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―― 屋上 ――
[振動が続く中、ヘリコプターはなかなか発進しない。
がたりと、ひときわ揺れが大きくなった瞬間]
[つきりと、こめかみの奥が痛んだ。くらりと眩暈がする。
それは、ここ最近随分となじみになって。
それでも、死とともに切り離されていた感覚]
[目を閉じると、まるで吸い込まれるように。
刹那。言葉が、知性が。
頭の中から消えていく感覚がよみがえる]
(―― ああ。今。
長い間、ありがとうございました。
大切に出来ず、厭ってばかりで、すみませんでした)
[あの世に産声を上げた瞬間から、ずっと閉じ込められていた檻。いや、ずっと共にあった相棒が、完全に崩れたのが分かった]
[開放されてあんなにも喜んでいたのに。
男らしくなく、華奢なそれをずっと厭っていたのに。
それなのに、なぜか、もうない筈の心臓が痛んだ]
……――ノーラ?
[まるで威嚇するようなノーラ。
アーベルは、笑っている。
――ヘリは空へ。
空へ、飛び立つ。白い鳥の風切羽が
視界を横切っていった。
古城は――爆音と炎に包まれ。]
どうしたの? ノーラさん。何が、駄目なの?
[浮かび上がるヘリ。ノーラに抱きしめられると、判らないままその手を握り返した。
アーベルを睨む目には気づかない]
……どう、した?
[揺れる瞳に、困ったように問う。
視界から、異変が起きているのは察していたが。
響く、ノーラの声、ヘルムートの声。
戸惑うところに、掠めた唇。
触れられたのはわかっても、それ以上は確りとは感じ取れなくて。
また、苦笑が浮かんだ]
[怒られた]
[まるで犬のように]
[肩をすくめて]
[ごめんなさい]
───何。
[ノーラがこちらを睨んでいるのが見えた]
[大丈夫だって言ってるのに]
そんな怖い顔して、どうしたの。
[首を]
[緩やかにかしげる]
[ヘリは動き出しどこかへと向かうのだろう。
密室で数も不利ならば彼は何もしないのだろうかと思った。
解らない、ただ、伝えるべき事は伝える。
そこで迷っては、もういけないから。]
皆…気を付けて。
[少女を抱きしめたまま、言う。]
―― アーベルは…ピューリトゥーイ…。
[赤い星がそうだと告げていた。
大丈夫、その意味に気づけてはなくて]
……気を付けて。
[もう一度、伝えた。
傾げる首、彼は――何と答えるのだろう。]
…どうして、…
したかったから。
[ライヒアルトにはそれだけ答え。
飛び立つヘリ、歪な笑い声、崩れ行くお城。
わけもわからずライヒアルトに*身を寄せた*]
―― 屋上 ――
[ヘリは、ばたばたと大きな音を立てて。
崩れ落ちる古城から、ゆっくり舞い上がっていく。
それは、まるで大きな鉄の鳥]
[星の世界を、力強く、飛ぶ。
先にまっているかもしれない、大きな希望に向かって]
[幸か不幸か、その風は今の自分には影響を与えない。
屋上があったところに、立っている]
[背筋をぴんと伸ばして、眼鏡をかけて。
見上げる。そっと、下から手を振った。
―― まるで、遠足の見送りみたいに]
行ってらっしゃい。
[別に、肉体にしばられている訳ではない。
今でも、意識を伸ばせばそっと彼女たちに触れられる。
でも、今だけは]
[自分を構成していた確かな1つがあった場所で。
もう少しだけ、弔っていようと思った**]
[浮上する感覚。
異眸と化した天鵞絨を転じれば、映るのは焔と煙]
……したかったから、ってな。
[返された言葉に呆れつつ。
身を寄せられたなら、護るよに、腕の内へと。
自身の不安もあったが、何より]
……なに?
[ノーラの告げた言葉が。
反射的に、そうさせていた]
[アーベルの言葉に、ノーラがアーベルに向けて言ったのだと知る。
その後に続く、視た結果]
アーベルさんが?
そうなの?
でも。
[大丈夫だといったアーベルの声]
ノーラさん、大丈夫、だよ。
ね。だから、安心して。私、ここにいるから。
[ノーラの背中を緩やかに撫でた]
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