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―東殿・氷破の部屋―
[青い光に包まれると、頭に靄が掛かったようになる]
……っ、う……。
[水晶の扇子は床へと落ち、氷破の竜は膝を着く。
眠気を封印しようにも、その思考すら眠気に覆い尽くされて行き――]
―東殿/氷破の部屋―
[包み込む青の光は、静かに氷破の竜を眠りへと導いた。膝をついた華奢な体が倒れきる前に片腕で掬い上げる]
おやすみなさい……今は、夢の中に。
[もう仔竜でない青年は耳元にそっと囁いて、氷破の竜の体を抱き上げてベットへと寝かす。薄い上掛けで体を覆い、眼鏡へと手を伸ばし取り上げた。
そうして、細い銀縁の眼鏡を片手に握り、力を入れる。玲瓏な音を立て、美しい封じの硝子は霧氷のように床へと降り積もった]
― 西殿・結界付近 ―
< 何時しか眠りについていたらしい。
時の移ろいは定かではないが、ゆっくり浮上した意識を外界へと向ける。
首ではなく腕に鎖を絡め、東へ向けて歩を向ける。
進むにつれて、熱を抱く石。
もう一振りの剣と、共鳴しているようだった >
―東殿/氷破の部屋―
[そして青年は静かに歩み寄り、大地の竜の傍らへと膝を付いた。老竜は眉を顰めており浅い眠りにある様子に見えたが、構わずに腕輪へと赤が伝う指を伸ばす]
――…っつ!
[奪い取ろうとした手を拒んだのは腕輪の契約――ではなく覚えのある氷破の力。
痺れを残す指先の赤を舌で舐め取り辺りを探すと、眠りに落ちた際に零れ落ちた氷の歯車があった。手に取り、赤に染まらぬ封の鍵を握りつぶそうした――その時]
[疲労を通り越した精神の摩耗。擦り切れる直前まで行われた力の封じのために昏々と眠り続ける。深く深く落ちた意識は、周囲からの音を全く取り入れず。触れられても気付く気配は無い]
[もし、神斬剣にも聖魔剣のように智があったとしたら。流し込まれた力に対し苦しむ声が聞こえたかも知れない。氷の封じにより束の間の安定を得られたことに安堵しつつも危惧を示唆したかもしれない]
[しかしその声が聞こえることは無く。意識に呼びかけられることもないため、ただ癒えるまで眠り続けることとなる]
―――回想
[ザムエルにブリジットを運んでくれとのお願いは、少しだけ顔を歪ませて了承した。
氷が嫌いなわけではない。ただ苦手なだけだ]
……力仕事には向いてないのだけれどねぃ。
[ぼやき、ブリジットの腕を肩に回して、ふんぬらば!とザムエルと共に力を合わせて、ブリジットを部屋に運ぶ]
[―――ぴき……ぴき……]
[運ぶ最中に鳴る音は、二人には聞こえただろうか。
水が、氷の如く低温に触れたらどうなるか……答えは簡単だ。
腕が、体が、凍っていく。
それは、「変化」を生業とするナターリエにとっては、たまらないほどの苦痛でしかなかったが、それでも、『力ある剣』の暴走を止めるためにやってくれたことだ。
文句を言えるはずもない。
―――ややして、ブリジットを部屋に連れ込み、ベッドに寝かしつけると、はぁ……と大きな息を吐いて、自室へと戻っていった。
力を消耗し、凍らされるところだったのだ。
体力は、いちじるしく低下している。
それを回復するためにも、ナターリエは深い眠りに就いた]
―――回想終了―――
―東殿/氷破の部屋―
[機鋼の仔竜の力は既に知っていた。封を解き精神の力を流し込み腕輪の抵抗を押さえ奪うには時間が足りない]
――…鍵を貴方に。
[代わりにもう一度はがした鱗で大地の老竜へと術をかける。
眠りの奥の深層意識へ『抑えられない』という*言霊を――…*]
[それでも剣の不安定さは己が身に呼びかけるように作用してきて。無意識に安定を求め強制力を揮う。摩耗せし精神がさらに摩耗する]
[意識無いまま、眉間に皺が寄る]
[『安定』を司るが故に、傍に感じる不安定を押し留めようと。意識無いまま、律に準じるがままに力を揮った]
……。
[ゆらり、目を覚ました。
もしも、眠りの間に襲われていたのならば、太刀打ちできようもなかったが、どうやらそれはなかったようで、一先ず、ナターリエが、ほう……と息をついた]
やれ……少しは回復したかねぃ。
[確かめるかのように、右手を上げてみたが、その動きは鈍く―――]
氷の影響が、まだ抜け切れていないようねぃ。
[くすりと苦笑した]
まあ良いわぁ。
まだ、行動できる分だけましですものねぃ。
さて、と。
氷の様子でも見に行きますかねぃ。
色々と……聞きたいこともあることですし。
[少しだけギクシャクする体を起き上がらせて、歩みは扉の向こうへ……行った後に、すぐに戻ってきた]
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