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[それぞれの会話をぼんやりと聞きつつ、考えを巡らせる。
忘れようにも忘れられそうにない、紅の痕。
あれをなしたものがこの中にいる可能性は、やはり信じ難くもあり。
しかし、目の当たりにした『現実』は、重くもあり]
……何れにせよ……か。
[零れ落ちる、小さな呟き。
無意識、右の手に力が篭り──痣の浮かぶ手首が、微かに痛んだ]
[答えをあげられないことに済まなそうに頭が垂れる。
しかし続く言葉と加わる手への力に、ふ、と視線を上げた]
……ああ、信じるよ。
[イレーネからの笑みに、ほんの僅か笑みが浮かんだ。
彼女には信じる者が二人居ると言う。
己には誰が居るだろうか。
おそらくは己自身と、目の前の少女だけだろう。
他の者を無条件で信じられるほど、付き合いは深くなかった]
[イレーネが宿に入るのに続き、己も足を踏み入れる。
浮かんだ僅かな笑みは当の昔に消え去っていた]
全ては主の心のままに。
[熱帯びる二人の主に、ゆっくりと拝する。]
そう、この結末を、血を呼び起こしたのは人自身。
エウリノも、ロスト様も、そっとしておいてくれれば何もしなかったのに…。
人は、なんて、愚かなんだろう。
[冷たい声が静かに響く。]
[姉の問いには、明確には答えず。
ややして、店内に戻って来ると、ハインリヒとティルという、年の離れた組み合わせへと歩み寄る]
そっちは食事、何か要らないの?
[エーリッヒに訊かない理由は、言わずもがな]
何が。
呼び声が、意思が、聞こえるのだよ。
残骸の欠片が。
[ユーディットの瞳を見返しながら、曖昧に答えるが、イレーネの名が出ると少しく思案した風で。相手の掌に包まれた林檎を一瞥してから、ぽつりと]
……イレーネとは、違う。
私を呼ぶ声は地からの物だ。呼び声は、残骸の物だ。
残骸の……死者の、声だ。
私には死者達の声が聞こえる。
[常にはない具体的な言葉を紡ぐ。また相手と合わせる視線は、真っ直ぐながら虚ろな物。およそ普段通りにも見えるだろうが]
常態であった。それでも常態ではなかった筈なのだ。
だが…… 塔は崩れてしまった。
投票を委任します。
画家の卵 ミリィは、医師 オトフリート に投票を委任しました。
いらっしゃい。
[訪れた二人へと、視線と共に声を投げる]
大分、揃って来たかな。
ゼーナッシェさんは診療所として……
ミリエッタの姿、見てないけど。
知ってるのかね。
…でも、出会えたことには感謝するべきなのかもしれない。
[ぽつりと呟いた。
もし一生人狼と会えなかったらどうしようとは思っていたから。
その為に、村を出ようと思ったこともあった、が。]
…運命の巡りあわせ、か。
[視線は、エウリノを見ていた。]
[食事について問われない事には、気づいているのかいないのか。
それでも、新たにやって来た人の気配にそちらを見やり、や、と短く挨拶だけは投げて]
[新たに入ってきた二人に挨拶をしつつ、歩みよってきたアーベルの問いに答える]
あー、俺はとりあえず鶏肉のサンド。野菜抜きで。
後、ビールな。ビール。
しっかし、商売熱心な野郎だな、お前もよ。
[テーブルの上に代金に見合った金額を置きながら苦笑する]
っはは、良いぞロスト。
そう、この状況を作ったのは奴らだ。
封鎖なぞ考えなければ、俺だって何もしなかった。
今までも何もせずに来た。
ずっと抑えて過ごしてきたと言うのに。
この村を気に入っていたから、住み続けていたいと思ったから。
村人には全く手を出さずに居たと言うのに!
