[イレーネの呟きを思い出して、こっそり耳打ちする]
ああ、アーベルさんは裏通りの住人なのさ。
俺もほんの一時期そうだったけど、アーベルさんは始めて会った時
には既にそうで、今も…そうなんだろうな。
一つのパンを得るのに必死って感じじゃなくて、俺にとっちゃ当時からして余裕があって見えたよ。
肉体的にも、精神的にも強いんだなぁって憧れたものさ…なのに。
[悲しそうに背を向けるクレメンスと、優しい神父の言葉にも左の足を後ろに引く姿がそう見えてしまったアーベルを見ながら呟く]
あんなに警戒しなくたってさ…
昨日の事でもよくわかる。アーベルさんを傷つけられる奴なんて早々いないだろうし、ましてや相手が神父さまならアーベルさんを傷つけたりしないだろうに。
…まるで何か怖がってるみたいだよな。
[勘違いかもしれない。だけどもそんなアーベルは、人との繋がりを恐れているかのようにも見える。
彼が時に見せてくれるらしからぬ笑みを思い出しながら、どうしてだろうと答の出ない思いにとらわれる]
…兄ちゃんみたいだって思っちまうような笑い方だって、できるんだし。別に人間嫌いってわけでもないんだろうになぁ。