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――音楽室前――
[流れるような鍵盤の音を背に、少女は扉を閉じる。
背後で呟かれた言葉は耳に届く筈も無く――]
だって…。
神父様と――あの人との思い出は…私だけのもの…。
だから誰とも…分かち合いたくは無いの――
憎しみも、悲しみも全て――
[扉に寄りかかり、少女はそっと薄紅色の唇を指でなぞり――]
[さらり――]
[金糸を宙に靡かせて――]
[ふわり――]
[再びルーサーの眠る部屋へ――]
――音楽室→アーヴァインの部屋へ――
[ネリーの話を聞いて、考える
鍵を持ち出したことをあっさりと認めた
その先を言及されるかも知れないのに]
多分、嘘は言ってない…。
本当に持ち出さなかったかは別だけど
でも、この状況…持ち出した、と言った方が納得するだろう。
身を守る為に、と言う理由で持ち出したといえば不自然じゃない。
……でも、持ち出さなかった、と彼女は言った。
何故、持ち出さなかったのか、と思えば疑いの目もかかるだろうに。
[人狼ならば、との言葉に僅か反応した、声
あれは自身を疑われたとの動揺だろうか?]
もっと上手く誤魔化すだろ、あいつらは。
[つまりはネリーを信じるということ]
ねぇ、ナサニエルさん……
人狼でも同じ嘘ついたらどうするの?
[少し笑っていってしまう。聞こえていない。淋しい]
…
[如何してこうもすんなりと。そうは思ったけれど、口にはしない]
いえ、あれは…事故でしょう。
[少年の姿を見遣れば、声は僅か悲哀を帯びたか]
如何して殺すと言うのですか?私は何も持ちませんと言うのに。
[その後の言には、あくまで惚けてみせる。
尤も、あの赤毛の少女を殺すというのなら――意識は僅か刃に向くか。
その少女が今まさに扉の向こうにいようなどとは、彼女は思わずに]
……だとすると、疑わしいのは誰だ?
[考える。
そういえば、今日はあの神父の姿を見ていない]
…いつもなら顔を出すはずなのに…?
悪い、ネリー
ちょっと人を捜してくる。
すぐに戻るから。
[そういって、広間の外へ]
[止まっていたはずのピアノがまた歌いはじめる。
けれど、その旋律は自分の心臓の鼓動に邪魔され、良く聞こえない。
扉の向うの会話も、ピアノと鼓動に邪魔されて。
青い髪の男は、彼女のことを疑っているのだろうか?
自分は、ネリーのことを疑っているのだろうか?]
[ドアを開けると、赤い髪が走り去るのが見えて]
…嫌われたかな?
[とだけ呟いて
神父の姿を捜して、二階へと]
―広間→二階―
[ 金髪の少女が其処を訪れていた事等知らずに、青年は其の音色に聴き入るかの様に黒曜石の双瞳を細め、然れど立ち入る事も無く其の場に佇む。
傍の壁に手を突いて身を前に倒せば、軽く額が扉にぶつかり音を立てた。]
――アーヴァインの部屋――
[再び立ち入る部屋には、発見した時と変わらず横たわるルーサーの姿が目に入る。]
――神父様…あなたの最後の言葉…聞いて参りました。
[少女は柔らかな笑みを浮かべて、ベッドへと近付く。
窓から差し込む光が――彼の顔を青白く照らす。
まるで眠っているような姿に――
少女はそっと指を伸ばして――]
でも…冷たいのね…神父さま…
[呟けば――]
[ぽたり――]
[雫が瞳から零れ落ちた]
[何処を捜すべきか、悩んで
まずは昨日共に訪れた自分の部屋
そして、そこに居ないと見ると暫し考え]
…あそこか?
[最初の犠牲者である、アーヴァインの眠る部屋へと]
[何かに憑かれたように、ただ、無心に。
旋律を織り成していた手が、ふと止まる。
扉に何かがぶつかる音。
それが、意識を引き戻して]
……誰か、いるの?
[――甘い、花の香り。
瞼を開ければ、独り廊下に佇む赤毛の少女の姿が見えて。]
……こんな所にいたら…危ないよ…。
夜は…魔物の時間だから……。
「…早く寝ないと、怖い怖い魔物が攫いに来るわよ…?」
[耳に蘇る、姉さんの声。
おそらくは、子供を寝かせる為の、他愛のない脅し文句。
けれど、今は本当に、闇に生きるものがいると知っているから。]
…ねぇ、ヘンリエッタ。
部屋に帰らないと…危ないよ……?
[彼女の細腕には大きすぎる花束から立ち上る香りに、目を細めながら。腕を伸ばして、その肩を揺すろうと。]
[柱の影に息を潜め、男の姿が階段へと消えるのを待つ。
逃げ去る後ろ姿を見られていたとは思いもせずに。
腕に抱えたままの花に、顔を埋める。
甘い香りが胸をついた。]
[ 中からの声に緩やかに瞬いて寄せていた額を扉から離すも、]
あー……、
[何処と無く溜息混じりの声が零れたのは、旋律が途切れたが為か少女に自らの存在を気付かれたが為か。ややバツの悪そうな、そんな雰囲気を湛える。]
[広間には誰もいなくなった。彼女と、“彼”以外は。
横たわるままの少年を静かに見]
このままには、しておけませんね…
[広間の外へと足を向ける]
―二階・アーヴァインの部屋―
[扉を開けると、思ったとおりの異臭が鼻を突く
ぐるり、見渡して
ベッドの上に、尋ね人
しかし其れは既にただのモノと化した]
……あぁ…
[やはり
其れしか浮かばない
昨夜、彼は何度も言っていたではないか
後を、頼む、と]
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