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―東殿・食堂―
うん、ノーラみたいなの。
[こんなの、と幼子が小さな手にて示すは輪を模った其れ。
仔にしてみれば腕輪を視的表現する精一杯の技法であったが、しかしその表現すら結局の所曖昧に変わりは無い。
暫しの沈黙の間幼子は視線の高さが等しくなった地竜殿を真直ぐに見つめていたが、やはり返る答えは幼子の期待する答えでは無かった。落胆の色は隠しきれねども致し方無い事。漸く全ての問いを投げ終えた仔は、地竜殿の解放へと至る。
――例えの話、これが幼子ではなく他の者であれば若しやすると言い包めに近いと察しも出来ようが、少なからず仔には其れを悟るには困難であった。]
……こまったね。
[私へと視線を落とす幼子は言葉通り確かに困っている――途方に暮れている様であった。
と、近くへと歩み寄る心竜殿の存在を認知したと同時向けられた提案に、幼子は一度目を瞬かせる。]
デザート?
……、ノーラの?
[デザートと耳にし輝いた目は、しかして影竜殿の分であると聞き及び一寸躊躇いを見せる。
幼子としては恐らくとも非常に食したい所であるだろうが、
本来は己と親しい相手の物であると聞き悩むのは道理。
沈黙を保ったまま心竜殿を見上げ次に影竜殿が出でた扉を見、
最後に卓上へと置かれた皿へと視線を向けた。]
…、…たべる。
[…しかし幼子の心情は好みの菓子を目の前には敵わぬとみた。私は思わず溜息をこぼす。
影竜殿のこと故、恐らく仔が食したと知れども叱りはせぬだろうと思ったが、
しかし人の物には変わり無い、後に謝罪だけは述べねばならぬと心に*決めた*。]
[確りとした「声」が聞こえたのは所有の移ったあの一瞬のみ。
拒絶の意思は強く感ずることができても、剣は黙して語らない。
精神の竜が接触を図れば或いは、仮初とはいえ個に近いものがあり、だが反応を示そうとしないことに*気付くかどうか*]
―東館:部屋―
[ベッドの上、少し湿った髪。
身じろぐ手に握られた首飾り。]
[床に落ちたタイは、赤黒く。
鍵がかかった部屋は、ただしずかに、今は闇。]
[闇の気配があたりを包み、それ以外には、なにもない**]
―東殿の部屋―
[翠樹の仔竜がデザートを食べる様子を微笑みながら眺めて。
やがて部屋へと戻り、青年も休息を取る。
椅子に腰掛けたまま目を閉じる姿は、どこか*彫像の如く*]
―― 私室 ――
[横たわっていたベッドの上で、しかばね…もとい青年がぱちりと目を開ける。眠っていたのかどうか、どうあれ寝惚けている風ではない]
新しい可能性…不確定要素…
…「力ある剣」
[静かな声が、誰も聞く者の無い室内に響く]
なぜ、剣の持ち主は名乗りでない?
[それほどの力ある剣を持っているなら、この騒動の始まりに、名乗り出て他の竜に協力を仰げば、揺らされた者もおいそれと手出しは出来なかったろう。それをしなかったのは何故か?]
ケース1…剣は存在しない…
[それがこれまで、最も高いと思っていた可能性]
ケース2…所持者自身、剣を持っていることを知らない…
[これが二番目に高いと思っていた可能性]
ケース3…剣の力そのものが封じられている…
[ケース2同様に可能性はある。だが、それでも他者の協力は仰いだ方が良かったのではないかという疑問は残った]
ケース4…すでに一振りを奪われている…
[それが、新しい可能性…もしも、皇竜の側近が、本当に剣を預かっていたとしたら…剣を奪ってから結界に閉じ込めたのかもしれない…そして、剣が奪われたから、もう一振りの所持者は名乗り出ることが出来ないのかもしれない]
─竜皇殿・城壁上→東殿・回廊─
[狭い空間での演舞は、どれほど続いたか。
さすがに、体力の消耗を感じた所で城壁から降りる。
濡れた常磐緑は、手に持ったままだった]
……疾風だけに風邪はひかねーつもりだけど。
[義兄が聞いたら、違う理由でひかない、と突っ込んだかも知れない]
いちお、あったまった方がいいんかなぁ……?
