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[とぼとぼと、闇を彷徨っている。]
ここは、どこなんだろう。
どうして、ここにいるんだろう。
私は、だれなんだろう。
私の、名前…………ユーディット?
[告げられた名前を、呼んでみる。]
[闇は薄らいでいる]
Kyrie eleison ――
[紡がれる音は、低い旋律。
主への祈り。
ステンドグラス越しに注ぐ光を目に映しながら、
人気の無い聖堂にて、口遊む。
傍らには、弟殺しの農夫の名を持つ、白い猫の姿が在った。
死者が教会で、聖歌を口にするだなんて、馬鹿げた話だ。
そんなことを、思う]
[工房で降ろされ、奥へ一人入るユリアンを見送った。
手を差し出そうと、己を差し出そうとしたが、それは主から拒絶されていた。それだけは、駄目だと。
傍に居てくれる事が嬉しかった。
優しくしてくれるのが嬉しかった。
大好きな人がずっと待ち望んでいた主なのが嬉しかった。
だけれども。
それは幸運すぎたのかもしれない。
近すぎる距離は、本来の立場を危うくしてしまい。
一族の血に無意識に逆らってしまっている事に、気づいてはいたが止める事が出来なかった。]
/*
丘行こうと思ったら先取りされていた辺り、流石です(何が)
……て、ユーディットが、居た。
[なんとなく、おろおろ。(するな)]
[工房の風呂場で、喰らい損ね乾き切った紅を洗い流す。
甘いその雫も、乾いてしまえば食指が動かず。
半端に終わった襲撃に衝動が燻ったままとなる]
…喰らってやる…。
俺の邪魔をする、あの忌まわしき守護者め。
貴様の血肉で、この渇きを潤してやる…!
[ぎり、と握られる拳。
その身体は度重なる転変と喰らうことの出来ぬ消耗により、人型でありながら鋭き爪を宿していた。
薬を飲んだとは言え、身体には銀の毒も未だ残っている。
時間が、無い]
[書斎に立っている。散らばった本にかかった朱の飛沫。]
血。
[呟く。目の前に持ち上げた右手は、血で濡れている。
白いワンピースの前面は、朱に染まっている。]
ううん、ちがうの。私じゃないよ。
[激しく首を横に振る。消えるイメージ。
朱の色は無くなる。]
[残された鳶色の左眼が紅く染まる。
それは力の顕現を意味し、身体の各機能は人狼のそれとなる。
研ぎ澄まされた聴覚と嗅覚は、忌むべき相手の気配を捉え。
工房を出ると真っ直ぐとその場所へと向かった]
[そこは、己も好んで通っていた、あの村はずれの丘──]
[自衛団の詰め所。並べられた遺体。
目を閉じたユーディット。その前に佇む少女。]
私……ねえ。あなたは、私?
[答えはなくとも、そうだと言われた気がした。]
どうして私は死んでるの?
私は、何を好きになった?
私は、しあわせだった?
私は、何のために生きた?
[視線を転じる。アーベルの遺体がそこに在る。]
この人、誰だったの?
