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今更、正体なんて。
あの時、人狼の存在を疑ってたのに。
全部嘘だったのかな。
[酷く柔らかな呟き。
その柔らかさは、疲労がもたらしたもので]
…それなら、今からのお話は。
本当なのかな。嘘なのかな。
―二階個室―
[開け放たれた窓の向こう、空を見る。
僅かに欠け始めた月。
指に挟んだものはただ灰と化してゆく]
はい?
[ノックの音に応えを返す。
右手の中身はそのまま火を消して、扉へと向かった]
― 集会所一階・厨房 ―
[用意を終えて、また一つ息を吐く。
ポットを二つ。カップは七つ。
初めに来た時に比べれば、随分数が減ったものだ]
ゼルギウス。
[一見普段通りの相手が淡々と語る。
正体という言葉に眉は寄ったが、結局コクリと頷いた]
分かった。
窓閉めてくるから、先に行っててくれ。
[去ってゆく足音。
小さな溜息を落として中に戻ると窓を閉めた。
冷ややかな光に背を向けて、ヨハナの部屋へと向かう]
/*
っつーか、今回、聖痕者が、というか、村側能力者が狼側に惹かれてないんだよな。
村側能力者は、初期縁故ナシのエーファ以外全員赤と縁故あったにも関わらず。
……ところで、なんで聖痕喰わずに残してあるんやろ?
本気で、そこがわからん。
[ふ、と息を吐いて。口を開く]
ううん。
あたしは、あたしが信じたいことを信じるだけ。
エーリッヒは人。
花の二人も人。
あたしと。兄さんと。ヨハナ様と。薬師様。
選択肢はたったのそれだけ。
あたしが諦められる順番なんて、決まっているもの。
生きててくれれば、良いな。
一緒に帰れると良いな。
そこまでは、望めないかもしれないけど。
せめて。
せめて、壊れないでほしい、かな。
[ヨハナの言う正体とは一体何なのか]
[僅か興味は引かれたが、それが何であれゼルギウスには関係無かった]
[誰が人狼であるかなどと言うことも関係は無かった]
[今望むのは、不要物の廃棄のみ]
─二階・ヨハナの部屋─
婆ちゃん、全員を呼んできたよ。
[部屋に入りヨハナに告げる]
[そのまま寝台の傍にある椅子へと腰掛け]
[全員が集まるのを待った]
[ナターリエを運ぶ前に拾っていた、箱の聖銀と。
エプロンに入れていた折り畳みナイフ。
その両方を服にしまって、身支度を整える。
ぱたり。
部屋の扉を閉じて、ヨハナの部屋へと]
―→ヨハナの部屋―
……。
[皆が集まってくるまでのちょっとした間。
そして、その後に来る終わりを迎えるのを、老婆は異様なまでに静かな感情で待ち望んでいた]
[老婆は、今の自分はとても危ういと思っていた。
一度死に掛けたせいなのか。それとも、狂信者となる元凶となる腹を傷つけたせいなのかは分からないが、少しずつ、自分が人狼のそばにあるべき人物ではなくなっていることに気付いたからだ。
もしも、完全に人狼からの呪縛を断ち切ってしまったのならば、人狼にとって、これ以上にひどい裏切り者はいない。
内訳を全て知ったうえで、人間につくものは、もはや、狂信者ではなく、ただの狂人。最悪の存在だ。
だからこそ、人狼の呪縛が断ち切られる前に全てを終わらせなければいけない。
老婆の最後の気まぐれで、「あの子」の頑張りを無にするわけにはいかないのだ]
……ん。
[生ある者たちの動き。
未だ、月を見ていた暗き翠は一つ、瞬き]
……動き出す、か。
[呟いて、その場へと向かう。
ただ、見届けるために]
[階下向かおうとした時、紅茶の香りが漂ってきた、広間から姿を見せた探し人の姿に、子供はほっと息をつく]
ウ……
[名を呼ぼうとして、子供は思いとどまった。そのまま、くるりと踵を返して早足にヨハナの部屋へと向かう]
ウェンデル。
[ヨハナの部屋の前。
トレイを持った青年と先に出会った。
乗せられているカップは全て揃っている。
そう。欠けたカップより、欠けた人の方が多くなってしまった]
どうぞ。
[扉を開けて、促した]
……。
[皆が集まると、老婆はゆっくりと全員の顔を見つめて、そして、重い口を開く]
……みなさん。
このばばの話のために集まっていただいてありがとうございます。
[まずは、そう言って、頭を深く下げた]
もう知っているとは思いますが、ベアトリーチェお嬢ちゃんは人狼です。
……それは疑いようのない事実。
彼女がいつ、どうやって、人狼になったのかは私にも知りません。
けれど、それよりも、もう一つの大事な事実を伝えなければいけません。
人狼は……もう一匹います。
それが―――。
[老婆は、皆の目を同時に見つめ最後の言葉を口にした]
[小さな音に顔を上げると駆けゆく影が見えた。
僅かに疑問は抱けど、追求することはなく。
足取りはゆっくりと、ヨハナの部屋へ歩んでいった]
私が……残った最後の人狼なのです。
だからこそ、私はベアトリーチェお嬢ちゃんの正体を知っており、そして、皆の真意を問うようなことをしていたのです。
―――単純な答えでしょう?
[老婆は疲れたようにため息をついた]
……本来ならば、最後まで抗うべきなんでしょうけど、私はもう疲れてしまいました。
人狼とは言え、若い命が散る姿は、もう見たくないのです。
やはり、最初に言ったとおり、老い先短い私が最初に死ぬべきだったのです。
ですから……もう、終わらせましょう。
私の、命を絶つことによって、全てを。
[そこまで言うと、老婆がもう一度皆の顔をゆっくりと見つめる。
穏やかな微笑をたたえながら]
…エーリッヒさん。
ありがとうございます。
[感謝を述べ、促されて中へと入る。
眠っていたはずの子供は既にそこにいて、ならば、先程のはそうか、などと思う。逃げた理由はわからないが。
部屋に入り、卓上にトレイを置いた]
[ヨハナへと、紅茶を注いだカップを渡そうとしたときだった。
彼女の言を聞いたのは。
手が、動きが止まり、金の眼差しが老婆を見据える]
誰か……私に止めをさしてはくれませんか?
一人で勝手に死ぬのも結構ですけれども、それでは、信用できないでしょう?
恨み、憎しみ、悲しみ、苦しみ。
全ての感情を、私にぶつけなさい。
私は、貴方達を恐怖や怒りに満ち溢れさせた人狼なのですから。
憎悪に任せて殺すには充分すぎることをしているでしょう?
だから、手加減も、後悔も、何も思わない、ただの虫けらを殺すのと同じように、私を、殺しなさい。
投票を委任します。
物識り ヨハナは、傭兵 マテウス に投票を委任しました。
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