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[別れを告げて外に出た。
随分と賑やかな方に目を向ければ、広場の中央に篝火が組まれていた。目を細めて見る。
如何やら先程の面子で、宴会のようなことをやっているらしい。]
……嗚呼、そうだった。
[辺りに漂う匂いには惹かれるけれど、しなくてはいけないことがある。
輪の中にいる妹は、あまりに遅いようなら迎えに行けばいい。多分必要ないだろうが。
そう判断したから、広場には立ち寄らず、自宅へ向かうことにした。]
………ッ!?
[聞こえた声に、挙手した手に遅れて顔を上げる。
「想った」心算が、声に出ていたのかと、
表情薄い少年の貌に焦りが浮かび、辺りを見渡した]
この村の男は揃いも揃って酒好きだな。
[ミハイルとロランの様子を眺めクツリと笑う]
ロランが赤なら僕はこっちを飲むかな。
[ロランへと差し出して見せた白のグラスを軽く揺らす。
薄い琥珀の水面がゆらと波打った]
[あげた顔、白い葡萄酒のグラスに写る。
呑み干してしまった洋梨の果実酒の瓶は腿の横、
それも欲しい、と言って色の白い手を差し出す。
ユーリーを見上げる顔は、じっとその口唇を見詰め
彼が妹の事を告げる様子を見逃さない]
……そ、っか。
そっか。
[その言葉に、眉を下げて無表情を緩める。
白葡萄の色の液体を見ると、彼女の柔らかい髪を思い出す]
――そうか。
[もう一度呟いてから、ユーリーを見上げ、
ありがとう、と、少しだけ眉寄せ口元緩め、告げた]
[焦ったように幼馴染が顔を上げる。
それへとボクは、思い切り目を向けてしまった。
確かにそうだと思う、確信がある。
───あの日、彼も赤い月を見たのではなかったか]
[目が、合う。
――遠い遠い過去に、白い花を欲した幼馴染と。
違う、聞こえたわけじゃない。
否、聞こえたのだ。
悟るのは本能の部分だから、きっと間違い無い]
…――そう、足りない。
[続けてみる]
[続く言葉。促すように響く囁き。
それはあの夜の月のように、心の奥を暴いていく]
…これじゃ、足りない……。うん。
”あの人”でも、まだ足りないかな。
[少し残念そうに、手元の皿に視線を落とす。
美味しく調理された森の鹿。
食されるために供された動物だけじゃ、物足りない。
喉の奥から飢えがじわりと、心を浸す]
うん、ボクだよ。ロラン。
…──ここにいる。
[遠いあの日に手にしたのは、淡く香る白い花。
今この目にするのは、禍々しいほどの赤い月]
ロランも、なんだね──…
[伸ばされたロランの指先にグラスの脚を触れさせる。
幼馴染である彼や彼女らに手紙を送ったか如何かは知れない。
送っていないのだとすれば、理由は知れる。
快活だが寂しがりでもある妹のことだ。
幼馴染からの返事で里心つくのが目に見えていた]
――…そう、さ。
[ロランの浮かべた表情にふと目を伏せる]
キミが気にしていたと知ったら
今年は里帰りするかもしれないな。
[届いた手紙に、未だ返事は書いていない。
物思うように呟き、それからゆると首を振る。
それは浮かんだ考えを打ち消すような仕草だった]
うん。食べてみてから言ってよ。
あ…っ、ふふ。ありがと。
イヴァンも飲む?うん……乾杯。
[ミハイルへ、ボクは軽く胸を張って言ってやる。
けれど赤い葡萄酒のグラスを受け取って、
そのポーズもすっかり崩れてしまった。
傍らのイヴァンと、こっそりグラスを打ち合わせる。
何だかもう、香りからふわりと酔ってしまうような心地がした]
[ユーリーから受け取るグラスは、ペロと舐める。
程良い酸味が鼻を抜け、喉へと落ちる熱。
少し目を眇め喉を鳴らして飲んでから、ぽつりと落とす]
里帰り…か。
……嬉しいけど、また、行く、んだよね。
[ロランに彼女からの手紙は届いて居ない。
ロランからもまた彼女の住所を聞き出して書く事はしていない。
この村に戻る事が良い事なのか、判らなかったから。
それからミハイルへと顔を向け]
でも、違う場所ではまだ駄目な年らしい。
[赤い葡萄酒も遠慮なく貰う。
ふたつのグラスをチンと当てて見せられる程には、
少し、機嫌が良くなっている自分にも気づいた]
― 自宅 ―
可愛らしいじゃない。
お兄ちゃんとしては心配――ってよりは、嬉しい感じね?
[レイスの表情はあまり動かないけれど、昔からの付き合いだ、なんとなくはわかる。
面白そうに言って。
しばらくした後に帰るというのを、玄関まで見送った。]
気をつけるわ、ありがとう。
[ひらと手を振り別れて、広場を見やる。
賑やかな様子に、笑みが零れた。
それでも墓地のことを、話を思い出すと、表情は曇る。
今は近づくような気持ちになれなかったから、しっかりと鍵をかけて屋内に戻った。]
人狼なんて、いるわけないじゃない。御伽噺よ。
……幽霊だって、いないんだから。
[合わない指輪にキスを落として、好きな人の好きな味に変えたクッキーを一枚、齧った**]
[赤い月を映す烏色もまた、赤く染まった時。
どうしようもない衝動に、胸を掻き毟った]
…ん。
――そうだよ。
御伽噺なんかじゃない。
[眇めた眸の奥に浮かぶのは凶暴な焔ゆらり]
ああ、じゃあ…「あの人」は、君が?
[自身が酷い衝動に夜中彷徨った時。
もう、あの旅人は殺されていた。
それでもどうしても抑えられなかった、から。
付近の狼達に混じり、その冷たい屍肉を啜った。
その甘美な味は、未だ、覚えていて
――暖かい血肉が欲しいと、自身の奥が訴える]
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