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[広場から、崩れたビルの並ぶ廃墟へと戻っていく。
手にした端末の飾りは指に絡めとられて、音は鳴らない。
代わりのように薄く唇を開きかけて、
微かな音色を聴いた。
光の次は、音。
先程よりは、警戒のいろが浮かぶ。
けれどやはり気になるらしく、足は止まった。]
[音を聴く者がいる、という可能性には意識は回らないようで。
こちらも今はいない、姉に教わった旋律を、ゆっくりと紡いでいく。
静かな曲が多いのは、無自覚の苛立ちを鎮めたい思いの現われかどうかは、定かではないが]
っと……。
[それでも、感覚はやがて、人の気配を捉え]
……誰か、いる?
[手を止めて、音の代わりにに問いを外へと]
[音色を拾い集めるうちに、細められる緑の瞳。
其処に危険は感じられず、訪れるのは、むしろ安堵。それと、ほんの少しの寂しさ。 誘われるようにゆっくりと、歩み出した。
わざわざ「招待者」が用意したか、それとも過去の名残りか。
とうに機能を失った店の残骸を慎重に避けて歩み、]
え? ――きゃ、
[……投げられた問いに意識が逸れて、避け損ねた。
近くの棚の上に残っていた装飾品が、派手な音を立てて落ちる。]
あぁぁ。
[何処かの執事の事は言えない。
と思ったのはともかくとして。]
[短い声と、物の落ちる派手な音。
身構えたのは一瞬──しかし、それはすぐに、とけて]
……なに、してんだか……大丈夫かー?
[そこにいるのが誰か、何が音を立てたのかを大体把握すると、ため息混じりに問いかける]
だ、大丈夫――
[です。
言いかけて、止まる。
落ちて来た物はぶつからなかったものの、引っ掛かった瓦礫は、しっかりと黒のタイツを裂いていた。膝の辺りに血が滲む。]
……!
替え、少ないのに……!
[怪我よりも、重要なのはそちらのようだった。
事実、痛みはさしてなかったから。]
/*
あー、待てよ。
あんだけはっきりとユリアンに懐くんだから、ベア・ユリが共鳴の可能性あるのか?
そうなるとティル狩でナタ結社?
イレが妖魔、ってことになるか?
*/
……いや。
気にするのって着替えより、怪我だろ普通。
[上がる声に、口をつくのはこんな言葉。
この辺りは価値観の違いによるものなのだろうが]
ちゃんと、手当てしといた方がいいぜ。
こういうとこの瓦礫にゃ、何が混ざってるかわかりゃしねぇしな。
タイツないと見えるじゃないですか……!
[至って大真面目だ。
苦労しながら瓦礫の群れを抜けて、少し、開けた場所に出る。
ようやっと、音の主の顔を見た。]
……じゃ、なくて。
ええと。
アーベルさん、ですよね、弾いてたの。
邪魔したのなら、すみません。
[頭を下げて謝罪。
それから、ポケットをがさごそと漁って、]
……あ、そっか、貸したまま……?
[ハンカチの行方を思い出して、独りごちる。
鞄になら、予備があるはずだったのだが。]
はあ。
そういう問題なんか。
[やっぱり良くわかっていないらしい。がじ、と蒼の髪を軽く、掻いて]
いや、別に邪魔じゃねぇが。
物珍しくて、鍵盤はじいてただけだし。
[言いつつ、また、音を鳴らし。
何やら探しているらしい様子に気づいて]
貸したままって……縛っとくもん、ないんか。
[っても、俺もないしなー、と、ぽつり。
なけなしの物は先日のクリーチャー戦の血の始末で、既に臨終していた]
―昨夜:回想―
[暫しの会話の後に友人達と別れると、階下へと足を向ける。
広間にはまだ幾人か人が揃っているかも知れなかったが
気付いていないのか、見知らぬ振りをしたのかそのまま通り過ぎて。
カツ、と小さく足音を響かせて玄関ホールへと辿り着いた。
周囲に人の気配が全く無い事を確認すると、その足取りは真直ぐに――
しかし、外へと続く扉では無く、壁際へと向けられる。]
[何の飾り気も無い壁を目の前にして、ぴたりと立ち止る。
無機質な白を見つめながら何を思い出したか――ひとつ溜息を零した。
僅か細めた瞳に浮かぶのは、何処か、冷たさの滲む色で]
――…、ああもう。
よりによって。
[一人でこなす方が、幾らかマシじゃないですか。
苛立ちの含む呟きを零しながら、目の前の壁へと掌を当てる。]
[す、と掌を滑らせて、或る一点で、其の動きが止まる。
ゆると翠を瞬くのと同時、音も立てずに隠された扉が開かれた。
しかし、突如現れた其れに驚愕の色も浮かべずに。
待ち受ける相手が相手だけに――…全く気が進まないが。
出向かない訳にもいかない。再び、溜息を零して。
ぽっかりと口を開けたエレベーターへ、足を踏み入れる。
白の壁が再び音も無く、青年の姿を*消して*]
―地下―
[低い駆動音を立てて、暫しの後に鉄の扉がゆっくりと開く。
静けさに包まれた通路の向こう、振り返る相手の存在を認め翠を細めた。
カツ、と音を鳴らして通路へ足を踏み入れると、
白い扉が、背後でゆっくりと閉じられる。]
「お久しぶり、会えて嬉しいです。」
――とでも、言えば宜しいですか?
