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[重ねて使った力は容易には回復せず。
左手の鎖も未だ1本は緩んだまま、1本は完全に外れて。
その茶色の髪は、少し色味を失っていた]
[ハインリヒがオトフリートに処置をし、他の人たちの回復を小部屋の隅で体育すわりをしてみていたが、オトフリートが気がついて光鎖を持ち出すのを眺めていた。
呟きが、もれる。]
…フィロメーラ。
……わからない。
[訊ねられて、こどもは小鳥へと眼を移しました。指から離れた小夜啼鳥はティルの周りを一度巡り、ベアトリーチェの元に戻ります。きらきら、光の粒が零れました。]
「……断言は、出来ません。
けれど。
ただ、滅びの時を待つよりは。」
書の力で、律の異なる世界を、か……。
だが、それは。できないんだよ……。
[小さく呟く。それは、決して届かぬものではあるけれど]
[そのまま抱えた膝に顎を乗せていたが、疲れも手伝って、うとうとし始めた。
起こされて移動するというならば、奥へ率先して行きたいと*いうだろう。*]
君は、賭けを選んだのだね。
[光の雫に目を細める。
片目の金は、何も変わらぬまま]
僕も、それを悩んだ。
君もきっと、悩んだのだろうね。
このままではどうしても駄目なのかい?
ただ今の生を、楽しむだけでは駄目なのかい?
[問いかける声は、静かな響きを持つだろう。]
混沌の王の力の結晶は、そんなに都合よくできちゃいない……。
書がもたらすのは、再起のない終焉。
……お前が護りたいものが滅んで、二度と取り戻せなくなるだけだ……。
[風が樹を優しく撫でていくのを見ながら、波長が合ったらしいという言葉に頷くと、ちょうど花がティルに留まった所だった。
彼の謝罪に緩く首を振って、アマンダは二人の再開を少し離れて見守る。外見に近い、少年と子どもらしいやりとりに、微笑みが浮かぶ。
人の子の成長は早いと、アマンダは思う。
3年前、この町に着たばかりの頃。アマンダに当たりかけたボールを【疾風】が弾き飛ばし飛ばしたのが出会い。
その時ユリアンは、ちょうどティルくらいの姿だったはずだ。
思わぬ対との出会いに反発しながらも、見かける度に眺めて…睨んでいたなと、不意に懐かしさを感じる。
少年になった彼が今、青年になりつつあるのだとまでは気付けないけれど]
…私は、少し寄り道。
楽しいデートだった。またね。
[少し元気になった様子のティルに、手を出すユリアンに微笑んで背を向けた。ユリアンが居るなら、*きっと大丈夫*]
[小鳥はベアトリーチェの肩で羽を休めたまま、なにも語ることはありません。なにか考え込んでいる様子でもありました。代りにか、こどもが口を開きます。]
知る前なら、そうだったかもしれないね。
けれども、知ってしまったから。
[シャラン、左手を掲げますと、鎖の輪が音を奏でました。]
ベアトリーチェが今まで生きて来たのには、
何かしらの意味があるのだと、そう思っていた。
……世界を変えることに、その意味を見出したのかもしれない。
[曖昧な言葉。そこにたしかなものなんて、なに一つありませんでした。]
君は、
[こんどの目は、人の子に向き]
まだ子どもでいられるのだね。
僕は知る前から、諦めていた。
かの女がしあわせな、元気な人の生を送るのを見るのを。……そんな時はないのかとすら思っていたんだ。
だけれど鍵のことを知って、考えた。
[悩んでいると言っただろう? と、苗床は微笑んで]
世界をかえれば、かの女はうまれてくれるだろうかって。
それともかわらぬまま、かの女を待つほうがいいのかって。
君の生きる意味がそれだというのなら、
僕が今まで生きてこれた意味は……
それが決して開かれない、そんな世界をつくることなのかもしれないと、今は思うよ
[こどもで居られる。それの意味するところがよくわからないというように首をかたむけますと、金の髪が頬にかかりました。けれども、ティルの決めたことだけは、わかったのでした。]
ティルの思うように、したらいいよ。
ベアトリーチェは、ベアトリーチェの思うように。
[ぼうっとした緑の眼は、ティルの金いろの眼を見ていました。]
ベアトリーチェはこの世界が好きだった。
でも、届かない世界なら……。
[言葉の途中で、ベアトリーチェは顔を天へと挙げます。樹々の合間から覗く月は、円いかたちをしておりました。]
時が移ろうまで、あとわずかだ。
ベアトリーチェは、もう、行くよ。ここの果実は美味しかった。
くそっ!
ここからじゃ、何も出来ないってのか……!
[映し出された光景、やりとりされる言葉。
信じがたい事ばかりだった。]
そうだね。
僕は僕の、君は君の、思う通りに。
[すこし、困ったように微笑んで、苗床も天をあおぐ。
陽のひかりは葉を越えてやってくるけれど、月のひかりは遠くに。]
……それでも君たちの手は、
僕よりずっと大切なものを掴めているのだよ。
……だから鍵を開かないでほしい。
そう言うのはきっとわがままなのだろうね。
君がそれを渡してくれることをこの森も僕も望んでいるよ
[それでも、手は伸ばさずに]
[ハインリヒの言葉に、ちら、とそちらに視線を向けて]
……止められるものなら、止めたいが……。
ここから出るには、書を返還するか、迷宮自体を内側から叩き壊すか、そのどちらかしかない。
そして、前者は俺たちには不可能。
後者は……。
[やってやれない事は、ないかも知れない。
彼の本来の姿であれば]
―遺跡―
異界門。開かれるのが摂理なのだろうか。
だが、開かれるのならば私如きが何を為そうとも開かれるのだろう。ならば―――
[仰いだ空には、落ちかかりそうな満月が掛かって居た]
……駄目だよ。
[否定の言葉は小さくも、しっかりとしたものでした。くるりと向きを変えると、ぱさりと翼を生やしたベアトリーチェは葉の間をぬって、そらへと飛び立ちます。]
あと、もう少しなのだから。
[失われた過去のねむる、遺跡を目指して。]
―北東の森―
[背の高い草ががさごそ動いて、...の姿が現れる]
おい、ティル。遅いぞ。
またなんかあったかと思ったじゃないか。
はやく、帰ろうぜ。
[直前まであったことなど微塵も気がつかず、
もう一度右手を伸ばした]
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