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体力を変に使うのは嫌なんでな
許せ
[死体に対して配慮などするつもりはなかった]
[男は引きずり出した死体を――少し痕は残ったが仕方ないと、地面に落とす]
[緋の花が咲く傍で、音を立てて落ちた死体から布がずれた]
ん、ああ。
[腕の事を言われ、視線を紅滲む包帯へと刹那、落とす]
見た目は派手だが、大して深い傷じゃないからな。
だから、大丈夫だ。
[軽い口調で返しながら、倉庫の戸が開くのを待って中を覗き込む。
倉庫の中に並ぶのは、古びた感のある庭道具たち]
[中には添え付けの灯もありましたが、隅のほうまでは分かりません。
灯で照らして、それらしき形状のものを手で触れて探します。]
…っ、
[何かに触れ、慌てて手を話します。
指先を確かめると、僅かに赤い色――血が出ていました。]
刃物?
…こんなところに、危ない。
[今度は用心して触れてみます。
小さなナイフのようでした。
その近くには不自然な、何かを抜いた跡のような隙間がありましたが、わたしは気付いていませんでした。]
………そうか。
[傷のことについては、ただ簡潔に答えるのみ。]
それにしても、時が止まったような倉庫だな。随分と埃くさい。
この鎌は切れるのか?
――無理だな。どうしようもなく錆びている。
[無意識のうちに刃物から探し出していた自分の言葉に、呆れて舌打ちをする。]
ああ、違う。シャベルはこっちだ。
こちらも錆びてはいるが、使えそうだ。
[溜息をつき、シャベルを手に取った。]
[暫くその光を見つめていましたが、やがては眼を逸らします。]
…探さないと。
[それきり、刃物のほうは見ませんでした。
保身を考えるならば、それを手に取るべきだったかも知れませんが。
結局そこではシャベルは見つからず、刃物もそのままにして部屋を出ました。]
時が止まったような、か。
あながち、間違ってないんじゃないか、それ。
城の中も、埃が大分たまっていたしな。
[冗談とも本気ともつかぬ口調で言い。
鎌を検分する様子には何も言わず、自身も錆び付いたシャベルを手に取る]
さて、それじゃ、戻るとするか。
そろそろ、外に出されているだろうし。
――…そうだな。
[自分の脳裏に浮かんだ言葉をかき消すように、栗色の髪の青年の言葉に頷き、外に出た。]
[埃と黴の臭いにまみれた倉庫の外に出ると、今度は「番人」の血と肉の臭いが、ギルバートの身体の中に流れ込んで来た。]
まったく……どこもかしこも異臭だらけだな。まずは「番人」殿を埋めよう。そうでなければ、俺の中の嗅覚が死滅しかねない。
[外に出された「番人」の遺体を見て、肩を竦めた。]
[小さくない桶に水を汲み。
抱えられるだけの布を持って玄関へと戻った。
誰もいないホールで一心に床を拭く。
手にした白い布はあかくなり。
それを漬ける桶の水もやがてあかに染まってゆく]
これでいいのかしら。
[疑問を口にしながらも、ひたすらに床を拭く。
足を包んだ布もまた赤くなっていることには気付かずに]
[倉庫を離れ外へ。
感じるのは死に纏いつく臭い。
それを認識すると、腕に疼きが走る]
……理屈はともかく、早めに埋めるのは、賛成だな。
見てて、気分のいいもんじゃない。
[『番人』の亡骸に一瞬蒼氷を向けて早口に言い放ち。
埋める場所を検分するように、シャベルの先で土をつついた]
[広間の窓。そこから番人を外に埋めようとする青年達の姿が見えた。少し遠めではあったが、何をしようとしているのかはシャベルなどを持つ様子から容易に想像出来る。その際に運ばれた番人から布がずり落ちたのが見て取れた]
………獣の爪………。
倒すべきは、もはやヒトでは無いのかしら、ね。
[ぎゅ、と胸元で左手を握った。終焉の使者を廃さねば、あの番人のようになってしまう。果たして自分の手で、それに抗うことは可能なのであろうか。握った拳がふるりと震えた]
[他に心当たりはなく。
指先の血を舐め、玄関へ戻る前に手当てをしておこうかと、廊下を進みます。
途中、広間を覗きました。
杖の音が止まったのが、聞こえたかも知れません。]
…ええと。
シャー、ロット?
[声の内容までは、遠くて聞き取れませんでしたが。
見えた青い色と声に、記憶を掘り返しながら呼び掛けました。]
[検分をしていたのは足音を聞きやめ、再び布団でくるんだ]
掘るのは任せるぜ
臭いが付いた
[腕を払って、少しでもにおいを落とそうとする]
[掘ってゆく姿を見ながら、男は緋の花へと目をやった]
その通り、だな。
埋めれば、とりあえず彼の無惨な姿は見ずに済む。
[栗色の髪の青年に続き、土に穴を掘る。]
願わくば――…
花の栄養となりて、化けては出てこないようい……
―客室―
[目を開けて最初に見えるのは、ベッドの古びたシーツ、そして]
[見知らぬ部屋の有様。]
…………。
[未だ目覚めきらぬまま、ゆる、と身を起こす。]
[カツリと、背後で音がした。ハッと振り返り、紅紫を細め誰なのかを見極めようとする]
…ニーナ。
どうか、したの?
[その姿を確認すると、名を呼び小首を傾げる。表情は、乏しい]
はいはい、任されるよ。
[クインジーに返しつつ、土を掘る。
力を入れる事で、浅く裂かれた傷が広がるのは感じていたが、その痛みは押さえ込む。
痛みがあれば、疼きは感じない。
否、元々、疼きを感じたくないからこそ痛みを与えていたのだと。
昨夜までは霞の奥にあった思考は、今はごく自然にそこにあった]
[急速に人狼のそれへと作り変えられた身体は、昨夜までは重く軋むような感触が拭えなかったが、未明の食餌で漸く滑らかに動くようになっていた。]
[完璧ではないが、差し障りは無い。]
いえ。
少し、探し物が…
[表情は見えません。
けれど声の覇気のなさもさることながら、何処となく違和感を感じたものですから、]
…どうか、しました?
[全く同じ問いを返しました。]
とむらい。
[土を抉り、掘り返す音が耳の奥に響く。
小さな山が積み上がるのを眺めていた]
そうやるんだ。
[感慨のない声が滑り出る。
つんとした臭いに口許を押さえかけ、
寸でで、先に女に触れたのは逆の手に変えた]
……うん? うん、平気。
[獣に喰らわれた人間の末路を目にするのは初めてだった。
何時もは、喰らった後には“片付けられて”いたから]
動かなくなったら、埋められるのか。
[思いがけずたっぷりと睡眠を取った所為か、昨日の不調が嘘のように身体が軽い。]
[まだ幾らか頭の芯に重さを感じるが、酷い目眩は消えていた。]
[身支度を整え、部屋を出る。]
[昨夜の約束をふと思い出し、シャーロットを見つけるために、階下の広間へと向かった。]
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