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[ウェンデルと名乗った男の人は、聞こえなかった、と言ったけれど。]
[顔がそれは嘘と明らかに告げてる。]
[恥ずかしさで俯いた顔が、耳まで熱い。赤くなってる。自分でも分かる。]
[そこに、おいしそうな匂いのする料理を載せたプレートを抱えて、女の人が入ってきた。]
あ、わ、わたしは、ベアトリーチェ、です。
あの、いただきます。
[わたしはさっきの失態を誤魔化そうと、すばやくその人に挨拶した。]
[ヨハナの答えに、視線を落として、つま先で床板を擦るように蹴る]
分からない…なら、探さなくちゃ。
[続いた問いかけには、顔を上げてひとつ瞬いた]
いるに決まっている。だって、はじまってしまったんだから。
………知らない?
あ、うゎ…ありがとう、ございます。
[ウェンデルさんにわたしの分まで用意されてしまった。]
[そんなにお腹へってそうに見えただろうか…。]
[見えただろうなぁ。]
[顔がまた真っ赤に。心の中でじたばた。]
[奥まった一室。鍵がかけられている様子はなく。
集会場、という事を考えたなら、会議室の類でもあるのだろう、と思いながら扉を開いて中に踏み込み]
…………掃除くらいは定期的にしろ。
[思わずこんな言葉が口をついたのは、家事担当の長さ故か。
埃の薄く積もった部屋は、雑多なものの一時置き場か何からしい。
特に、興味を引くものはないか、と思いながら見回し]
……ピアノ……?
[それに、気づいた]
―昨夜―
[ゲルダとマテウス、そしてウェンデルの会話を聞いていると、耳に届く声に懐かしさと、いくばくかの安心をを覚える。
コップの中身を飲み終えるまで耳を傾け、食器を片付けてから、自分も部屋に戻った。
二階に上がり、空いている部屋を探してそこに荷物を下ろす。
窓には白い雪がまだちらついていて。
この分だと積もるなと思いながら、荷を開く。
1番上には古い木箱。それにそっと手を置いた。]
…大丈夫。
すぐにきっと、よくなる。
[細い指を、つ、と箱に這わせ。
自分に言い聞かせるように呟いて、その日はすぐに、眠りに落ちた。
*浅い眠りではあったが。*]
いいえ。
私も食べるところでしたから。
[用意した食事を、ベアトリーチェへと差し出す。
普段通りの行い。気も抜けていた。ゆえに注意は薄く。
袖口から覗く左手の甲の朱の痕は、隠しそびれていた]
……分からないならば、探す。
確かに、その通りだねえ。
普通の人間では、人狼と人間の違いは分からない。
伝説には、そう描かれているのだから。
そう、普通の人間にはね。
[息を一つ吐き、言葉を連ねる]
エーファちゃん。
貴方は、伝説にある通りの、不思議な力を持っているのかい?
そう考えると、エーファちゃんが、「はじまった」と言っていることも、私には納得がいくから。
なんで、こんなものが置いてあるんだか……。
[呟きながらも惹かれるよに近づくのは。
遠い記憶のなせる業、か。
埃を払い、蓋を開いて、鍵盤を弾く。
澄んだ音が、一つ、響いた]
……暇つぶしの種にはなる、か。
貴女の方がベアトリーチェ。
もう一人知らない子が居たら、その子がエーファなのね。
[集まった人々の内、耳慣れない名前はたったの二つだから。
椅子に座って、少なめに盛った食事に手を付け始める]
[内心でひたすらわたわたしながら、ウェンデルさんの差し出した料理を受け取る。]
ありがとぅ...(後半は声にならない)
あれ?ウェンデルさん、怪我してるの?
[ふと、手の甲の朱に気がついて。]
[あれは…]
[子供は、老婆の顔をじっと見つめ、ゆっくりと首を横に振る]
探す力は、ない。
だから、あのこはいなくなった。
でも、またはじまった。
[視線が窓の外へと戻る]
………きっと、ここに来たから。
あ…はい、そうだと思います。あの、もう1人って、昨日乱暴につれてこられてた子、ですよね。
[ゲルダさんの確認に応える。]
[わたしもテーブルに着くと、]
いただきます。
(もぐもぐ)
わぁ…おいしい!
これゲルダさんが作ったの?すごくおいしい!うちのおばあちゃんにも負けてないよ!
[鎖は幾つも絡み合い、浮き上がっては沈んでゆく。
何度目か、それを振り払うよに右手を大きく投げ出した]
っつ。
[掛布が滑り落ち、冷えた空気が肌を撫でる。
翠に映る天井は見慣れた家のものではなく]
…ああ。
影響されすぎだろ。
[自嘲するように息を吐いて起き上がる。
ピシャリと顔を叩き、シャツと上着に手を伸ばした]
え、……ぁ。
[ありありと浮かぶ、しまった、という表情。
料理を渡した後だったのは、幸いな事]
…ええ、いつの間にか。寝ぼけているうちに、何かやってしまったんでしょうか、ね。
寝相は悪くないつもりなんですが。
後で、手当てをしておきます。
[矢継ぎ早に述べ、]
乱暴……
ああ、昨日の子でしょうか。
[名は知らずとも、想起する対象はあった。
話題が移ったのを機とばかり、トレイを用意して]
食事を運んだ方が、いいかもしれませんね。
……そう。
探す力はない。
けれど、他に不思議な力は持っている。と、そういうことね。
[老婆が大きく息を吐いた]
もしかしたら、貴方は『象徴』もしくは、『指導者』―――はたまた、『守護するもの』なのかもしれない。
けれど、それは他の人に言ったら駄目よ。
それを言うことにより、エーファちゃんは『生贄』となるかもしれないのだから。
それはとても危険なこと。
だから、ずっと黙っていなさい。ね?
[老婆が最後に優しく笑った]
じっとしててもおさまらねえよな。そうだ、ゼルギウス。あいつなら。
[ふらふらっと起きあがり、一階広間へと移動。青白い顔で椅子に腰掛けてその場にいた誰に聞くともなくゼルギウスの所在を訪ねた]
[しばらく眩暈を抑えるようにじっとして居たが]
……流石に動くか。
薬飲もう…。
[そのままで居る訳にも行かず]
[身嗜みを整えると仕事道具を肩にかけ]
[そのまま厨房へと足を向ける]
─二階・自室→ 一階・厨房─
[ウェンデルとベアトリーチェの声に微かに首を傾けて]
怪我?
薬師様がいらっしゃるし、後で見せる?
[抑揚の乏しい声。
翠玉はベアトリーチェへと向いた。
語られたのは、自身の知らない昨日の出来事]
乱暴に…なの?本当に災難ね。
[褒め言葉に、こくり、と頷き]
普段から仕事でやっているから。
毎日やれば慣れるよ?
[子供は、老婆の言葉には頷かなかった。その優しい笑みを見ようともせず、じっと白い世界を見つめていた]
ヨハナは、人狼?
[そうして、老婆の言葉が途切れた後、やはり、世間話のような口調で尋ねる]
[手遊びの音色紡ぎは、やがて連なる一つの旋律へ。
足元に降りた猫があわせるように尾を振るのに、微か笑みつつ。
緩やかな音を生み出して行く]
……覚えてる、もんだな。
[零れ落ちたのは、そんな小さな呟き]
いや、平気だよ。
そんなに酷くもないから。
[ゲルダに答えると、厨房の奥へと引っ込み、料理を装った食器をトレイに並べていく。
内までは、音色は届かなかった]
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