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…がっ…!
お、のれ……護る者め…!
[飛び散った鮮血は己のもの。
毒となり得る銀による、二度の負傷。
分が悪いと、一足飛びに出入り口へと飛び退り、扉をぶち破って外へ逃げた]
[頭を振り立ち上がる。聞こえるのは悲鳴と、敬愛する主人の咆哮。]
―――――エウリノ!
[呼ぶ名はいつものものではない。赤い世界で囁いた真名。
傷つけられる人狼の姿に悲鳴を上げた。
ティルに飛び掛るユリアン、それを防ぐエーリッヒと、赤い壁、その明らかに特殊な力に、きっと睨み、小さく呟く。]
『守護者』…!
[だがそれも一瞬で。
外へと逃げた主の後を追うべく、他の人間がユリアンに気を取られている間、そっと入り口から外へと駆け出した。]
[おそらくユリアンの行き先は知れたが、その前に別の方向へと走り出す。
たどり着いた先は、もう一人の主だった診療所。
幸いなことに自衛団も居なかったのは、もうある程度中の調べが済んだからだろうか。今はしんとしていた。
窓やドアを一つずつ調べ、鍵のかけわすれていた場所を探し出して、そこから中へと入り、棚から見たことのある薬をいくつか取り出した。
ふと、テーブルの上に置かれた見慣れたメモに気づき、より必要な薬―痛み止めや傷薬など―を手にして、メモと一緒に持ち出した。
それから向かうのは、今朝まで居た工房。]
――!
[声にならない叫びみた物と共に、脈々と続いていた演説が途切れる。一時立ち尽くしてから、弾かれたように宿屋の方を見]
……、
[宿に向かって駆け出しかけたところで、勢い良く開く扉に反射的にか足を止めた。出でる赤に濡れし姿を少しく遠目に捉え]
[逃げる姿は獣の如く。
風のような勢いで村の中心部から逃げていく]
おのれ…おのれ…おのれ…!
俺の邪魔をする忌まわしき者め!
覚えてろ…次なる標的は貴様だ…!
[相手の力量を見誤ったことに舌打ちをし、立ち塞がったエーリッヒに憎しみを募らせる]
[駆けて辿り着いたのは己が一番馴染む工房。
僅かに息を上げ、ふらりとした足取りで中へ転がり込んだ]
……ちっ!
[狙いよりも浅い手応えに、舌打ち一つ。
追うかどうか、逡巡するものの。
どうせ村からは出られないはず、と思い直した。
何より、ユーディットをそのままには出来ない、という思いが強く、刃を下ろす]
……仮定は、あっていた……って事か。
[掠れた呟きが、零れる。
人狼が離れた事を察知してか、焔の気はゆるりと鎮まって行った]
[逃げていく姿を見送ってから、早足に、けれども途中からはゆっくりとした足取りで、宿屋へと向かい。破られた戸の前に姿を現す。そこから店内の様子を一望し]
……変容、が。
再び来たりしか。
黒き影は……一つでは、なく。
[ぽつりと、独りごちるように]
[銀による傷がずきりと痛む。
苦悶する気配が赤き世界へと漏れ出た]
あれ程の力を持つとは、侮っていた…。
だが次は手を抜かぬ。
あやつの心臓を喰らい、我が力としてやる…!
[苛立ちと殺気が入り混じる。
謝るゲイトの声が聞こえると、それらを僅かに抑えて]
謝ることは無い…。
これしきのことで負ける俺ではない。
次こそは、奴の血で華を咲かせてやる…!
[小さくため息をついた後、銀の刃を鞘へと収める。
刃に、先の朱は残ってはいなかった]
……ほんとに、君は……いや、君も。
無茶しか、しない。
[呟きつつ、倒れたユーディットの傍らに膝を突き。
顔に跳ねた紅の痕を、ポケットから出したハンカチで拭った]
……ブリジットか。
ああ、影は、一つじゃなかったようだな……。
[それから、やって来たブリジットの方を見て。
その呟きに、こう返した]
エウリノ…!