[入り口の方で下ろされ、奥に行くユリアンをそこで待った。
主が弱ってきているのは分かっていた。
だがこの身を差し出すことは出来なかった。
主がそれを、拒絶していたからだ。
一族の血が、叫ぶ。主のための生贄となれと。
それは自分の悲願でもあった。
だけれども。
もう、出来なかった。
主が真っ直ぐ向かう先に、自分も少し離れて付き従う。
願わくば、せめてあの約束だけは守ろうと。それだけを胸に誓って。
主の気配をたどり、着いた先は見慣れた丘。]
[工房を出る前、ゲイトの傍へと寄り]
…案ずるな。
俺は、死なん。
[それだけを紡ぎ、唇を重ねた。
惜しむように唇を離すと、そのまま工房の扉へと向かう。
告げた言葉は、おそらくは最期の、嘘]
[丘の上の木に寄りかかり、物思いに耽る。
幼い頃、幼馴染たちと遊んだ場所。
しかし、その幼馴染も一人はおらず、一人とは距離を隔て。
今は、一人、そこに佇んでいた。
一人でいるという事、それ自体は自ら望んだ結果ではあるのだけれど]
……ん。
[不意に、左腕に走る、疼き。
伏せられていた緑が開き、やって来た者へと向けられる]
……や、どーも。
[投げた言葉、それ自体は常と変わらぬ物]
/*
さて、チキレでは死亡RPをろくにやってない俺ですが。
どこまでやれるんだろうwww
唯一やったチキレの死亡RPはかなり特殊なものだったしなぁ。
まぁ頑張ろう。
─エーリッヒ宅・客間─
おっちゃん…
[ユリアンの襲撃を受け重傷のハインリヒの前で、しばらく呆然としていた。エーリッヒの治療の甲斐もあったか、息はしている。生きている。
ほっと息をついて、首をあげれば、窓の外が見えた。そこには見慣れた人影が]
エーリッヒ兄ちゃん…?
……っ!
[何かに気がついたように、バネのように飛び上がった。そのままこっそりついていく。
程なく歩けば、丘にたどり着いた]
……随分と、暢気に居たものだな。
[返す口調は人狼の時のそれだが、浮かぶ表情はいつもの無表情で。
今までとの違いと言えば、欠けてしまった右眼と、残された左眼に宿る、紅き色]
[問いかけが終わると、闇から光の欠片が飛び出した。
ふわり、少女の周りに浮かんだのは、幾つも幾つもの水の泡。
七色に光って、ユーディットの過去を、少女の未来を映し出す。
少女のすべての問いに答えるかのように。]
小説家 ブリジットは、工房徒弟 ユリアン を投票先に選びました。
[正しい事とは、何か。
農夫は己の最良と思う供物を捧げ、されど、認められず。
嫉妬し、憎み、憤り、
血を分かつ弟を己が手にかけ、
知らぬと嘘を吐いた。
その話を、知らないわけではなかった。
けれど、――過ちとは、何か。
何を以て、罪と断ずのか]
慌てて騒ぎ立てても、疲れるだけだろ。
……己が成すべき事、それが見えるんだから。
[さらり、と返す。
緑の瞳は静かなまま、紅を見据えて]
にしても、まあ。
村から逃げた先で人狼に出くわして。
その後戻ってきたらまた出くわして。
……とことん、呪われてるもんだ、家の血筋ってヤツは。
ああ……。
[嘆息する、少女。]
そうか。私。私は、
[水の泡がくるくると踊る。
少女を戒めていた鎖が、ぷつり、と切れる。
光は力を強くした。]
[永遠に綺麗なものなどない。
決して穢れぬものなどない。
血塗れた此の手でも、
聖別された銀を持つ事が叶う]
神様とやらは、如何なんだろうね――?
死んだら、視えるかと思ったんだけど。
[問いに、答える声は無い。
さて。
求めていたものは、何だったか。
視たいと思っていたものは、何だったか]
…うん。分かってる。
[重ねた唇から感じる主の生命は、始めて会った頃よりはいくらか弱く感じられた。
それでも、今は信じた。
嘘も真と、信じぬいた。]
ずっと、一緒だから。
約束…私が貴方の居場所だから。
…どうか、お気をつけて。
Mein domine.(―私のご主人様)
[やがて聖堂には、常と変わらぬユーディットの姿があった。
首輪だけは、未だ嵌められたままだったが。]
アーベル。
[丘の上には守護者の姿があった。
真っ直ぐそちらに向かう、主からは少し離れた。
邪魔になるのは分かっていたから。
ある程度離れた所に静かに立ち二人を見ていた。
微か顔色は青かったが、表情は無かった。]
[名を呼ばれ、振り向く。
変わることのない容貌の中で、
右の眼だけが、罪の象徴のように赤く染まっていた]
……、ユーディット。
[白猫が、小さく鳴く。
距離を置いた青年の代わりのように、
声の主のもとへと寄った]
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