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[手を差し出されて、左の手をどうするか、と悩む。
なぜならそこには先ほど森に貰った、果実の類が握られていたから。
少し悩んで、先にそれを渡す。]
そうだね、かれはきっと待っていてくれるだろうね。
だから、これを先にもっていってくれないかな?
[軽く首を傾げて、ことさらなんでもない、普通の様子で。
違和感など思い出させないように。]
僕は森にお礼しないと。
この子たちにも、心配かけたし、ね?
[すっかり静まり返った墓地。
陽が暮れてから此処を訪れる人間は居ない。]
[街には、この墓地に夜な夜な”何か”が現れるという噂が在ったが、その噂の元がナターリエであった事をミハエルは知らない。]
[静寂のなかで、己の感覚が徐々に精密になってゆく。
ちからの感じられる場所。
遺跡へと、向かう。]
[すっかりと食べ終えて、口もとをごしごしと拭きます。そばに力が集まっているのは感じていましたが、今はまだ“その時”ではないから、ベアトリーチェは自分から動くことはありませんでした。いいえ、単に今は逢いたくなかったのかもしれません。]
……大丈夫だよ、フィロメーラ。
[そう云ったのは、肩に舞い降りた小鳥に対してでしょうか。]
―遺跡―
[遺跡へたどり着いたミハエルが見たのは、時を巻き戻したかのような姿の柱。以前に見たときは、ひび割れ、欠けてなかば砂へ還りかけていた筈だが。]
[そこへ在ったのは、力の残響と、その行使の跡のみ]
[亀裂の無い柱を、憎々しげに見つめる]
[ぴたりと手を当て、]
[だが首を振って]
[なんだか少し疑いの眼差しになったかもしれない風の子に、はやくしないとわるくなっちゃうから、なんて尤もらしく言いながら、
苗床は、ゆっくりと、そちらへ向かう。
聖なる子の力の方へと]
そうか、もうそんな時間なんだね
[こんばんは、と言い直して]
うん、まあおはようかもしれないけれど。
……君にとってはこんばんは、だよね。多分。
うん、そうだね。
[小さく肯いてから、首をかたむけます。]
きっとティルも、ユリアンから聞いているよね。
[なにを、とは云いませんでしたけれど。]
[意識を光の小鳥に宿して、彼女は今は少女の傍らに。
今は心にも力にも波風は立たずに、少女は落ち着きを見せていた]
「彼女を護るために。」
[その声は、ベアトリーチェの口から紡がれたものではありませんでした。ティルの方をじっと見つめる、小鳥から。それは声ではなくて、思念のようなものでしたけれど、まるでほんとうの小夜啼鳥のように澄んだ声に聞えたでしょう。]
[まるで歌声のようなコトノハ。
小鳥を見やり、苗床は少し考えて口を開く]
かの女を?
……守る、とは、どうして?
[かの女というときに、見たのは、ベアトリーチェの姿。]
……ベアトリーチェはね。
ほんとうは、ずっと昔に死んでしまう筈だったんだ。
[フィロメーラはそれを助けて呉れたのだと、ベアトリーチェは云います。
それは“過干渉”であり、“赦されざること”。ミハエルが云ったとおりのことだと、よくわかっていました。]
「この世界の律では、彼女は生きてはいけないから。」
[けれども、変えるのだと決めてしまったのでした。]
そう。
[二人の言の葉は、互いを思いあうようで。]
君は、助けられたのだね。
かの女を。
大切な人の子を。
[小夜啼鳥を見る目は、どこかまぶしいものを見るようで]
たとえ誰に攻められようとも、君が僕にはうらやましい。
[そっと囁くような呟き。
左の手は、首にかかる小瓶を、そっと握って。]
……でも、書を使うということで、本当に、生きていける世界が作れるのかい?
[ふ、と。
途切れていた意識が戻る。
気絶している間に、手当てがされたらしく、痛みなどはだいぶ治まっていた]
…………。
[一つ、息を吐いて、天井を見上げ。
そこにある、僅かな空間の裂け目に向けて光鎖の輪を一つ、放つ。
時空を跳躍する輪の力は、綻びを広げ。
地上でのやり取りを、映し出した]
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