撃の影響が薄れてくれば、意識を繋ぎ止めるだけでも精一杯だった。
失血、風邪、食事が取れていなかったこと。
心に引き摺られて身体を考えなかった代償。
そしてその心もまた、過度の負担を覚えていたから]
どうすれ、ば…。
[それでも必死に考える。
この後はどうすればいいのかと。
最後まで諦めないと言っていた人は、どうするのかと]
……ミハエルさん。
[ただいま、という言葉は紡げなかった。
間に合わなかったのは、ひとつだけじゃない。
金の煌めきを持った青年は、もう、口を開くことはない]
話、
わかりました。
[頷きを返して、ゆっくりと扉を開いた]
[そして倉庫に一旦行って、また戻り、ミハエルの遺体を布に包み]
ふぅ…さすがに…きつい…くっ…
[今更になって、ドゥンケルによって付けられた肩の傷口が傷みだす]
[イレーネが微かに呟く。
出血から見れば意識を保つのがやっとだというのに]
今は、ゆっくりと休む事が大事だわ。
そうでなければ、何も考える事も出来ないもの。
[微笑む]
[こんな時でも笑える自分が少し嫌になる]
…ふん…ここで倒れるわけには…いかんな
[そういって広間へと戻り
広間の面々に、ミハエルが亡くなったこと。
ブリジットが人狼だったこと、など、起きた出来事のみ端的に告げ
己の治療、する人間がいなければイレーネの傷口も治療し、*自室に引き上げるだろう*]
[ナターリエに小さくコクリと頷く。
見えた微笑に、どうにか小さく唇を笑みの形にして返す。
そして響いた扉の開く音にそちらを僅かに向いて]
あきら、めな…。
[だが一度認めてしまうと、崩れるのもまた早く。
誰が入ってきたのかも確認できないまま、音と光が一度*絶えた*]
[戻ってきたマテウスからミハエルの死を告げられる]
……あぁ……。
[予想できたことではあったけれど、それでもやはりその事実は重い]
[その場に座り込み、目を閉じ、祈る]
[もう、その祈りに意味があるのかさえ*解らなかったけれど*]
[惨憺たる有様だった。
ブリジットとミハエルは死に、マテウスとイレーネは怪我を負っている。
ただ、黙って、マテウスの報告を聞いた。
皆の疲労もある。
アーベルの事は、今すぐには、話せなかった]
[以前より更にぼやけた視界では治療の手伝いもロクに出来ず、その間に最低限の食事だけを取り、一度、階上へと向かった]
[リューディアの部屋に入ると、鴉は忠実に、そこにいた]
……ありがと、ザフィーア。
いてくれたんだ。
[クァ、][鳴き声があがり、片翼がバサりと羽ばたかれた]
[綺麗にさせられたリューディアは、本当に、眠っているだけにも見えた。
枕元には、赤い染みの残るバンダナ。かけられた毛布の下には欠けた肉体があり、二度と目覚めないと知っているのに]
なんでだろう、ね。
[ベッドのすぐ傍に膝を突いて、シーツに顔を埋める]
昔みたいな時間を、過ごしたかったんだ。
ただ、それだけだったのに。
[手を握る。やはり、冷たい。
寒さの下に晒されたゆえではなく、生命を失った冷たさ]
こんなふうにしてたら、笑われるかな。
[苦笑した。
今、浮かべられる笑みは、それだけだった]
ごめんね、リュー。
もう少しだけ、待ってて。
[そんな素振りは見せないけれど、疲労しているであろうザフィーアに手招きをする。肩に乗った鴉の黒羽を撫ぜる。
自室で荷物を取ってから、階下へと、再び下りた]
[イレーネの治療を終えたナターリエに話を聞いて、看病を申し出る。
断られても、自分が出来る事は数少ないからと、些か強引に頼みこんだ]
[眠るべきと理解はしていたけれど、なかなか眠れそうにはなかったから、その傍らで、袋を広げた。
ザフィーアは羽根を畳み、眼を閉じている。
優しくも寂しい月のひかりは、世界を少しだけ*明るく照らしてくれた*]
セロリですか
[シスターの言葉ににっこりと笑う]
[当然のごとく、使う品にそれが入ったことは言うまでもない]
覚えておきましょう。
[包丁を動かす]
[どさりと]
[音が聞こえて――口端が持ち上がった]
ええ。
お気を付けてください。
[彼女が二階に向かう]
[その時には笑みが消えて]
[手を止め、外を見る]
ミハエル君、死んでしまいましたか。
ご冥福をお祈りしますよ
[それから再び包丁を動かす]
[千切りにされたセロリとにんじん]
[スープにそれをいれ、塩コショウで味を調えた]
[食べない人はいるかもしれないが]
[それだけではなんだったし、手早く取れる食事を作る]
[じゃがいもを茹で、それをつぶしてポテトサラダ]
[つぶしていない分を細くおろして、たまねぎと一緒に硬くつぶす]
[チーズを一緒にしてそれを皿の上においておいた]
[誰でも勝手に食べるだろうと]
[広間に戻るとちょうどマテウスが戻ってきたときだった]
[話を聞いて、立ち上がる]
ああ、いえ。
食事を用意したので、食べて下さいね。
俺は…いえ、俺も部屋に戻りますから
[マテウスが自室に引き上げた後、そう言って広間を出た]
[外は寒い]
[そして自分の部屋に、入った]
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