人狼物語 ─幻夢─

91 白花散る夜の月灯


湯治客 アーベル

―騒動の後に―

[その雪を踏んだのは、マテウスから遅れて数時間。
既に空には宵闇の迫るあかい夕方。
躊躇いは数秒のようで、数分のようで。
ぎゅ、と口内で歯を噛み締め、数日振りの宿の扉を開く]

[そこに居た二人は今も涙を落としていただろうか。
そうでなくとも気を落としているのは明確で]

…………、

[何を言おうか考えて居た筈なのに、あっという間に手の届かないところへ思考は飛んでしまう。
幾つも、何度も、唇は震えるように開いて、紡げずに閉じて]

……ごめんなさい、…………ごめん、なさ……ッ

[漸く落とせたのは嗚咽混じりの謝罪。
帰れたのが共にで無かったこと。自分だけが帰れてしまったこと。
想いは数多に在れども、零せる言葉はひとつ限りのまま]

(800) 2014/01/20(Mon) 22:40:03

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