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[ブリジットが身じろぎする気配を察すれば、そちらへと視線を移し]
おや。
噂をすれば、かねぃ。
良かったわねぃ。大地の。
もし、私がいなければ、いらぬ誤解を受けていたかもしれないですわよ?
[真面目に返されたというのに、冗談は止めない。それがナターリエという存在だから]
― 東殿・回廊 ―
< 剣の仄かな共鳴に従って進むも、複数の気配を感じて歩みを留めた。
何をするにしても、自分の立ち位置は酷く不安定だと知っている。
脈動を続ける天聖と流水の力を持った石を、そっと影で覆い、巻きつけた腕は黒布の下に隠す。
神聖なる光は、何れは影も打ち消すだろうが、その場凌ぎにはなるだろう >
―西殿三階結界前―
[養父たる人がこういう時に決して食事になるものを摂ろうとしないのは知っている。だから盆の上に乗っていたのは水と棗椰子の実、ただそれだけ]
ここを離れようとしないのにも意味があるのですか。
「…意味はある」
[直接の答えがあったことに逆に驚いた。
また沈黙が返るのではないかと、半ば思っていたのだが]
―東殿・氷破の部屋―
流水の……、
[頭を抑え、軽く振るった。
少しだけ、妙な靄が頭に掛かったままだったが、直ぐにはっとして]
ザムエル!
剣は……、剣は無事ですか――!?
[目が覚めたらしき、老地竜へと、半ば叫ぶように声を掛けた]
[先ほどまでは東殿に居たはずのアーベルの所在は今は知れない。
まだ夢を渡っている最中か、それとも西か。
声は伝わるかどうか分からないが、一応かけておく。]
アーベル、翠樹のは剣を持ってねぇみたいだ。
…誰かに渡ったかかね、こりゃ。
[オティーリエがベアトリーチェと交わした約束の詳細は聞いておらず。
現在ノーラの手に渡っている事も当然知る由もない。]
…ああ、それからエーリッヒの事だが。
あいつの怪我…というか、金属の腐蝕だな。
あれは俺には治せない。
おかげで生身の方に影響出て、ちと厄介な状態だ。
剣が鎮まるまで回復は見込めないらしい。
[淡々と告げる。]
ぬ、起きたか。
[身体を起こすブリジットに気付くと、己も上半身を起こした状態のままそちらへと視線を向ける。尚もナターリエが冗談を告げると]
…お主が居た方が吹聴されるような気がするのは気のせいかの。
[やはりじと目で返した]
「気は変わらないのか」
[向けられた視線に目を逸らさず頷いた]
「…仕方のない」
[嘆息と共に額へと伸びる指。
身体が熱くて熱くて、眩暈が止まらない]
「緩めただけだ。無理だと思うなら外さないように」
[皇竜の側近は感情の篭らない声で言うと背を向けた。
その言葉には何も返せず、ただ動けるようになるまで蹲って]
[やがて静かに頭を下げてその場を後にした]
― →中庭―
剣?
未だ不安定ではあるが、ここにあるぞぃ。
[左腕を掲げてブリジットに見せる。その左手首には黒き腕輪]
どうしたと言うのじゃ、その慌てようは。
―東殿・回廊―
[ふと感じた気配に顔を上げた。
僅かな違和感や違いに気づけるほど感覚は鋭敏ではない。
姿をみればそれは知った竜の気配だったかと、覆い隠されたものには気づかない。]
よ。
[目が合えば、ノーラにひらりと手を振った。]
何してんだこんな所で。
[それは自分もだが。まぁ気にしない。]
[ブリジットの様子に軽く眉を潜めた]
……氷の?
何かあったんですの?
[慎重に、聞き返してみる。
が。
ザムエルには一転軽く]
もちろん。吹聴しますわぁ。
ま。お互い無事に終われたら、という条件付ですけどねぃ。
―東殿・氷破の部屋―
[剣が無事な様子を見て、安堵の溜息を吐く]
よかった……。
[偽りも陰りも無く、心底ほっとした様子であったが。
老地竜から不思議そうに尋ねられると]
……まだ貴方が倒れている時、アーベルがこの部屋に来たの。
抵抗したんだけれど、眠らされてしまって……。
狙いはきっとそれ……、
[そこまで呟いたところで、違和感を感じた。何故、取っていかなかったのだろうか、と]
─西殿・中庭─
[水鏡は、剣を巡るやり取りを映し出す。
それを眺めていた所に感じた、気配]
……ん。
[振り返る、視線の先にはエルザの姿]
よ。外、見にきたん?
―東殿・氷破の部屋―
[どこか慎重に聞き返してきた流水の者には]
……今言ったとおり、なんだけれど。
部屋に来る間に、あの仔を……アーベルを、見なかった?
[どこか悔やむように、心配するように、ナターリエへと尋ねた]
ああ、それから。そのエーリッヒからの伝言だ。
『バランスを欠いた剣は、強い願いを感じただけで間違った方向に発動するかもしれない』、とさ。
ついでに、持ち主でなくても触れた竜にも影響が出るらしい。
エーリッヒの腕の腐蝕は、それでだ。
[言葉と事実をほぼそのまま伝え。
何かしら答えが返るまで暫く沈黙した。]
― 東殿・回廊 ―
……クレメンス。
< 視線が合う。振られた手は見ず、その目を見詰めていた。
翠樹の仔竜から直接名こそ得られなかったものの、随行者に選ばれた面子を考えれば、推測はついた >
ブリジットを騙そうとしたのは、なんでだ?
