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お嬢様 ヘンリエッタが「時間を進める」を選択しました
< 一瞬、誰の事だかわからなかった。
これを巻いてくれたひとのことも、リックの紡いだ名前も。
覚えているはずだったのに。
霞がかったように、ぼやけてしまって。リックが教えてくれなかったら、もしかすると、きっと、そのまま迷子になってしまいそうな感覚だった。
どうして?>
……あ、ううん。
ええっと。
診療所のひと、だよね。
だいじょうぶ。
[後半は自分に言い聞かせるようにして]
いない、の?
[眉間に皺を刻んで考え込んでいる間、
水は絶え間なく垂直に流れ落ちてゆく。
その表面に少女の姿が映っては消えて。]
……、
[漸く蛇口を捻った頃には、
手はすっかり冷えてしまっていて、
タオルでしっかり拭き取って、
テディベアを抱いて祖母の元に戻る。]
[診察は順調に進み、やがてレベッカの番となる]
次の方、どうぞ。
おや、レベッカさんにリックくん? どうされましたか。
[小さな騎士に付き添われた姫君を椅子に促して、*診察を始める*]
――ごちそうさま。
うん、ちょっと、お散歩。
今日は怪我しないから、心配しないで。
[朝食を終えて、
少女は心配性の老婆にそう言って、
今日も町へと繰り出していく。
よく遊ぶのはいいことだけれど、
祖母は孫を見送りながらも複雑気分。]
[悩みがおをしながらゆっくり歩んでいって、
メインストリートで今日も配られるリーフレット、
その一枚を受け取ってはまたも考え込んで。
広場の方角から聞こえる歓声。]
なんだろう?
[そちらへと向けられる少女の足。]
[彼女から暫く聲が返る事はなくて、
彼の呼びかけにようやっと我に返ったのなら、
*目に映る青の少女に覚える違和感を伝えるだろう*]
[看護婦に扉を開けられ、ヴィンセントの顔を見るや、驚いたようなほっとしたような複雑な表情を一瞬で顔に浮かべ、促された小さな椅子など見えぬように思わずぱたぱた、と2,3歩歩いて近寄った]
ヴィンセントさん…!
ニーナ、どこにいるか知りません?ニーナ。
あぁ、その前に、ニーナ、知ってますよね?
昨日もここで話し、してましたし、顔覗かせてましたよね?
[早口で捲くる。]
[複雑な表情を問うよりも早く捲くし立てられ]
ニーナさん?
今日はどうやら遅いようですが、まだ来てませんか。
ええはい、もちろん知っていますとも。
[そこまで言って、訝しげな表情を見せる]
…何か、ありましたか?
[それはもちろん作られた表情、偽りの仮面]
くくっ…ニーナさんなら我らが偉大なる団長の元に。
彼女に会いくば、サーカスへおいでなさい。
貴女の魂の花も、永遠の美に奉げるのです…
[密やかな笑い]
[ヴィンセントの返答を聞き、力が抜けたようにトスンと椅子に座る。近くのリックは、彼女を支えようと手を貸しただろうか。
ほっとした感情とぞっとした感情、逆のふたつがうねり、更に冷たい汗が背中を流れるのを感じた]
…知らないって。
看護婦さんが。
ニーナ、アーヴァインさんと一緒…?
[焦点の定まらない目でヴィンセントの眼鏡を見つめる。
知らない?
でも今朝ニーナが遅れているようですねと言った時、何も――
[何もなかっただろうか、と口ごもる。
看護婦は適当な相づちを打っただけで、はっきりと名を聞いたわけではなかったろうか。
しかし、それよりも]
…まずは診察が先です。
体調のよくない状態で考えても、正しい判断は出来ませんよ。
[茶色のレンズ越し、焦点の定まらない目を覗き込み言い聞かせ。
淡々と診察を進めてゆく。
やがて下った診断は、疲れから来る風邪だろうとのことだった]
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