[そんな事を呟きつつ、浴室に向けてずりずり]
[とりあえず、浴室で身体を温める。
着替えは、一時的にだからと適当に借りた。
びしょ濡れの常磐緑はすぐには巻けず、やむなく、タオルで首筋を隠したりとか、微妙に不自然なスタイルになったりしつつ、部屋まで戻り]
─ →東殿・自室─
っかし……どーすっか。
誰か巻き込むか、それとも。
[自身に秘密が明かされた理由。
それは、何かあれば後を託す、という意思表示なのやも知れないが。
自分は、そこの所には──剣を第一とする部分には、どうしても賛同できていない訳で。
それを考えると、あと一人ぐらい、巻き込みたい所なのだが]
んー……。
[考えながら、ごろ、ごろり]
[どさり、と重いものを落とすような音をさせ、ベッドから降りる。
それから身支度を整えると、部屋を出る。
ガチャリ、扉が音をさせた。]
…ザムエル殿に、どう聞くべきでしょうか。
[独り言をぶつぶつ呟きながら
外を見て――西殿を、窓から見上げる。]
[結局、何が悩みの種なのかといえば。
相手によっては、状況が更に悪化する、という可能性。
もう一振りの行方は全くわからない以上、敵に塩は贈れないわけで]
だああああああっ!
なんで、もっと頭の回るのにしとかなかったんだよー!
[それは八つ当たりというものです]
うー……本気で、あったまいてぇ……。
― 東殿・一室 ―
< 幾らの時が過ぎたか、陽は出ないために確かではない。世界は少し違って感じられる。
孫娘が結界に囚われた事を伝え聞いても、皇竜の眷属らは平静であるよう努めていた。
しかし、灯された明かりは闇と共に不安を払わんとする証。
光は影を生み、揺らめく >
[絶叫が聞こえ、びくりと扉の前で肩を竦める。
聞こえた部屋の前まで行き、そっと耳をつけ。
コンコン、とノックした。]
…あの、大丈夫ですか?
何か、ありましたか?
[混沌の欠片でも出たのだろうか、と。
風竜の部屋の、扉の前。]
……ふえっ!?
[唐突なノックの音に、慌てて起き上がろうとして]
あ、なんでもね、ちょっ……どわたっ!
[ごろごろしている内に端に寄っていたのか、見事にベッドから落ちた。
派手な物音が、響く]
―――回想―――
[食堂に着いた後は、一緒に歩いていた二人とはそれなりに離れ、アーベルからお茶をもらい、適当に益体もない話を色々な人と話しているとき、
『それ』は突然来た]
(……は……ぁ……!?)
[声にこそ上げなかったが、多少身震いしたのは鋭いものならば気づいたかもしれない。
水が。
いきなりその力を増大させた]
―――っ。
[ともすれば、暴走してしまいそうな力を無理矢理に押さえ込む。
それが精一杯だ。
其の後のことは、断片的にしか思い出せない。
後にそれは―――天聖のものが結界に囚われたことにより、一時的に弱まり、結果、「力ある剣」の持つ強大な力が、流水へと流れたことだということに気づいた]
(『力ある剣』を持っていなく、また、それを扱う資格のない私にすら余剰の力がフィードバックするとは……。
『力ある剣』
予想よりも遥かに強い力のようねぃ……)
[この時に一時的に流れた力に比べたら、焔に何かされたことなど、取るにも足らないことだった。
―――ややして、雨にもう少し触れてくるとか適当な理由をつけて、中庭でその力が発散されるのを待った]
―――回想終了―――
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