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…うん。
[小さく、けれど、しっかりと頷き。
そろりと持ち上げた手で、エーリッヒの服を摘む。
回された腕の力に逆らうこと無く身体を寄せて、掠めるような囁き声に眼を閉じた]
うん…。ありがとう。
[こつり、額を押し当てながら、礼の言葉を]
ええと。そう、だね。
[回されていた腕を離されて、触れられていた部分に新たな冷気が忍び込む。
多少なり、体温が上がっていそうな今は、それが有り難かったりするのだが]
…。
[暖炉に火を起こす様を、少し後ろから眺め。
ばれないよう、こっそりと頬に手を当てた]
[何とは無しにエーファの顔を覗き込む。
髪を払った分、顔半分を埋める蒼炎の花がよく見えた。
けれど、そちらとは逆の頬には確かに血色が射していて]
もう大丈夫だと思うよ。
[それが、部屋に戻るきっかけとなった]
─回想─
[頼もしいと言われてまた喜びを感じる]
[以前と違い、マテウスには元々誰も重ねて居ない]
[共に仕事をし、長くを過ごした彼だからこそ執着していた]
[必要とされていると、そう思えるのが喜びだった]
[否定されず、認められていると、そう思えるのが悦びだった]
ああ、そうだな。
こんなところで風邪をひいて、熱や咳に苛まれるのは嫌だ。
[中へ戻ろうと促すマテウスの後に続き、集会場へと戻って行く]
[その後はマテウスと別れ、思い思いの行動をとった]
[ゼルギウスは当て所もなく彷徨い*始める*]
[夢を見た。
年上の幼馴染の後を追う子供。
開いていく距離。
母の話に聞き入る少年。
遠く離れた街の風景。
聖職者に教えを学ぶ青年。
村を白く染める雪。
広間に集い談笑する人々。
赤い軌跡。
口論。悲鳴。怒号。絶望。憎悪。狂気。
幾つもの出来事を、見た。
変わりゆく自身を、ウェンデルは傍観者として、見ていた。
最期に、一輪の花が散った。]
[そして意識は、現実へと引き戻される。
熱い。すぐさま眠る前の状況を思い返し、火の所為かと思った。
しかし、]
[身を焦がす程の熱。
身を引き裂かれるような痛み。
今までの比ではない。
視界が霞むのは、揺れる眼の所為か。
意識だけははっきりと、ある。
周りには敵も何もいない。自身だけだ]
[己が身体を抱え、座っていた椅子から落ち、床に転がる]
[痛みは、長くはなかった。
熱も、失せていった。
急速に。
しかしすぐには動けず、床に伏したまま、音を聴く。
暖炉は静かだった。火は殆ど消えている。寒い。
集会所の外から、話し声が聞こえた]
[幾人かの団員が、何かを取り囲んでいた。
また、雪は降ったのか。地面を覆う層。
彼らの立つ周りは、白くはなかった。
気配に気づいた一人の団員が振り返り、ウェンデルの方へと歩んで来る。
男の後ろに在るものが、見えた]
[あかい あかい 『花』が 咲く。]
[暗みを帯びた青の髪も、
顔の半分までを覆う蒼の花も、
全てが一色に塗り潰されている]
[誰かは直ぐに知れた。
血の気が引く。
身体が、震えた]
[何事か、自衛団員の問い詰める声がする。
乱暴に左腕を掴まれた。其処に在るものを、思い出す]
い…… ゃ、だっ!!
[振り払う。
すぐさま、その場から――集会所から、逃げ出そうとした]
[暴れるウェンデルに、横面への一撃が加えられる。
二つの異なる痛みに呻いているうちに、集会所に引き戻された。
外界とを隔てる扉が、閉ざされる]
[青年は、信じていた。
聖なる証を持つ選ばれし者は、他とは異なるのだと。
終わらせる者であり、自身の終わりなど、ないのだと。
けれど、全ては、否定された。
あの花は、『聖痕』などではない。
まるで、呪いだ。]
[死者を悼むことも、神に救いを求めることもしない。
十字架を取り出し投げ捨てようとすれば、花は咎め、それすら侭ならなかった。
握り締めたまま、祈ることもせず、*膝を抱えた*]
[ざわめきに気づいたのはいつの事か。
屋根の上。
いつしか閉じていた暗き翠を開き。
下を見る]
……なん、だ?
[集まる自衛団。
思い返すのは、自身のぬけがらの事]
[そちらへ揺らめき移動するのと、叫びが聞こえたのは、同時]
……今のは、朱花……っ!
[視界が捉えたのは。
紅。
真白を、あおを、染める、あか]
……蒼花……。
[朱花の混乱。
思うところはあれど、手は届かない]
……蒼花、散り。
残るは……。
[二つの『要素』。
それは、何処へ向かうのか。
考えても、彼岸の者には詮無い。
わかっていても。
そんな思いは、ふと、過った]
/*
今回、人狼は人間を喰っていないのかな、と死傷は書かず。
本来であればお譲りするのが妥当だったのかもしれませんが、やりたい部分でもあったので。すみません。
[紅を貴ぶよな声。
否定の言を投げたくなる。
されど。
どこが違うのかと。
自身とて、かつては。
黒き御霊を視る快楽を求め。
紅を望んだのに。
故に、それは飲み込んだ]
……そういえば。
あの、影は……?
[代わりに呟くのは、疑問。
先に、蒼花の周囲に見えたものへの]
ああ…良いなぁ、ウェンデルさん。
[彼の表情を、顔のすぐ真正面に屈み込んで見ている。ぞくぞくする。]
[知ってる、「嗜虐的な快感」って言うんだ。「虐めを嗜む」って意味。]
逃げ出したいんだよね?誰かに助けて欲しいんだよね?
でもでもダーメ、誰にも何にもできないの。
うふふふふ…
死の予感、予兆……。
そういうものでは、ないようだが。
それならば、御婦人はもとより、お前やら墓守殿にも見えて然るべき。
しかし、それはなかった……。
恐らく、他の二人も見てはいまい。
[思い返しつつ、呟く]
……蒼花にのみ、というのは……。
ああ、わたしにも見えなかったんだ。
…だからその変な言い換えやめたら?
蒼花、じゃなくて、エーファちゃん。
場だとか要素だとか、嫌いなんじゃなかった?
[ぐるり、周囲を見回す。
朱花に向けられる言葉には、何も言わなかった。
物言いやら何やらはともかく、それは真理であるが故に]
いずれにしろ、ここで悩んでいても、憶測しかだせんか。
……蒼花も、彼岸の者となった。
直接聞くのが早い、な。
[元々、不可思議な所のあった蒼花の主。
問うてみたい事は、幾つか、あった]
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