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―二階個室→広間―
[やはり未だ身体が弱っているゆえか、目を覚ましは陽も高き頃。
僅かなりと身体は回復せしか、辛うじて隠せし角に安堵の息を吐く。
厨房に残りし料理の、野菜のみのポトフをいただいて。
消えてしまいし陽の麗人と、風の御仁を想い心は刹那沈みゆかん]
[やがて食事を終えれば、私は身を清めると告げて、藤の羽竜を連れて温かき泉へと向かう。
酷使したままの脚は、薬効も切れて既に棒の様。
いざと言う時、せめて彼の仔や眠りの羽竜を連れて動けるようにと、温泉が効能に縋ろうか]
[彼の仔が来たいと望むなれば、少し困りつつも頷いて。
来ぬであらば、脚の古傷を知られぬことに安堵するであろうか。
傷を隠せし白金の花模様の輪は今はなく、獣たれば体毛で見えぬそれは、裾で隠さねば容易く知られてしまうであろう故に]
―温泉―
[脱衣所に残されし亜麻色の布を見つくれば、姿消えし優しき彼の猫を思い出し。かつての時の、地の獣らとの遣り取りも今は懐かしく思えよう。
纏いし白金の衣と亜麻色のそれを洗い干し、私は静かに胸まで温泉へと浸かる。
傍らに在るは、柔らかき布を敷き詰めた籠に眠る藤色の影。
昏々と眠る様子を眺めつつ、布が乾くまで――傷が和らぐまで――私は小さな声で柔らかく歌う。
小さな生き物達と戯れし時、好んで口ずさむ歌を]
「ピィ」
[歌に合わせるよに一声鳴いて、舞い降りしは黒の鳥。
上空を旋回し、舞い降りるは何処なりや。
次いで聞こえしは猫の声。
歌に惹かれたか、主や白の猫の痕跡を探しに来たかはしらねど、側に来たらば指先で優しく撫でようか]
―温泉―
[温もりと潤いと。
ふんわりと包まれている感触。
優しい歌声が聞こえる]
ん…。
[まだ重い瞼をゆっくりと開く。
何だか視界が何時もと違うような]
『あれぇ…?』
[ぼんやり。湯気の中]
[藤色の羽竜が瞼を開けたのを見、私は安堵の息を吐く。
途切れる、歌。
黒き鳥は再び高く舞い上がり、黒き猫は籠を覗く]
……お目覚めなりや?
[問う声は、案ずるよに]
『ナタ・リェさん?』
[聞こえた声の方を見ようとして。
先に視界に入ったのは黒猫の姿。
…なんでこんなに大きいのだろう]
『シシィ?』
[思考は纏まらず、疑問は浮かんで消えるだけ]
『おはよう』
[微笑。といっても見た目では分かりにくいのだろうけれど。
聞こえた言葉にそう返して。
未だ夢現]
[藤色が羽竜は、未だ夢現。
鳴くように口を動かす様子に、私は仄かに目元を和ませる]
…なれば、今しばしの眠りを…
[私は途切れた歌を再び口ずさみつ、乾いた白金の衣を身に纏う。
やがて亜麻色の布を肩に掛け、籠に眠りし藤色の影を手に、共に来る者あらば共に広間へと*戻るだろう*]
『…うん…』
[覗き込み手を伸ばしてきた猫にもされるがまま。
流れる歌声に気持ち良さそうに目を瞑った。
籠の中揺られながら、再び夢なき夢の*中へ*]
─廃棄エリア・第一集積所─
[状況を整理するために考え始めて、どのくらい経ったか。いくら経てども繋がれた陽光の精は同じ場所には現れなかった]
どうやら設定ミスだったみてぇだな?
[軽くユーディットへと言葉を向けて。痛みが引いた身体で立ち上がる。特に目的地を定めず、一通り回ってみようと今居る場所から出て行った]
―第一集積所―
…――ふむ、こういう事か。
[数時間を掛けて地下の構造をぐるりと見て廻った後、
見覚えのある開けた場所を目にして、一つ言葉を零す。
どうやら再び、最初に落ちた場所へと舞い戻ってきたらしい。
勿論、巡る途中に強制排除の名目で襲い掛かって来た
ドロイドの幾つかにも遭遇したが、――遠慮無く不能にさせて頂いた。
休憩とばかりに先程スクラップと化した鉄屑一つへと腰掛けると、
ふわ、と。一羽の鴉が肩へと止まる。]
……此処は随分と興味深くも在るが。
聊か、静か過ぎて心地悪いよ。
[小さく、苦笑を零す。――命の声も。魂の声も響くことの無い]
あの幼き仔は、この静かな場所を喜ぶのかな。
「…エテルノ」
――冗談だよ。
[咎める様な声に、溜息混じりに言葉を返して。蒼を僅かに伏せる。
動きを止めた命の無い鉄塊に、さらりと灰銀が流れた。]
…さて。もう暫し休憩したら。
遣るべき事をやろうか。
[折角此処に来たのだからね。囁くように呟いて。
――何かを想う様に、ゆるりと視線を上へ向ける。]
[第一集積所の出入り口から顔を出してきょろきょろり。ドロイドの存在を確認する]
出来るなら、遭遇することなく移動したいんだが。
[ドロイドが居ることはユーディットがちょろりと漏らしていたために知っている。しかし面と向かってぶち当たるのも面倒だなぁと、居ない隙を狙って移動したいらしい]
…力繰りにくいっぽいしな。
[自分が使うのは精霊魔法。風精が居なければろくに力は使えない。ここにはあまり居ないように思える]
――…おや。
疾風の御仁、何処かへ?
[周囲を見回す相手に気付いたのか。
鉄塊の上から小さく喉を鳴らして、その背中に静かに声を掛ける。
ふわりと床へ降り立つと同時に、ふわ、と鴉が空へと離れ]
[声をかけられ、意識をそちらへ]
ああ、ここがどんなもんなのか見てこようか、とね。
ただドロイドに会うのは嫌だなーと。
どうにもここには風精が少ないようなんでね。
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