―個室―
[夢も見ず落ちた眠りの目覚めは最悪だった。
ぞわとした、内を探られるような感覚に思わず体を抱く。
それが何なのかは――すぐに思い至ったのは、昨日の彼の言葉を思い出したから。]
……リヒト。
[まだ横になったまま、今は二人きりになってしまった赤い世界でその名を呼んだ。]
私もアルに視られたみたい。
[多分、と付け加えながら。
一度台所へ行き、冷たい水を汲んで戻ってきてから、暫し意識を赤へと向けた。
まだ誰もいない静かな廊下に血の匂いをかぎとったが、ユリアンの時のように、様子を伺うことはしなかった。
何が起きているか、十分知っていたし、餓えは満たされていたため血の匂いに酔う事もなかった故に]