お前も、願いがあるのか。
< 唐突な問い。
いつか交わした、短い言葉を思い出した。
願うだけでは変わらない、と >
─東殿・ブリジットの部屋─
せんで良いわっ!
[ナターリエの言葉には一喝。お互い無事に、と言う言葉には同意せざるを得ないが。
溜息の後に視線はブリジットへと向かう。見えたのは、真に安堵する姿。しかし続く言葉に驚き目を見開く]
なぬ、アーベルが…!?
何と言うことじゃ…全く気付けぬとは。
[目覚めることが出来なかった己に苛立ちが募る。しかし浮かぶ疑問はやはり]
狙ってきたのじゃったら、何故奪って行かんのじゃ。
目覚めぬ儂から奪うは容易かろうに…。
―西殿・中庭―
ハイ。
[ティルに答えた声は最初、少しだけ引っかかった。
額の刻印は今やハッキリと白く浮き上がり、それは髪に隠れた顔の左側面にまで及んでいる。焔竜が居れば思い出すだろうか。百年程前までは普段からそうであったことに]
どうにも落ち着きませんので。
[それは仮初とはいえ、奪われたとはいえまだ完全には切れていない契約が教える、二振りの剣の不安定さでもあり]
あちらは、現在どのように?
[額の刻印。
それに、軽く瞬いて]
落ち着かないって……あー、力、不安定なんか。
[直接はわからないものの、その辺りは察しがつき]
取りあえず、爺ちゃんの持ってる剣は無事みたいだけど。
もう一本は、どこにあんのかわかんねぇみたいだな。
―東殿・氷破の部屋―
……多分、だけれど。
私が施した"封印"が作用していたからじゃないかしら。
[少しだけ悩ましげに呟く]
ただ、上級封印式とはいえ……
力ある竜なら、時間が掛かったとしても無理やり解けるだろうから。
時間が無かったのか、それとも……。
[唸るように考え込む。そこで、再度ハッとして、辺りを見回した]
―東殿・回廊―
[ノーラがどこまでこちら側…つまりは揺らされたものの事を知っているか、知りはしなかったが。
オティーリエが引き込めるかもと、以前言っていた事は覚えている。
そのあたりから事情は知れたのかと、朧気に予想し、へらり笑い返した。]
あんまり皆でダーヴィットを信じてたもんだから、一石投じておいたのさ。
疑われるならそれもまた良し。
俺の口から出る嘘で混乱でもしてくれればと思ってたんだが。
……思った以上に信頼されて、俺のほうが驚いたわ。
竜がいいというか何と言うか。
他言されなかったのは、ちと想定外だったな。
[笑みには呆れ、というよりは苦笑のようなものが混じる。なかなか上手くいかないもんだね、と。]
…俺の願いか。何だと思う?
[常の軽薄な笑みを湛え、ノーラを見据える。]
……いいえ。私もついさっき起きたばっかりですから、見かけてはいないですわねぃ。
[そんな言葉を返しながらも、頭の中ではめまぐるしく思考が動いた]
(―――言葉通りに受け取るのならば、アーベルとブリジットは仲間ではない。つまり、ブリジットは揺らされているわけではないということ。
けども、口裏を合わせて、こちらの隙をうかがっているということも考えられるかしらねぃ。
……どちらも考えられなくも無い、か。
しかし、ブリジットがそうならば、精神、影、生命、氷。
こちらは、水、大地……後は、機鋼くらいかしら。翠に期待できない以上、どうしようもできない。
……ふぅ。駄目元ですわぁ。言葉通り信じるしかなさそうですわねぃ)
―――ふむ。
つまりは、ブリジットはアーベルの味方ではない、ということですわねぃ。
……氷のを眠らせたときの余波が、大地のにも来たせいじゃないのかしらぁ?
大分、疲れていたようですしねぃ。
[ザムエルが目覚めなかったことの訳を、ナターリエなりに解釈してみた]
……輪転が遠いと言っていた。
< 話を聞き終え、ぽつりと呟いた >
それと関係があるのかとは思うが。
確証は、ないな。
永きを生きるのに飽いたか?
< 飾りを持たない左手で己の髪を梳いて、視線を落とす >
知れば知るほどに躊躇いは生まれるのにな。
知らなければ、単純に、お前らを悪とすることが出来た。
……願うことをしようとも思わなかった。
中:
ちなみに正しい答えは期待してなかったり。<おいさんの願い
ぶっちゃけおいさんにも本当の所わかってないんだよね!(まてや
そうですね、私自身も。
…恐らくは剣も。
[そうでなければどうして養父でなく自分に託されただろう]
そう、御師様は無事なのですね。
[実情は無論知りようもなく。僅か安堵の息が漏れる]
ええ、この中には持ち込まれて居ないようですから。
オトフリート様は、どなたかに託されたのでしょうね。
[その名を呼ぶ時には、少し肩が震えた。
もう一人の「干渉されたもの」が誰であるのかも未だ知らない]
―東殿・氷破の部屋―
そう……。
[ナターリエの言葉に、微かに肩を落としながら。
目まぐるしく動く思考は読み取れるはずも無く]
……あの仔……アーベルの支えや助けにはなりたいと思ったことはあるけれど。
それは、あの瞳に関してのこと。
[赤紫の瞳を思い出しながら、ぽつりと呟く]
……思いか、心かは分からないけれど、"揺らされて"いたのに……
全く気付かなかったなんて、情けないわ、ね。
[伏せ目がちに、息を零した]
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