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ああ。お前も、独りか。
[ クツ、と嗤う様な聲――其の顔に浮かぶのも薄い笑み。然れど其の奥深くに在る感情は別の物。揺らぐ黒曜石の双眸が映すのは過去。]
[びくり。]
[伏せていた面を上げ]
[鋭い琥珀色の視線を投げ付ける。]
[そこに浮かんでいるのは]
[不快][苛立ち][軽い敵意]
[ 琥珀の視線を受け止めて返すのは黒の視線。其れはやや冷たさを帯びた色。]
……失礼しますね?
[ 口調だけは何時もの通りに一歩、部屋の内に足を踏み入れようか。]
[言い掛けた言葉を途中で切り、]
[一瞬目を伏せ嘆息]
…………ほって置いて呉れ。
[如何でも良い癖に……と殆ど声を出さずに呟く]
[ 再び肩を竦める所作。然れども其れはやや芝居がかっているか。]
つれないな。
[ 部屋の中に脚を踏み入れ扉を閉めれば、其の口調も叉変わる。]
折角斯うして話に来たと云うのに。
[ 艶やかに咲く薄い笑み。]
[芝居がかった所作][艶やかに浮かぶ微笑]
[がらりと変わった口調にも][驚く事は無く]
[素っ気無く][気怠るげに][視線を流すのみ]
……暇だから俺を弄りに来ただけだろう。
[その発語は完全なもので。]
哀しむ犬の様子を心配して見に来てやったとは思わないのか?
[ 気を悪くした風もなく、否、寧ろ愉しそうに謂う眸は変わらず黒曜石。唯、湛える其の色の奥底には欲望の光が僅か覗く。口許が象るのは弧を描いた月。
閉ざされた扉へと背を凭れ掛け軽く首を傾ければ、濃茶が揺れる。]
……まあ、其れも或いは正解か。
哀しむ。
[クハハッと]
[自嘲じみた][或いは揶揄も含むような][嗤い]
[唇を歪め]
……そうか。其れが普通だ。其れならば……
[亦も途中で口を噤み]
[ちらり、と][面白くもなさそうな顔で]
……心配だなんて笑わせるな。
俺もお前も所詮は自分の事しか考えて居ない。
[――声は、遠く。
水底から見上げる、月の光のように。揺らめいて。]
………?
[聞きなれた青年の、聞き覚えのない口調に、小首を傾けて。]
[ぼんやりと声のする方を見やれば。
見覚えのある青年の、見たことのない艶笑に、目を瞬く。]
ハーヴェイさ…ん……?
[零れる声は、届くことなく。]
[ 細められた黒曜石は男の様相を冷静に見、声を聞く。]
普通、ね。……唯の御犬様では無さそうだ。
其の方が面白くはあるが。
[ 口許に軽く握った手を当て腕を組み、体重は壁に預ける姿は気怠げか。]
……当たり前だろう?
人の絆の脆さ、愚かさはお前も見た通り。他者の事等考えるだけ無駄だ。
[ 視線は逸らされ窓の向こうを見遣り、続く男の科白に返すのは事も無げな言葉。]
そうか。似合いかと思ったが。
[ 拒絶には少し残念そうな声色に成る。]
若しくはお前も獣か。
ギルバート……、否、"Giselbert"?
[それから。
ハーヴェイへと強い口調で言葉を投げる、ギルバートを見やる。]
[瞳に浮かんだのは、驚きと、不安と、……心配。]
……お兄さん…? どうして………?
[――声は遠く。何を言っているのかはわからないけれど。
唇を歪め、嗤う姿に。感覚のない手を伸ばして、]
[何だろう。
不安げな様子に誘われるのか?
よくわからぬまま、わたしの前には二人の姿。
わたしを殺した人狼と、
怪我をしていたひと。
それから……]
トビー君
分かっている、そんな事は。
[その声が沈み][苦いものを含んでいる様に聞こえるのは][気の所為だろうか。]
……けれども、人を愛する事だって在る筈だ。
孤独を埋めたくなる事も。
あの娘も、お前にとっては如何でも良いのか。
[ココロの揺らぎが、仮初めの身体をも揺らがせるのか。
伸ばした手は、彼の人に届く事はなく。ゆらり、揺れて。]
[拡散しようと、]
「トビー君」
[はっきりと、耳に届く声。恋焦がれた、ひとの。]
………ぁぁ。 ローズ…マリー……さん。
[振り向いた顔には、一筋の雫が流れたか。]
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