[工房の中に入り、血の匂いのする方へと向かって走る。
そこで倒れこむようにして体を休めた主への傍らへと座った。]
エウリノ、エウリノ、ああ…、こんな、酷い。
[片目と、左腕が、鮮血で染まっていた。左目は特に酷い有様で。
血を拭い傷口を水で洗い流す。]
ごめんね、痛いだろうけど、我慢して…
が、は…!
…ゲイ、ト…。
[傍らの気配に左眼だけで視線をやり、赤き世界での名を紡ぐ。
身体が毒が回るような倦怠感で支配され、その声も熱に魘されるようなものになる。
傷口を水で現れると、走る痛みに表情を歪めた]
…っ!
[悲鳴は上がらず、食い縛るような呻きが漏れた。
右眼は銀の効果により既にその機能を失い、ただ抉れた傷跡だけを残している]
エウリノ…。
ううん、だって、私は。
盾にならなきゃ駄目だったのに…。
なれなかった、エウリノを、こんなに傷つけられた。
………ごめんなさい…。
[謝罪しながら、届いた言葉には少しだけ震える。
傷ついたままで勝てるのか。不安で仕方が無かった。
だがこのまま傷が癒えるまでと、悠長な事を言っていられないのも事実だった。
エウリノの正体が露見してしまった。
ここにもすぐに手がまわるだろう。]
[まずは傷口の消毒、オトフリートの診療所から持ってきた薬を塗りこむが、銀の毒を癒す術はそこにはない。
すぐに、持ってきた荷物の中から古い小箱を取り出し、中から幾つかの薬を出した。]
効き目があるかどうか分からないけど…銀の毒を緩和させるもの、って。
[代々伝えられていたものの中には、万一主が傷ついた時の為のものもあった。それをユリアンの口元へと運ぶ。
右目に走る傷痕には、顔をゆがめた。]
…俺、は…お前が、傷付かなくて、良かったと…思った…。
[苦痛と酷い倦怠感で赤き世界の聲までが途切れ途切れになる。
少し休めば倦怠感は抜けるだろうが、怪我までは完全に治らない。
謝罪するゲイトの頬を、異形を戻した右手でゆるりと撫でた]
……さて、と。
これ以上、ここにいても、始まらん、か。
[小さく呟いて、ユーディットの亡骸を抱き上げつつ立ち上がる]
……俺は、自衛団の詰め所へ行って、今の事を話して来る。
それから、家に戻るけど……。
ティル、それから、ハインリヒさんも。
ここに泊まるのが不安なら、家に来てくれて構わないから。
……どうせ、部屋は余ってるし、ね。
[口調だけは軽く言って、宿を出る。
緑の瞳は静かで、そこにある感情は*読み取れずに*]
終わりは来たるか。望むべき終わりは。
望むべきでない終わりとは。
星の落下と同意に過ぎないのだよ。
[口調は話しかけるように言いながら、ユーディットの傍へと歩み寄り。たおれたその身体を見下ろして]
赤く。赤きモザイクは……もう。
欠片は連続となり。連続は集合となり。
集合とは何の集合か。
連続の集合だ。欠片の集合だ。
欠片は……
欠片は、纏まりによって腐食させん。
[呟く。声と表情は朦朧と]
終わりは集合を連続にせしか。
連続を欠片にせしか。
欠片を霧散させたるか。
そのどれでもないのなら。
そのどれかでもないのならば。
[エーリッヒによってユーディットが抱き上げられるのをただ見遣り。去っていく姿を眺め]
……恐ろしい事だ。
エウリノ…。
駄目だよ、私はあなたの僕なんだから…。
主様にこんな怪我させて…私…駄目だ…。
[内の血が騒ぐ。主を傷つけた事を罵るように。
撫でる右手に自分のそれを重ねて。
傷口に触れないように、胸の上に体を落とし臥せた。]
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