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[男は天を仰ぎ、微かな声で旋律を紡ぐ。
緩やかな音の流れは雑踏に紛れて消えていく]
[ふと、誰かの視線を感じて。
自然と顔を其方に向けた。
誰とも顔を合わせないようにと思っていたのを、一瞬、忘れて]
……こんばんは。
[ノーラが此方を見ているのが判れば、薄らと笑みを浮かべる]
[…椅子を勧めると、自分も椅子に腰掛け…近くにあった緑を基調としたランプに火を灯す]
…あの子が…ね。
なるほど…だから…あんなに。
[初めて出会った時、あんなに寒そうな格好で。
あんなに、人見知りをしていた仕草で。
物珍しそうに目を向けていたのだろうか。
軽く視線を落とし…]
…多分…舞姫、妖精自身が踊っちゃったから、王様が…
怒った、って。思ったんじゃない?
[外とは違い、声は喧騒には飲み込まれず、沈黙を破る。
その落差は耳に声を通らせた]
ミハエル、さん…が、か…
あの子、そう言う所、ちゃんと気をつけてそうだからね…
…でも…今回のは。あの子の、決めたことだし…
色々と、重なりすぎた部分もあるし。
『そう、意地。
それを創り上げる事が意地。
『人として』残したいもの。
そう言ってた。
ぼくら、人と近しく交われても、人になる事は容易くない。
そして、フェーンは。
人になることを選べない。
だから、人として残したいんだってー。
まあ、考えすぎの大バカなんだけどねー』
[最後に、さらりと真理を言ってのけているような]
[急に立ち上がったミリィに手を引かれ、雫の散る睫毛を震わせて、決意に満ちた少女の顔を見上げる。]
確かめ…るって………きゃぁ!
[ふいに、ぐるりと景色が変わり、見た事のない部屋
――工房にいる事に気付く。
ユリアン、リディ、それから…ミハエルがいる事にも。]
ごしゅじ……っ。
[口を付いて出ようとした、言葉を寸前で飲み込む。
彼女にはもう、少年を主と呼ぶ権利も義務もないから。]
[やがて飲み終えると、子供は頬笑んで、
そのコップを、そっと店主に返す。
身体は温かい。
声はないけれど、
大切なひともいる。
なつかしいような気もして。]
色々、詰めないとなぁ。
[ぽつり、星を眺めて、呟いた。]
[誰がいても
誰がいなくても
そんなの子供には関係のないこと。
結局のところ、
さらわれた人をみても、
自分がかわりに出ようとしない妖精が、
子供にとっては一番悪いから、
後は気にしないことにしただけ。
誰が妖精だとかも、
もう、気にすることはなく。]
……そっか。
[それ以上、返す言葉も見つからずに小さく溜息を吐いた。
……その返答も、予想していた物だったのだけれど。
ずっと右手に握っていたそれを―――ぐ、ともう一度強く握り締める]
―――そっか、うん。そーか。
判った。納得した。
……――――っユリアンにぃのバカっっ!!
[勢い良く振りかぶって。
右手を離れたペンダントは、相手の額へと目掛けて]
[そして、その場から反射的に逃げようとして――彼女の手をしっかと握ったまま、ミリィが固まっている事に気付く。]
……ミリィ…?
[――思わず、心配になって、そっと声を掛ける。
そんな彼女は、実はユリアンとミリィの仲を、ちっとも知らないままだったり。]
…大馬鹿だな。
[こくりと頷いた]
全く。大馬鹿者だ。
[次いだ言葉は、ユリアンに向けられたものではなかったようで。
遥か遠くを見るように視線が僅かに逸らされる]
[店内が緑の光りに包まれるのをぼんやり眺めながら
勧められる椅子に、礼を言って腰掛ける。]
……色々重なり過ぎた部分か……
なあ、それだけで納得しちゃって良いのかよ…
ユーディットが舞姫を踊ったのは知らなかったが
もし、イレーナの考え通りなら…あの娘さんだって……
[続く言葉は飲み込んで。]
……ユリアンと話しはしたが、
親子喧嘩でここまで巻き込み、巻き込まれって…
……んなっ!?
[突然投げつけられたそれに一瞬戸惑うものの、反射的に手で受け止める。
伝わる感触は、知っているようないないようなだが、それは置いておいて]
……ああ。
バカだよな、どうしようもなく……。
[かすれた声で、呟いて]
[短くなった髪はさっぱりしている。
子供は、大人たちに挨拶をして、部屋に入り込む。
子らはきっとまだ帰らない。
帰ってくる前に……]
[少年が遠くを見た事など、特に気に留めた様子もなく。
ネズミが見つめるのは、銀の燐光をまとう花冠]
『ほんとに、バカで困るんだよねぇ。
……どうすれば、いいのか。
答えは持ってるのに。
ためらってる。
怖がってる。
他に方法がないの、知ってても。
なんで言えないんだろうね、「力を貸して」って、一言が』
[独り言めいた言葉は、僅か、苦笑の響きを帯びていたか]
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