―回想:腕の中の少女が生きていた頃―
[美術商の女性が報せた訃報>>61には、目を見開いて。
ガタン!と音を立てて一度椅子から立ち上がり、
呆然とした顔で暫く伝えた人物を眺めたのだった。
ゆっくりと、自分の手を、見下ろす。
震えてしまうのを、包んでくれたあの手。
自分がおそろしいと感じると言ったことよりも、おそろしいと思うことがあると、言っていた。
それを聞くことは叶わなかったけれど、自ら死を選び取るほど。
おそろしかったのだろうか、と、想いを馳せる。
彼女の手が震えを止めてくれたから、
自分のすべき事ができた、と思ったのに。
だが結局言葉は、ひとつも発さずに
見下ろした手をゆっくりと閉じて―――目を、強く瞑った]
―回想:了―