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[シャーロットの足が止まるのを見て、階段へ足をふみだしかける]
[だが、目はラッセルへと進むケネスを追った]
[否、ラッセルの手が燭台にのびるのを、見た]
――っ、ラッセル!
[制止の声で、止まるはずもない]
[男は揺れる炎が、台が、バランスを崩すのをみる]
[まさか外で、同じ動作をしようとしている人がいるとは、男は思わない]
[揺れる燭台はなんとか落ち着くかもしれないが、階下で止まったシャーロットは体を打っているのだ]
[緋がふわりと舞い、紅が溢れ、朱はゆらぐ]
[黒紅に三つのあかが入り込み、頭の奥がひどく痛むが、――今は死なせたくないという気持ちが先行した]
[実際にはそれは僅か数秒であったろう、]
[本当にその一瞬は、流れる時間(とき)がまるで粘性のある液体に変わったかのように]
[ゆっくりと流れ]
[男の遮る腕をすり抜けて、銀の刃が少年の胸に吸い込まれてゆくのを]
[ただ茫然と眺めることしか出来なかった。]
クインジー!来るんじゃない!!
貴方は生き延びるべきだ!
ここに来れば死ぬぞ!!
獣はもう1人居る!逃げろッ!!
[刹那、ラッセルが揺らした燭台に、視線が向かう。
燭台に手を伸ばし、その動きを止めようとした。]
血も御免だが、火事も勘弁だ……!
[床に崩折れた年若の同族の傍らに男は立ち尽くす。]
[男の意識は、
空白に支配されている。]
[それを現実に引き戻したのは、間近のギルバートの声であったか――]
[少女は立ち止まったその場から、ただ成り行きを見つめることしか出来なかった]
[不精髭の男の刃が赤の少年を貫く。階上で緋色が広がった。そして少女の滅紫の右目は更なる緋色を捉える]
……紅い華!
[終焉の使者であると示す、紅い華が赤の少年の骸で咲いていた]
[けれど既に終焉の使者の正体が割れた今、この力も大した意味を持たず。死の確実性を理解するだけのものとなっていた]
[気付けば近くにはクインジーの姿。赤の少年の死を感じ取り、どこか複雑そうな表情でクインジーの顔を見上げる]
[片手にナイフ、片手に燭台。
壁に片手を預け、爪先立ちという姿勢で、ナサニエルの身体の揺らめきを見つめる。]
……何だ。何が可笑しい……?
[揺れる炎のお陰で、直近の人間二人の意識は逸れているのだ、]
[震えて歪んだ唇を、裂けんばかりに嘲りの嗤いに開いた男が]
[目の前のケネスに切り裂く風のようなその腕を振るうのは造作もないこと。]
[獣化はしていない]
[唯の人の爪でも、振るう速度が並みのものでないのなら、それは鋭利な剃刀と同じ。]
[正確に頚動脈を抉り裂かれたケネスの頸から、噴水のように鮮血が噴き出した。]
[来るなと言われたからいかなかったわけではない]
[ケネスが倒れるのも見たと思ったが、さだかではない]
[シャーロットが叫ぶ言葉に、小さく息をついた]
なんだ?
[見た先の目は、色を変えている]
[複雑そうな表情に、男は少し口元をゆるめた]
……望んだことだ
気を抜くな
[かまいたちの如く宙を裂いた一撃を受け、ケネスの頸は赤い柱から放たれた無数の赤で染められてゆく。]
やめろ!やめろ……!
ネズミを殺すなと言っただろう……ッ!
[炎を壁に固定し、足を地に着け、目の前に居る「獣」の男を睨み付けた。]
[望んだこと。クインジーはそう告げる]
…うん。
分かってる。
[護りたいと思っていた少年が散ったから。クインジーこそ心中は複雑なんじゃないかと思った。けれど彼は冷静に状況を見ている。自分も気を抜いてはいけないと、気を取り直し視線を階上へと向けた]
──……。
[直後に広がる光景。無精髭の男が緋色に染まる。身構えるかのようにして、右手をケープの中へと滑り込ませた]
[意識はしっかりと階上をとらえている]
[誰を喪っても、手にかけても、男には動揺のひとつも浮かばない]
[声がふるえることも、ない]
――ギルバート、離れろ!
手負いを相手にするな!
イカれた顔をしている。
君は、まさに『魔王』だ。
人間が造り出す、化粧だけの『魔王』なんて、雑魚に見えるよ……
[溜息をつき、紅く染まった獣に、憂いの視線を送る。]
――…そうだね。
君達は選択を間違えた。
もしラッセルが、クインジーに泣きつけば、俺はクインジーと決闘する羽目になっていたかもしれない……
そう、ラッセル君は生き延びることができたんだ。
お兄さんが名乗り出ることも無かったろう……
――自ら破滅を望まなければ、ね。
せめて、
せめて、おまえたちを、同じところに送り込まねば、
俺がこの場所に居る意味が無い。
[最後は、歪んだ笑いの、声が震えた。]
駄目そうだ、クインジー。
彼に背中を向けても、彼の包囲網を擦り抜けようとしても、多分俺はデッド・エンド。間抜けすぎるオチだ。
――戦うしか無いみたいだね。
[身体の痛みを抑えるかのように深呼吸]
……クインジー、忘れたの?
終焉の使者を殺さなきゃ、終わりが来てしまうのよ。
相手にしないと言う選択肢は、無いわ。
[瞳はオッドアイから滅紫の瞳のみへと変じる。ケープに滑らせた右手はナイフの柄を掴み、直ぐに抜き放てる体勢へと]
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