[笑いたいのに。笑っていたいのに。
右の頬はひきつれて、アシンメトリーにしか笑えない。
先ほど思い出した教え子の病気が、瞼の裏で交差して、涙がぽろぽろと止まらない]
……ひつれい
[顔をふっと背けて、ポケットからハンカチを取り出した。
ぽろりと、ハンカチと一緒にこぼれ出るのは皮で出来た、袋状の眼鏡ケース。中身は左のレンズが橋の根元からぽきりと折れて、砕けて、まるでモノクルみたいになった眼鏡の残骸]
おかしーですね、ごめなさい。
[涙をぬぐって、取り繕って。
ああ、自分は、こうして誰かの心配をすることで
精神をもたせているのだと、そう思った]