[荒げた声は悔しげな感情も混ざり。
苛立ちが精神を支配した]
はい、それでは。
[鞄を開ける。
取り出していた道具を、つい落とした]
失礼。
…それは、その。
[目が泳ぐ]
貴女は命の恩人でもありますし。
大切なお嬢様ですからね。
[僅かに弾む声には軽く口元に手を当てて。
誤魔化すようにそう言うと、手際よく包帯を巻いてゆく]
認めるわけにはいかない。
[押し殺すように]
彼女を守りたいのならば。
[溢れ出ようとする想いを、無意識下で押し止めようとする]
[宿に入ると、人がいることにほっとした。
全員容疑者という括りではあったが、それでも誰も居ないよりは良いように思えた。]
ミリィは…少し前まで家にいたよ。一緒だったから。
…お医者先生、様子見に行ったのかな。
[アーベルには、そんな事を応えた。]
[そして一度、宿の中を見回して、いる人の顔を確認する。]
[宿屋に入れば居る面々に会釈を返し。
空いているテーブル席へと腰掛ける]
…先生もミリィも俺は見てない。
工房に籠りっきりだったし。
[アーベルに返しながら、いつもの、と料理の注文]
残骸?
[顔を顰める。
ブリジットの話は難しい……酷く難しい。
だからいつも、半ば理解は諦めて聞いている。
けれど、これは大切なことなのだろう、そう思ったから。
身を乗り出すようにして、紡がれる言葉を懸命に聞き取った。]
イレーネとは、違う? 残骸?
[そのうち、具体的な、判りやすい言葉がその耳に届く。]
死者の声。死んだ人の声。
[それはまた何かの喩えなんですか、と尋ね返そうとして、
昼間のブリジットの叫びを思い出す。
そう、あのとき丁度、ギュンターの死亡が確認されたのではなかったか。]
もしかして、ギュンターさんの声も聞こえていたんですか?
嫌だな、
食わなきゃ生きていけないんだから、心配してるんですよ。
[ハインリヒの苦笑に対して、嘯いてみせる]
人を喰った後だって言うんなら、話は別ですが――
[笑えない冗談、とも本気とも取れる台詞。
注文に了解の意を示して、置かれた代金を受け取った]
まあ、熱心なのは認めますが。
生きる為には金が必要ですからね、売上ガタ落ちですし。
野菜も食わないと、肉食動物と間違われますよ。
[女将へと注文を伝え、先にビールを置いた。ティルにはジュースを]
[虚ろな瞳には気付かずに]
塔が崩れた……。人狼が動いたから、という意味ですか。
[呟くように尋ねたところで、ブリジットの挨拶にふっと扉に目を向ける。こんばんは、と入ってきた二人に挨拶をした。
再びブリジットに向き直る。]
人狼の御伽話に、そういう力を持つ人が出るんですね?
死んだ人の声は……。何を齎してくれるんでしょうか。
そう。
握っていた手綱を切ったのは彼ら。
本当に愚かしい。
[一瞬のそれはすぐに消えて。
クツクツと嗤う気配が流れる]
けれど同時に愛おしい。
我らを楽しませてくれるその愚かさが。
エウリノ。
[荒ぶる声の傍らに、添うように冷たい意識が佇んだ。慰めるように。
村を気に入ったという言葉が嬉しかったのは、そっと内にしまう。]
ああ、そうなんだ。
篭りっきりだったりするのかな。
[注文を伝えに行く間に返ってきた答え。
ユリアンを見て、其方さんみたいに、などと言いつつ]
まあ、その方が――
被害者なら、安全なのかもしれないけど。
[注文には、はいはい、と二度の返事]
イレーネは?
また、ユリアンと同じ?
ありゃ。
それは残念。
[言葉とは裏腹に、あまり落胆した様子は無い。
包帯は、そんなことを言っている間に、見事に巻かれていった。
綺麗に巻かれた左手を見て、ほー、と唸る]
さっすが。たいしたもんだね。
わたしゃ、嬉しいよ。
……思えば、昔から先生には色々とお世話になってるなあ。
―――そうだ、せんせ。
お返しに、私から先生に幸せのおまじないかけてあげる。
その準備、見られると効果無いから、ちょっとだけ目を閉じてもらってもいい?
[ロストの意識は人間と自分を分けて考える。
オトフリートの意識は人間と自分を同じに考える。
その軋みは狂乱の気配に紛れて]
[アーベルにこくと頷いた。少なめにと一言付け加えて。]
あ、でも。その前に…。
[注文を取って去ろうとするアーベルに、というよりは近くに居る人らに向けて。]
…一人、視てきたの。
[何をと、誰をは、まだ言わない。]
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