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[出来あがった元紅茶で身体を温めつつ、
まずは運ばれたオニオングラタンスープを頂く。]
[店内は祭りの前…と、言うことも有って、
普段見慣れた顔以外にも、あきらかに観光客と言う人間も多く
なんとなく、落ち付かない空気を作り出している。]
―大通り―
はー…寒い。さむい、さむーい。
[口に出す言葉とは反比例に、笑みを浮かべたまま通りを歩く。
…昨夜とは対照的に、手に持つのは甘い星屑の入った小瓶が一つ。
とは言っても、屋台を定める様に辺り、
今日もそれなりに買い込むつもりなのだろうけども]
[湯気がほわほわ、白くのぼる。
温泉の湯は子らが揺らす。
ぴちゃぴちゃ、ぱちゃん。
聞く人が聞けばやかましいと思うだろう。
しかし子らは楽しげに、
ぴちゃぴちゃ、ぱちゃん。
湯を揺らして、遊ぶ。]
そろそろ逆上せてしまうよ?
[子供は心配そうに言って、白い湯から上がる。
子らを置いて、脱衣場へ向かった子供は、
外の景色に、ほぅと息を飲む。
ここらへんには人が来ない。
温泉に来る人しかこないから、
木々の下の白い雪は、月の光に輝いている。]
綺麗……
「ビーチェ?」
[子に声をかけられて、子供はやっと戻ってきた。
目をぱちぱちとさせて、首をゆるく横に振る。]
大丈夫。
湯冷めしちゃうから行こう?
[子供が笑うと、子らも笑う。
一緒に、お風呂を出たら、
やっぱり脱衣所はとても狭かった。
総勢十人、騒いで、暖かいうちに、着替えていく。]
[店内に響く話し声はこの村の妖精伝説…に関する物が多い。
「助けた妖精によって、災厄から救われた」…ことから妖精と縁がある土地]
[そうは言っても、伝承された昔話に残されているだけで
本当にそんなことがあった…とは青年は考えていない。]
[きっと観光PRの一環で生まれたものなんだろうな…と
近所の温泉宿が「妖精さんが掘ってくれた”元祖妖精温泉”!」等と
言ってPRしていたのを思い出し、
「妖精と温泉の関連ってなんだ…?」と、ぼんやり考えながら、
スープの中のパンにスプーンを刺しながら考える。]
[…最後の仕上げ。
深い青色のガラスの蔦で、馬と芝を繋がれた。
馬の頭から深い青は続き…芝に行くほど明るい緑へと色を移す。
その球体には一本の緩やかな曲線が通っていた]
…
[皮の紐を手綱に、馬は闇の中、一閃の光を零すだろう…]
…闇を奔る風《ルート》…
[小さく呟くと、針で芝に文字を綴った]
ここで咆えてても、イメージが天から落ちてくる訳でもねーし。
取りあえず、何か腹に入れるか……。
[そうは思えど、何か作る気力はないわけで。
必然的に、向かう先は……酒場となる]
……………
[スプーンでふやけたパンをすくい食べる]
[いまでこそ、青年は妖精とこの村…に関する伝承を
大分冷めた思考で捉えてはいるが……]
……幼かった頃の話しだ……
[青年は誰に言うとでもなく、そう呟くと
溶けきらず形を残した、オニオンをスプーンで口に運んだ。]
[針を置くと、小さく息を吐き…その馬を見つめる]
…ん。
[その馬を指でつつ、と撫で…]
…名前までは、彫らない方が良かったのかな…?
