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ナターリエ、守れなかった。
あたしも、何も出来なかった。
[謝罪の理由を、ぽつりと告げる]
あたしにはナターリエを止められたかも、知れないのに。
[ナターリエに被せたエプロンを引いて。
そのポケットから、昨日渡された小箱を取り出す]
…。
そう…か……。
聞いて悪かった…。
[エーリッヒの言葉に沈痛な面持ちで応えた、
エーファの言葉は耳に入り]
他にも…?
[そういえばベアトリーチェはどうなったのだろうか?
ゼルギウスが抱えてつれていく姿は見えて]
ベアトリーチェは人狼だったのか?
彼女、ゼルギウスが連れて行ったみたいだったが…?
[問いかけながら視線はエーリッヒに向いたまま]
─護りたいものはもうここには無い。
─護りたいと思った者には裏切られてしまった。
─俺を必要としないのなら、もうイラナイ。
──イラナイものはコワサなきゃ──
……答えは、一つか。
[蒼花の宣。
暗き翠は、静かに、現世を見つめる]
……家主殿……。
[六年前も、今も。
人狼と、強き縁を持たなかった自分。
親しき者の中にそれがいる。
その只中にいる、家主の胸中は、知る術もなく。
色彩は微か、陰った]
[俺は馬鹿だ。
死んでからそう気付いた。
狼を告発する以上に大切なことを忘れ
少しでも少ない犠牲にとどめるために使うべきものを
守るべき人たちを守るのがおのが義務であることにも気付かず
ただ猟犬のように本能に忠実に振る舞ったその結果
真に告発すべきものを見逃してしまった]
[渦巻く疑惑。信じたくない。否定。
老婆は未だ眠りの内に。
ゲルダとは共にライヒアルトの死に出会った。
感情を表に出さないことの多い彼女。相当な演技でないかぎり、あんな反応にはならないだろう]
あ、ぁ。
花の持ち主が言うんだ。
見極める者ほどの確証はないけれど、多分…。
[向き合う視線。翠は半ば恐怖の色に染まって]
ふぅん、そういうのが残ってるのか。
[ライヒアルトが告げた者等。
その事実は今入れた。]
もっと早く聞いておけば、色々と良かったんだろうな。
…さて。どう動くものやら。
ああ、悪い。あの場に居た『人間』を刺す訳にはいかなかったからな。
見分ける能力なんかあるはずないから、うっかり人狼を人間と判定するとか迂闊な事をしでかしたら、爺様に呪われる。
おっと悪い。ライヒベルトだったか。
[惜しい。]
そういう問題だと思うが。
生きているうちにやれる事はやっておきたかった。
いつ死ぬかなんて、誰にも分からないんだからな。
[それは沢山の死を見、墓を守っていた故感じたものか。]
[白の残滓が乾き消える頃]
[ようやくゼルギウスの身体が動いた]
[視線を落とした先には紅で汚れた服の端]
[着替えなきゃ、と考えて]
[開け放したままの扉の外へと足を踏み出した]
─ベアトリーチェの部屋→二階廊下─
[エーリッヒの応えに]
じゃあ、彼女を殺せば…終わるのか……?
[思わずつぶやいて出た言葉。
まだ、ベアトリーチェが死んだことは察していない様子だった]
………でも………
[子供は、朱花の主を見つめる。ガラス玉の瞳が一瞬揺れて、すぐに伏せられた]
一緒に、いては、だめ?
[彼の意志を問うたのは、初めてのことだった]
……ま、確かにそうとも言うが。
[呟くように、視線は、猫へ。
触れられる距離の、届かぬぬくもり]
……ライヒアルト、だ。
[再び、訂正]
生きている内に、というのは、否定はせんよ。
こうして、彼岸に身を置けば、何一つできる事はない。
……ただ、見届けるのみ、だしな。
[それでも、それが己が役割と、理解するが故か。
その事自体を厭う事はなく]
[自分が短慮を起こさなければナターリエは死なずにすんだだろうか?ライヒアルトは?
自分が追いつめなければゼルギウスはああまで狂うことは無かっただろうか−
最早生者の世界に干渉はできぬ。
嘆くゲルダ。おそらく、彼女の嘆きは……さらに重なることになるであろうと思われた。
その嘆きの大きな原因の一つを作ってしまったことにいかに歯がみしてみても、最早取り返しはつかぬ]
いや。
ベアトリーチェは、死んでいた、よ。
[終わるのか。終わって欲しい。
正確な知識があるわけではない。心が逃げようとする。
信じたくない。信じたくない。信じたくない]
終わるかな。
終わってくれた、の、か…。
[だがもし彼が人狼だったら。
もしも彼女が人狼だったら。
決めたはずの覚悟は既に砕けてしまっていた。
今すぐに新たな覚悟を決めることは。出来かねた]
…ゲルダ、どうしたの?
[小さく頭を振る。
そしてゲルダが何かを取り出しているのに気がつくと、そちらに声を掛けた。結論を出すのを厭うよに]
……ん。
[ふと、感じた気配。
対なる力の波動は微かに]
……レーネ?
の、訳はない、か……。
[わかりきった自己完結]
イヴァン。
いるのか?
[子供は、首を傾げる。ウェンデルの問いに込められた意味は、子供には理解できないものだった]
わからない………
[だから、そのままを答えた]
ん、覚えた。
[でも多分すぐ忘れる。
どうにも、親しい以上の人間の名を覚えるのに、そうとう時間がかかるようだ。それとも単にライヒアルトだけか。]
…その通りだな。
[行った事に後悔はしていないが。
嘆きはちりと胸に刺さった。]
……泣かせて、ごめん。
[小さく小さく囁いた。]
…違うよ。
あたしたちは、これを終わらせなきゃ…いけないの。
[手の甲で眦を擦る。
薄らと、肌に滲む紅の色]
これ。昨日ナターリエから、預かったの。
何か有ったら割って、って言ってた。
[今思えば、間違い無く、彼女の死の覚悟の現れだったわけで。
床に思いきり、叩き付ける]
…教会のものだったって、いってた。
[廊下には二つの姿]
[青灰と金]
[その内の金の姿を見て、口端が持ち上がった]
…ウェン君。
[紡がれた声は常のもの]
[けれど浮かんでいた表情は]
[ベアトリーチェに向けたものと同じ]
[狂気を含んだ微笑み]
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