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……まあ、ラスには家の仕事も在る。元より無理だろうがな。
…………………俺も歳を取ったか。
[喉の奥を低く鳴らし、実の幾つかを手に外へ出る。
弁当代わりにベルトポーチへ入れ、戸締りをして声を投げた。]
しばらく出てくる。
付きっ切りでなくてもいいが、あまり長く目を離すな。
[簡単な指示を出し、返事の前に岩を蹴る。
海風を捕らえた翼が大きく広がり、紫紺の影を白に落とした。]
―自室―
あー…ホントにガキは良いよなあ…。今頃リディちゃんと一緒なのかなぁ。
[昨日の事を思い返し、だらし無くごろごろと転がる。
カレンには見詰められていた気もするのだが、その理由も聞けぬまま別れた。
その後はまた一人むなしく、屋敷まで歩くはめとなり、やや疲れて眠っていたわけだが]
…今日は、どうするかな。
[ 空は青く、海は白い――――。]
当たり前の風景…なんですけどもね。
今はこんなにも疎ましい。
[ 己の左は、それを捉えることはないのだが。]
ふふっ…。嗚呼、いけませんわね。
[ 羽根が仄かに暗く光る。
術の力が弱いのは流れる血、故か。]
[声なく思考に陥ったのは、一瞬]
初めて――
ああ、確かに、初めてだと言える。
けれどそれはあくまで仮定の仮定を重ねた話、
仮定を事実に変えなければ、私がそうなることもない。
[一歩、足を踏み出す。
斜め前、男近づくとも離れるとも言えない方向]
風を紡いで糸にしよ かろき衣を織るために
焔を紡いで糸にしよ 勇まし飾りを編むために
水を紡いで糸にしよ 勲支える智の士のために
金色鮮やか陽の衣 巫女姫支える武の御方へ
銀色静きや月の衣 巫女姫護れる術の君へ
闇夜照らすは紫紺の煌めき 標なすのは呪の司
青空飾るは真白の煌めき 導かれるのは命の司
我ら住まいし無限なるそら
それを支えし七の将
束ねる我らが鳳凰の姫
優しき巫女姫に捧ぐため
虹を紡いで糸にしよ
虹の衣を織り上げよ……
[こきりと首を鳴らし、屋敷の中を歩き回る。
声をかけて来る者に出会わぬまま一巡りし、その足を外へと向けた]
虚に、堕天尸か…。んな大変な事が起きてるようには見えないんだけどねぇ。
…それで、ローディちゃんが凹んでたら、もしかして今が慰めるチャンス?
[良い事を思いついたと手を打ち、向かうのは聖殿]
―施療所・自室 夜―
[膝の上に、柔らかい重みを感じて目を開く。机に向かい、本をめくるうちにいつの間にか意識をなくしていた。
微睡を邪魔したのは、膝の上に乗った、猫に似たもの。金茶色の体に黒の斑が散った毛並み。首筋から背にかけて、てのひらを滑らせば、肩の辺りで隆起した翼の付け根にあたる。
左側には毛並みと同じ、明るい金茶の翼。右の翼は付け根の部分だけ残して消えている。代わりに、そこには銀色の金属で翼を模したものが取り付けられていた]
[抱き上げ、床に下ろしてやると、寝台のそばまで歩いていき、脚の力で寝台の上に飛び上がると、そこで丸くなった。翼は使わない。
偽の翼をつけても、飛ぶ事は出来なかったモノ]
[歌われているのは、古くから伝わる機織歌。
機織を生業とするものならば、必ず師から伝えられるそれに合わせて滑る、糸。
糸は糸と合わせられ、布へと姿を変えてゆく]
……っと。取りあえず、半分はできたかね。
[織り上げた布を機織機から外して、出来栄えを確かめる。
この時は、さすがにというか、いつも以上に表情などは真剣で]
……ん、よし、と。
納品は……さすがに、一人じゃ辛いねぇ……。
[少しため過ぎたか、と呟きつつ、箱に布を収める]
ま、ラスが手隙なようなら、手伝い頼んでみようかねぇ……。
[エリカの様子を見るともなしに。]
仮定でも、声にはちからがこもるだろうな
あァ、エリカ嬢
[彼女の肩に手をのばす。]
濡れているぞ