[その問いを聞くのは目の前にいる青い馬。
しかし、その口は堅く閉ざされて]
[男は宿の寝台で死んだように惰眠を貪っていた。
昨日は雪の降る中深夜まで。
今日は雪の積もる中を朝から昼まで通して。
そんな風に駆け通しではさすがにバテた]
[それでも空腹はやってきて。
眠りに沈み続けた意識は静かに浮上する]
…あぁ……夜か…
[窓から入り込む光は色とりどりのランプの灯。
それを見遣る目は――半分以上開いていないが]
おなかすいたー。
……空いたけど、何食べよ。
[たこ焼きは昨日食べたし。お好み焼きは似てるから却下だし。
むー、と唸る様に思考を巡らせて。]
……綿菓子で腹を膨らます、とか。
[無謀すぎる。金銭的にも、健康的にも]
[幼かった頃の話し……]
[一度、わざわざ口に出して思考を切り替えたつもりでも
小さな頃の自分が嫌がおウでも甦って。]
…………色々なことが一辺にありすぎた…
だから、きっと藁にも縋りたかったんだ…
[子供はどこに行こうか考える。
手土産を持って、酒場に行ったら、
昨日の人たちに会えるだろうか。
それとも、屋台のところを歩いていたら、
誰かを見つけられるだろうか。
少し考えて、一人、ふわふわと、歩いた。
昨日より増えた、お店を見る。]
[ぼふ、と枕に頭が落ちる。
そろそろ起きなければとは思うも、眠い。
いい加減腹に物を入れなくてはとも思うが、眠い]
……〜〜〜〜…
[声無き声が枕に埋もれた顔から上がった]
[小さく笑みを浮かべると、そのランプを開き…中に小さな火を灯す]
…
[仄暗い店内…置かれた机の上に、緑の草原を映し出す。
辺りには微かな青い光を照らした]
…
[…馬が駆ける芝の上…一つの切れ目から微かな強い光が漏れだしていた]
…妖精祭り、だから…お前は、お留守番。
また、外に…出して、あげるから…ね?
[もう一度、馬を撫でると、マフラーとコートを手に取った]
[祖父母の家への訪問は、無事……
と言っていいかは解らないが、取り合えずは、終わった。
……色々な意味で、疲れたが。流石は、彼の母親の両親、と言った所だろうか。酷く可愛がられてしまい、そういった事に慣れない彼にとっては、戸惑いの連続だった]
[陽が落ちるまでには帰る筈が、いざ外に出てみれば、空には目映い星。
昨晩同様に、否、それ以上に、村は幻想的な光景を見せていた]
……………
[祖父母に見えない所まで移動すると、溜息を吐く]
[祭りの前夜に賑わう村内では、彼のような貴族であっても、その存在は大勢の中の一に過ぎない。それが何とも、奇妙な感じだった]
[外に出れば、出迎えるのは色とりどりの光。
一瞬たりとも、同じ様相は見せぬ、光。
……そこから、何かつかめそうな気もするのだけど]
……イマイチ。
はっきりしねぇ、なぁ……。
[零れ落ちるのは、場に似つかわしいとは言えない、嘆息で]
/中/うたかた歌詞
夏の日に蜉蝣(カゲロウ)を見て 何故か愛しく感じた
羽音の調べは優しい子守歌に
土の中にかくれんぼ そして地上に舞うのは
わずかにして息絶えまた土に還る
儚くも散り行く姿重なった
知らないうちにそこにあった ただ押し寄せるあなたへの想い
胸は満ちて息が苦しい
どうか恋よ散らないでいて 還る場所はないはずだから
夜の海に光を灯す青い夜光虫 旅人が辿り行く道しるべなのか
薄明かり這いつくばっても行かなくちゃ
/中/続
あなたまではひどく遠い だけど足を止められない
道の途中は目に映らない
辿り着いた先にあなた
あなただけを捉えられたら
数多(アマタ)幾千うたかたと消えた想いを 空へと放って燦々(サンサン)と浴びてみようか
こんな気持ちを知っただけでも 幸せだと言えるのだろう
胸は爛(タダ)れ締め付けられても
どうか恋を咎めないで せめてしんと眠りに就かせて
[ふと気づく。さっきからスープばかりで、元紅茶に手を出していない。]
[青年は、きっとそれがいけないんだ。
と、ばかりに一つ頷くと、
元紅茶の入ったカップを手に取り一飲み。]
[……………………やはり、甘いものは最高だ。]
[ゆらゆらと揺らめくランプの灯りの下を、少女はゆっくりと踊るように歩いていく。菓子を揚げる香ばしく甘い匂い、どこかから聞こえる手回しオルガンの音色、祭りの開幕の時は、刻一刻と近付いている]
まあ、可愛い。
[屋台の一つに置かれた、美しく彩られた小さな陶器の天使や妖精の置物に目を止めて、少女は立ち止まる。その瞳はうっとりと細められ、目の前の妖精達が踊り回る様を少女にしか見えない世界で見つめている]
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