[虫唾が走る、と向けられる言葉に小さく鼻を鳴らし]
/*
…偉い勢いで爆睡しました。まだ眠いです。
全力で回想形式了解。 こちらも今は暫く反応遅いので。
…メモのやつは、うん。
直そうと思ってて、すっかり忘れてました。ありがと!
はっぴーばれんたいーん。
っ【チョコ】【チョコ】【チョコ】【チョコ】【チョコ】
[4つは墓下用。 皆、こっちに来たら食べればいいよ!]
*/
そういう問題なんです。
[こくこくと頷いた。先日の繰り返し。
無いものは仕方ないと諦めて、なるべく足に意識を向けないようにすることにした。]
珍しい? でも、弾いて――
ああ、こんなところにあるのが、ですか?
確かに、そうですよね。
大分昔のなのかな?
造り自体も古いみたいだから……。
[顔を動かして、ぐるりと周囲を見渡す。]
なんで、こうなっちゃったんでしょうね。
(…面白いと来たか)
[自分と対話してイレーネが漏らした感想。
無知なる者はかくも意図を理解出来ぬが故に幸であり不幸であるものだ、と思う。
少女がこの意図を理解した時、この感想はどのようなものへと変わるのだろうか]
[広間に人が少なくなると、自分も広間を辞し。
廊下にまだ人が居た場合は挨拶をしてから個室へと戻る]
─そして現在・個室G─
[自室にて乾かしていたハンカチを手に取る。
長く干していたために水分は完全になくなっていた。
皺の残るそれを出来るだけ丁寧に畳む。
付着していた血はある程度取れていたが、うっすらと残っている箇所があったりもした]
…血は、なかなか落ちないからねぇ。
[仕方ないか、と僅かに肩を竦めた]
……ああ。そ。
[繰り返しの問答に、これ以上はキリがない、と判断して、その話題はそれまでに]
ああ、残ってるっていうのが、中々珍しいな。
こういうモンは、大抵お宝狙いの連中がさっさと片しちまうから、残ってる事は少ないんだ。
[かく言う自身も、そんな仕事を請け負う事は多いのだが]
……なんで……って。
この廃墟が出来た理由、か?
[軽く、問いつつ、また鍵盤に指を落としていく。
紡がれる旋律。
『冬って、ほんとはあったかいんだよ』
そんな口癖と共に紡がれていた音色を、静かに織り成して]
/*
……墓下にて、血で血を洗う戦いが…!?
チョコってば、恐ろしい!
[がたぶる。]
しかし、全力で釣られてやしませんか旦那ァ。
*/
ああ、えっと……
[言葉に詰まったのは、
他にも意図があったからか。]
そうです。
なんで、壊れちゃったのかな、って。
やっぱり、『異変』のせいなのかな?
[旋律を妨げないように、声は小さく。
吐き出す息は仄かに白く染まる。]
[詰まる言葉に、蒼は一瞬だけそちらを見て、また、鍵盤に戻って]
さてね。
『変異』のせいか、組織同士の撃ち合いのせいか、ざっと見ただけじゃ判断はできんかな。
わかるのは、ここが壊れてて、何でかピアノが残ってた、って事だけ。
でも、俺にとっては、目の前にあるその事実だけで十分……知ったところでどうにもできやしない過去の事で悩んだって、時間の無駄だろ?
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