[すとんと足のつかない椅子から滑り落ち、窓に寄る。闇に沈んだ森の上、月の形と位置を見れば、すでに夜も深まった時刻とわかる]
薬。明日はラス、取りに来るだろうか。今日の事もあるから、来ないようならばこちらから届けに行くのもいい。ついでに、何人か、様子を見たい人のところを回って……それと。
[明日、するべきことを数えながら、そろそろ眠ろうと考え、軽く手を振る。机の上に置かれた、ランプの灯がふっと*消えた*]
さすがに、ずっと篭ってやってると、身体が辛いねえ……。
[ある意味当たり前の事を呟きつつ、仕事部屋を出る。
外で待っていたラウルが、ぴぃ、と鳴いてふわりと肩に乗った]
ん、戻ってないか。
[他に気配がないと確かめると、小さく呟く]
……ちゃんと、食べて……は、いそうにないね。
[小さく呟くと、簡単な食事を用意して。
一人分を摂ると、もう一人分はわかるように台所へ置いておき、ふらり、外へと向かう]
感情を有する者ならば、そうだろう。
好意を持つ、他の存在が失われると思えば。
死よりは遠くとも、生にも遠くなるのだから。
……そう問う、貴方には、居るのかな。
[投げた問いの答えを聞く前に、
伸ばされる手の先、己の肩へと視線を向ける。
挙げた片手、遮るように、手のひらは肩の位置に]
そのうちに、乾くから。
[昨日と違い、決して遠回りをする必要は無く、選ぶ道は平坦なもの。
村の近くを通れば、そこは普段よりも微かに空気が張り詰めている。
時折、世間話をする婦人方に冷めた視線を送られれば、肩を竦めてやり過ごした]
やーな、感じ。
[浮島へと吹き付ける上昇気流を受け、一気に高度を取る。
背の高い青年の竜胆色の髪も、瞬く間に点へと変わった。]
………狩場を変えてみるか。
[昨日、帰りに島を上空から一周したが虚の気配を見つけることは出来なかった。
いつも使っている狩場にも、気配を感じたことはない。
何より――自身が囚われてはいない。]
……虚の場所がわかれば。
囚われた者…堕天尸の手掛かりを得られるかもしれん。
[風切音より低く唸り、四翼を大きく羽ばたかせる。
常とは異なる場所へと、大きな影が*空を滑った*。]
― 島の某所 ―
[ 羽根を広げたまま、すっと降り立つ。]
と、言っても何処に行きましょうか。
島からは出られない、そう巫女姫は言っていましたね。
[ 目を閉じ、といっても左は見えないが。
耳を澄まし、気配を探る。]
誰かいるようではありますが。
さて、何処に向かいましょうか。
[ 羽根を震わせ、考える。]
[濡れた肩にふれることもなく、ぴたりと手はとまる。
遮られたためでもないように、ただ自然に。]
さて。
いると思うならいるかもしれないが、
ちがうと思うならいないだろうよ
あいにくと、お見せできない顔なもので
[狐はわらった。]
―聖殿―
[先夜は集まった島人の最後の一人が空に消えるまでを見定めて聖殿に戻った。アヤメには付き添いとクローディアを励ましてくれた事への礼を言い、飛び去る深紫の翼を見送った]
お前も休め、クローディア。巫女が寝不足で倒れたなどというのでは、話にならん。
[憂いを拭えぬ様子の従姉妹には、そっけないとも聞こえる口調でそう告げて、自らは巫女の部屋と外とを隔てる中の間に寝ずの番を決め込む]
[外に出たなら、身体を伸ばし、深紫の翼を広げる。
風の流れを読み、捉えたそれに乗るようにふわり、飛んで]
……さて、と。
[上から見下ろす島の様子は、いつもと変わりなく見える]
『虚』、か……笑えやしない。
[呟きを漏らす、その刹那だけは表情は険しいものの。
ラウルがくるる、と不安げな声を上げると、それは静まって]
ああ、はいはい、わかってる、わかってるよ。
アタシらしくない、って、言うんだろ?
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