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己を失って、
違う誰かに奪われるのは厭だ。
[忌避の感情。]
生憎と。
“彼”は話し合いの出来ない「子供」だったから、無理な話だね。
最初から、僕が“僕”として居られたのなら、
違ったのかもしれないが。
今更言っても、仕方の無い話だよ。
[鈍い光を抱く翼]
[窓を開け放ち]
幾ら壊れゆく世界とは言え、狭い場所で暴れる気は無いよ。
[外へ。]
……翼。
[ふと、ここに来た時の機鋼王との会話を思い出す。
あの時点ではまだ、『器』に翼はなかったと]
『器』の意思と同調……その翼は、『器』の望みか?
[もしそうだとしたら。
『器』の望みは、自身が幼き日に抱いたそれと同じなのだろうか。
飛べぬ片翼に嘆き、飛翔を望んでいた頃の]
……どっちが願ったにせよ、どっちが呼んだにせよ。
結論がそこなら……俺は、それをやるだけだ。
[零れたのは、決意の呟き]
『魂』なき『器』に願いがあるかなど、
――知らないよ。
ただ、或いは、……呼応したのだろう。
[自由になりたいと、願ったが故に。]
[しかし、それは口にせず]
[鋼鉄の翼]
[飛ぶ事など叶わぬと思われるそれ]
[けれど、]
[読み込んだ記憶(データ)]
[風の流れに働きかけて]
[それをも可能にする]
[ちからそのものは無き故、]
[長くは持たねども。]
奪われる、とは、かぎらねぇだろうに。
[忌避への呟きは、どこか呆れを感じさせ]
……ま。子供云々以前に、『魂』が入ってねぇからな。
本能だけの存在に、話し合いを求めたのが間違いか。
……機竜卿も、大概読みが甘いんだよなぁ……。
[ぼやくよに呟いて。振り返るのは、傍らの『魂』]
セレス。界を支えるの、できるか?
「……うん。時空竜……」
心配すんな。
[笑って。視線は刹那、優しき麒麟へと向くか]
[短い空白。
視線はそれて]
……さて……んじゃ、行きますか、と。
[ばさり、と音を立てて開くは真白の翼。
草原へと向かった鋼の翼を追い、空へと]
セレスを心配させたくないなら…痛い真似はしないでくださいよ。
[翼持たぬ身で、彼等の後は追えない。ただ、届くかどうか判らぬ言葉を投げて]
[「『器』の意志は、即ち、僕の意志」
私は鋼の翼を背にした青年の言葉に、僅かに瞳を揺らす]
[『器』が今在るは生まれる前の卵。
穏やかな母なる揺り篭。
内なる竜の見る夢は、空であったのだろうか]
……生まれてすぐ…飛び立てはせぬであるに……
[彼の仔の練習を重ねし姿が、脳裏を過ぎる。
無垢なる器はそれを知らず、ただただ純粋に求めしやと]
……、
あまり争い事は得意じゃなかったのだけれどね。
すっかり、得意に「させられて」しまった。
[ぽつり、呟いて]
[それでも、緑に立つその姿は無防備に見える]
[相手が向かい来るを待つが如くに]
[自由を求めた。
…どこかが小さく痛んだ。
分からない思いではなかったから。けれど]
『…でも』
[優しき手の持ち主を一度見上げる]
とはいえ、じっとしてるのも芸が無いな。
麒麟殿、セレスとブリジットを頼みます。
[窓へ向けていた視線を麒麟に向け、にこりと笑って、腕の中の小さな竜の頭を撫でる]
[舞い降りた、先。
唯一着いて来た、魂分かつ白梟が傍らを離れ、空へ]
……させられた、って何ですかと。
どうにも君は、『自分の意思』ってのが希薄に思えるんだけど、ねぇ……。
[呟きつつ。待つが如し様子に、一つ、息を吐く]
…………。
[距離を開けるか、それとも詰めるか。逡巡は、刹那──]
……いずれにせよ。止めさせてもらうっ!
[声と共に、漆黒の光鎖が舞う。
地表すれすれを、蛇行しつつ、伸び。
相手を捕らえようと]
[私は彼の仔の傍らへと進み、飛び立つ背を見送る]
………
[言葉なくその頭を撫でようとして。
手を動かさんと視線を落とせば、見上げる貴紫と目が合おうか]
[掛けられし雷精の声に、私は顔を上げる。
向けられるは笑みと、彼の仔らを任せられし言葉]
…ええ。
そなたも…お気をつけて。
[手の内の竜を撫でる手を見送り、私は壊れし窓辺から外へと出る。
全てを見届ける為に]
―屋上―
[安定を欠いた空は、風と嵐を呼んでもいようか、その力で呼びよせるまでもなく、遠く雷鳴の轟きが聞こえる]
ダーヴ殿、いただきますよっと!
[ポケットから取り出した、小さな機鋼の器、空に投げ上げるとその内に封じられた雷撃の力が弾ける]
ありがとう。
[小さく微笑みそう声に紡ぐ。
人姿を取っている時とは流石に違う響きだけれど]
ユリアンさんも、気をつけて。
[頭を撫でられれば少しだけ目を細めて。
手を振る…つもりで小さくパサリと翼を動かした。
窓から出てゆく姿を見送り。
戻した視線は、機鋼竜が心に向くか]
…私は今のを支えるだけで精一杯。
よろしくお願いします。
……奪われたからね。
[身を低くして、][右の手を地に触れた。]
" kbjcqh, p#bq, KQ. "
[干渉][再構築]
[隆起した大地が幾本もの太い槍と化して]
[光の鎖の行く手を遮り]
[その先に在る時空の竜へと伸びる]
[成果を見届ける間もなく、]
[地を蹴り横へと飛んで]
[脇から距離を詰める]
奪われたから、『何もない』?
……だったら、新しく作りゃあいいんじゃねぇのっ!?
[吐き捨てるよに言いつつ。
光鎖を止めた大地の槍がこちらに迫るのを見れば、鎖を握る右手を一度引いて、大きく振り。
横薙ぎの一閃で、それを打ち砕く。
オーバースィングの動きは隙も大きく。
接近は容易く許す事となるか。
砕いた破片が舞い散る中、右腕を大きく振り上げ、光鎖を手元へ戻そうと動くが、防御として間に合うとは思えず]
[小さく羽ばたく藤色の影に、私は僅かに安堵の息を吐く。
片手へと羽竜を乗せ、もう片方の手で彼の仔を撫でる。
界を支えるそれぞれへと、天聖が力はひそやかに力を貸そうか]
「うん」
[影精の言葉に、セレスは一つ、頷く]
「頑張るよ。
大事なもの、みんな。
護りたいから」
[返す言葉は、幼くも強き決意を秘めたもの]
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