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そのはじまりのために、できる事は全部やったのか?
その約束が何かはしらんが、それを果たすためにできたのはただ、待つだけなのか?
……何もせずにただ待って、時を費やしてきたのなら、泣き言いう間にそのための事をやりゃあいい。
やるだけやって、それでも間に合わないなら、誰かに思いを託して、輪転に還り、新たに誕生すればいい。
……今、この瞬間にだけ、固執するな!
輪転を、変化を許されし者が!
[さっきやってきた光の子の言の葉も。
その耳には届いて。
時の竜の言の葉は刺さるように。]
やったさ、僕は。力を与えて、育て、それでもかの女ははじまろうとしなかったんだ…。
それを望んでいたというのに。
………………ずっとあの小さな瓶の中に、とどまって。とどまって。
[本当は、苗床にもわかっている。
火の竜の言の葉の意味も、時の竜の言の葉の意味も――
その、小瓶の中に、とどめているのは、苗床自身。
乾いた口唇が、小さく動く。]
かわってしまうのが、僕は、こわかったんだ
[小さな呟きに、龍はじっと翠樹の魔を見つめる]
かわってしまうのが……?
[問うような呟きには、わずか、戸惑いが含まれていたか]
生まれてくる事を望んでいる者が……かわってしまうこと……か?
………………。
無理に変化を止めてしまったらゆがんでしまうの。
無理に安定を崩してしまったらこわれてしまうの。
そうではない?
本当は、わかっているのでしょう?
[そっと呟いた]
それでも。
それが、輪転。
新たな誕生……。
[呟くように、言った後]
……望む者は変わるかも知れない。
でも……新しく巡り逢うという形の方が、まだ。
このまま、二度と逢えなくなるよりは……優しいだろう?
[それは先ほど、イレーネに投げた言葉と良く似て]
怖がらないで。
誕生、それすらも変化の一つ。
望む変化、望まざる変化色々あれども。
変化から何かが誕生し、そして育まれてく。
……脆いけども、大切なモノたち。
そんなのが君にも幾つもあるでしょ?
[影の精へと向ける瞳には、
何の感情が浮かぶか。
左のてのひらの上に浮かぶ、果実は。
他の種の子らは。
ただ、ただ。
苗床のそばにあり。
黒の書を一度、見やる。]
[時の竜と水の精、
ふたりの言の葉は、一度くずれた、決意の中の苗床に、
しづかに、染み入る。]
…………わかってるんだ、
本当は、駄目なんだって。
僕は、わかっていてこれを選んだ。
おそれて、これを選んだ。
――わかっていたのなら、変化を、待たなければいけなかったのかな。
僕は。
[ぽつり、ぽつりと落とされる声。]
……変わらぬことを、望んでいたんだ。
変わることがわかっていながら。
[ゆっくりと呟いて、そうと、身体のうちに、子らを戻す。
それから、書の望むままに、そちらに向かって]
変わってしまっても、失われるわけじゃない。
それに。
例え、望む者が変わってしまったとしても……。
[それとは異なる絆があるのだから、と。
小さくと小さく呟いて。
すい、と手を、書に向けるように差し伸べる]
……『鍵の書』。
眠りの場所へ。
……かの女のことを、もう本当は、
ほとんど思い出せないから。
だから変わるのは、こわかったんだろうね……
[鍵は時の竜のもとへと。
ただ立ち止まりそれを見る。]
……それなら、尚更。
全く違うものと思うのも、ありじゃないか?
[何処か冗談めかした口調で言って、笑う。
銀を揺らめかす黒き書は、漆黒の龍の手の上へ。
黒の上の黒、その様相に違和感はなく。
その様は、先ほど龍自身が口にした言葉──『書』と近しい、という言葉を容易に思い起こさせるだろうか。
書を手にした龍はゆっくりと祭壇の奥を振り返り。
静かに、そこに渦巻く力を見つめる]
……虚の申し子。
皇竜より承認されし、時竜の名において。
封護の力よその力の色彩を変えよ。
『書』が『書』であるが故の意義。
それを世界が要となす、その時まで。
眠りの帳にて、閉ざさん事を。
……命ず。
[静かな言葉に応じるように、書はふわりと龍の手の上から飛び立ち。
祭壇の奥の間へと。
やがて、扉は閉ざされ。
……静寂]
[ゆるり、身体を返して。
場に集まる者たちを、見やる]
……さて、と。
用事も済んだ事だし、さっさと戻るとするか?
[問う声は、いつもの彼とほぼ変わらず。
ただ、姿のみが、全く異なるだけ]
後は、迷宮そのものを、閉じなきゃならんし……上の連中も、心配してるだろうし、な?
[その時、祭壇の間の壁の一角が切り崩されると、そこから『一直線に』進んできたナターリエが現れる
土煙の消え去ったのち、覗いて見えた彼女の右眼は……紅い涙を流す金色だった]
…………システムエラー。コード404
該当するプログラムが参照できません
再試行……再試行……
[ブツブツと彼女の口から紡がれる言葉は彼女自身のものでもブルーとしてのものでもない、機械的な言葉]
[書が封印されるのを静かに見届け、竜の言葉が語られるのを静かに聴いていたけれど、やがてぽつりと発されるのは『人に在らざる者の言葉』]
……世界を調律できるのは世界の意志だけ。
強き願いであろうと、強き力であろうと、その意志を妨げることは出来ない。
世界の意志こそが、即ち世界の望む変化。
[そこで口を噤み、そして発する『人の言葉』]
…世界に生きるものはその領域を超えてはならない。
きっと…今はまだ世界は世界の手に委ねられるべきなんだ。
[そう静かに呟いて、息を一つついて。
それはひとりごとだったのか、それとも──]
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