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[命竜自身の願いがどんなものなのか、それが気にならないわけではなかったが、無理に聞き出すことでもないだろうと思われた。彼が今優先しているのが、残る二人のことだと判ればそれで十分]
もし、アーベルさんやオトフリートさんと連絡がつくなら、伝えてあげてください。
もしかすると、バランスを欠いた剣は「強い願い」を感じただけで間違った方向に発動するかもしれない。
命も、竜としての在り様まで賭ける願いなら…そして追いつめられてしまった今なら、その危険はある。
[癒しを注ぎ込むクレメンスに、最後にそう告げてから]
ありがとうございます。あなたも無理はしちゃ駄目ですよ?
[僅かな懸念、彼が妙に焦っているような…しかし、それは口に出さずに、笑みを見せて見送った]
[クレメンスの足音が遠くなってから、どさり、とベッドに仰向けに倒れ込んだ]
さすがに、きっつーー
[浸食は進み、命は削られる。けれど本当に辛いのはもっと別の部分]
俺って、ほんとに未熟…
[対なる精神と生命…その願いにも、苦しみにも、少しも気付けなかったことに、深く後悔の息を吐いて]
…て!落ち込んでる場合じゃないってば!
[それでも、次の瞬間勢いをつけて、再び立ち上がる]
ええっと、とりあえずアーベルさんを見つけないと、誰かに相談…わー!誰がいいんだ?!
[なんだか色々混乱しつつ、部屋を出て歩き出す。いつものように駆け出すことは出来ないが、ただ前へ、と**]
―中庭―
…みんなボロボロじゃんさ…。
[水鏡と化した噴水の前、歯がゆさに奥歯を噛みしめる。
いまだ力は戻らず、人の姿をとれずに中途半端な鱗姿。
感知の力は高まっているものの、反動か他の感覚は酷く鈍い。]
あれは…願いなんて叶えてくれない。
[一つになった剣は、破壊そのもの。
切り裂き断つ為だけの力。
それはまるで、己が背負い律せねばならぬ力そのものだ。]
…せめて、
[されど、触媒は手元にはない。*]
―部屋―
[意識が戻ったのは、時が大分経ってからだった。
何が起きているのかわからずに、ただぼうとあたりを見る。]
[あたたかいと思ったのは、部屋の中にいるからか]
――起きないと。
[呟いて、身を起こす。
少し背は痛んだが、足は痛みがなかった。
礼を告げようとして、しかしこえが届かぬことを思い出す。]
[精神の竜の力に満ちた部屋で、ほんの少し、苦笑した。]
[立ち上がるときに少しふらついた。
ここまで消耗していたのかと自覚して、それでも歩を進める。]
[扉の陣に、指が伸びる。]
[そっと剥がした青の鱗に、目を落として。
痛みはないけれど、動くときにぎこちのない足で、ソファに腰を下ろした。]
あー……あたまいてー。
[ぶつぶつ言いつつ、ごろごろ転がる]
ったく、おっちゃんがおかしな事言うから、ただでさえあたまいてーのに、妙な相乗効果出てんじゃんかよ。
[それは単なる八つ当たりでは]
[青い鱗を、そっと両のてのひらで包み、目を伏せる。]
心配をかけてしまったのでしょうね。
[自分の手の上から、口唇が軽く触れた。]
[それから、破られた服の着替えを始める。
ある程度そろえられた衣類は、とても便利なものだが]
――っ、
[少しバランスを崩して、箪笥の上に置いてあった花瓶が落ちた。]
……転がってても仕方ねーか。
そいや、中庭から外が見られるんだったっけ?
[聞いた話を思い返しつつ、立ち上がる。
枕元で物言いたげにしていたピアが、するりと肩に登ってきた]
ん、行くか。
カケラ暴れてるようなら、掃除しといた方がいいし。
[それって八つ当たり? と意識に突っ込み入ったのはスルーして、部屋を出る]
[ごろごろ転がってゆく花瓶を見て、後回し]
[そのまま着替えを手にして。
少し考えて、さらしもないかと箪笥を探る。]
―西殿・二階廊下―
[とてとて。辺りを警戒しつつ、廊下を進む。
肩のピアも、一応きょろきょろり、と周囲を見回していた]
にしても……わっかんねぇの。
[その言葉を口にしたのは幾度目か。
揺らされたものの意図も、竜王の意図も。
そのどちらも理解できない――否、したくないが故に、自然それが口をつく事が増えるようで]
……そーいや、ギュンター爺様は飯食ってんのかな?
[結局、食堂に来なかった天竜を思う]
ちゃんと食わねぇから、ピリピリしてんじゃねぇかなあ、あれ……。
[自分基準で考えるなと。
そんな突っ込みと共にてちり、としたピアが、何かに気づいたよに茶色の目を動かした。
白い尻尾が、揺れる]
[さすがにタイを結ぶのは難儀だった。
花の形の痣が、そこには見える]
[音の、声の主はわかりやすい。]
[扉の向こうに出て、そちらの方にゆっくり、慎重に歩く。]
ティル殿?
またご機嫌が良くなさそうですね。
[あちこちに動いているのだろう。
そういえばこの近辺に、人の気配は少なかった。]
……どした、ピア?
[落ち着かなく揺れる尻尾に、きょとりとしつつ問う。
呼びかける声が届いたのは、その直後か]
……。
[多少、薄れてはいるようだが。
やはり感じるのは、ざわつくよな不快感な訳で]
この状況で機嫌がいい方が、どーかしてら。
[声はやや、鋭さを帯びる]
そうでしょうね
[苦笑した。]
ティル殿。
この結界の中で、何か――起きたり、しましたか?
どういう情報があるのか、知っておきたいんですけれど。
何か?
[問われた言葉に、眉を寄せる]
オレはなんもしてねぇし、特別何かあった様子もねぇし。
時空の姉さんの喋りがおかしくなったくらいだろ。
[それは変化だが関係ないような]
つか、何かあったとして、教えるか、っつーの。
[実際には、食堂での会話で結界が弱まっている事、虚竜王の不機嫌解消の糸口が掴めた事など、情報は増えているのだが]
喋りが?
一体それは何が。
本人がご存知のようなら良いんですけれど。
[何かおかしな変化なのかと、少し考え込んだ。]
そういわずに教えていただけませんか?
私には、しばらく何もできませんよ。
わかりませんか?
[場所も近いからか、それとも結界の中だからか。
かすかな声を捉えた気がした。]
[翠の目はゆれる。]
[はっきりと聞き取れはしないものの、そこに込められた感情は理解する。
己が領域たるそれに、こえを返す術はない。]
カケラがどーとか言ってたけど。
虚竜王にしか治せないんだと。
[そういや、あれ、どこまでいくんだとちょっと心配になったかも]
……確かに、前に見た時よか気持ちわりいの収まってるけど。
あと一人いるなら、おんなじだぜ。
[その『一人』もすぐ近くにいたりするのには、頭痛で感覚が鈍っているのか、気づいてはいない]
収まって?
それは困ります。
[考えていたのはそちらではなく。
指摘されたことに、眉を寄せた。]
……彼一人に、押し付けるなど。
[と、声が聞こえて。
そちらに目を向ける。]
アーベル殿
[どうして姿を現したのだろうと、困った顔をして。]
[だけれど遠く、あまり明瞭ではないこえに、安心してほしいと、微笑を浮かべた。]
[不意の声。
意識が及ぶ範囲にその主を捉えた瞬間、不快感は強くなり]
……っ!
[とっさ、距離を開けるよに跳びずさり。
周囲に緩く流れる風を呼び集める]
呼んでねーよ。
[向ける言葉はそっけない]
そっちがこまろーがなんだろーが、薄くなってんだから仕方ねぇだろ。
オレの知った事か、っつーの。
[眉を寄せる月闇竜に投げるのは、こんな一言]
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