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―竜皇殿:入り口―
[本を持ったまま、中へと入る。
どこかで読める場所はあるかとあたりを見回した。]
……どこか椅子があれば良いんですけど。
[そうして壁に沿い、どこかにないかとゆっくりと歩を進める。]
[ふと風が気がして、顔を向ける。
上方に小さな猿と人の姿が見え、思わず表情を崩しかけたけれど、くいと眼鏡をあげて口を引き絞り、そちらへと歩み寄った。]
こんにちは。
ええと…
[随行者名簿を頭に思い出し
該当者を、探して――]
ティル=ビルガー殿でしょうか?
[聞いてみた。]
―竜皇殿−
[ザムエルらに促されはしたが、自身は用があるからと外へ抜け出す。
もっとも敷地内から出ることはせずに。
ふらりと緑のある庭、なるべく竜の気配のないほう、ないほうへと、自然足は向く。
庭にある木。その青葉をなぞる。
触れた若い一葉を常の笑みを湛えたまま、
−―――――ぶつり
音をたてて切り離した。
笑みは絶やさない。]
……ん?
[呼びかける声に、一つ瞬く。
感じる気配は、実はわりと身近なもの。
愛用の武器──『風雷棒』に埋め込まれた、雷の力を込めた金剛石のそれと似ていたから]
そうだけど、だーれー?
[下を覗き込みつつ、問いかける。
常磐緑が、風に揺れた]
[覗き込まれた顔に、真っ直ぐな視線を向ける。
風に揺れた髪が額にかかり、それを指で左右に分けて耳にかける。
邪魔にならぬよう編み下された髪も揺れ、体に巻かれた鎖に触れてカチャリと音をたてた。]
エミーリェ・アパトと申します。
雷竜王がケツァルコアトル様に随行して参りました。
[上へ向け、声を返す。]
[西殿を離れて後は竜皇殿を出、商店街を見て回る]
あの仔らには何を土産とするが良いかのぅ。
[来る時に地竜王と会話した、里の仔竜達への土産物を探す]
読んで学び、触れて学び。
刺激となるものが良いのぅ。
[店主に訊ねたり実際に読ませてもらったりと、ザムエル自身探すことを楽しんでいるようだ]
[ 風の流れに沿い、人の流れを遡り、路は殿に至る。
ぷつり、喧騒の途切れる場所があった。その先は聖なる宮であるから、一般の者の出入りは少ない。
距離を置いて眺める宮殿には清廉な気配が漂う。属こそ違えど、均衡を望むという意味では、影輝にも近しいところがあった。
立ち止まり暫し黒曜石の瞳に映した後、影は敷地内へと入った。]
あ、やっぱり。
[雷竜王の、という言葉に、小さく呟いて、よ、と言いつつ立ち上がる。
とん、と枝を蹴り、ミリィの前へと降り立った]
名前、知られてるっぽいけど。
嵐竜王の随行代理のティル=ビルガーだよ。
こいつは、風獣王の眷族のピア。
[ぴょこり、と礼をしつつ、小猿の名も伝える。
青の瞳は、巻きつけられた鎖を不思議そうに見やっていた]
―― 竜皇殿・門内 ――
怒られちゃったなあ、ちょっと覗いてみたかっただけなんだけど。
[肩の機械竜に愚痴りながら、本殿から門へと向かう道をとぼとぼと歩いている]
次はどこに行こうか?まだ見ていない場所ってあったっけ?
[けれど気分はすぐに切り替わったようで、次の興味の対象を探そうと視線はきょろきょろと辺りを巡る]
―竜皇殿:敷地の内側―
[東の方に向かい、まわりを眺めながらゆこうとして。
そっと感じた気配は対の一つだからこそわかりやすく。]
ノーラ殿
[軽く頭を下げる。
それから上げ、中を見たときに、金色の頭が見えた。]
……エーリッヒ殿も。
自由時間に皆様なにをされているのでしょうか。
[今更気になったというように、少し不思議そうな顔をした。]
えぇ、随行者名簿を先程。
ピア殿、今日は初めまして。
[背を伸ばしたまま、頭を下げる。
顔を上げたあと、人差し指で眼鏡を上げてまたぴしりと背筋を伸ばして]
嵐竜王様には未だこの度お会いしておりませんが、お変わりありませんか?
[ニコリ、口元に硬い笑みを浮かべた。]
あ、こんにちは、オトフリートさん。
[行く手に姿を現した月闇竜に、にこりと笑って駆け寄っていく]
探検してたんです。オトフリートさんは…読書ですか?
[手にした本に目を止めて問い返した]
いえ、本を買って来たのです。
今から読書にしようかと思っておりましたが。
[微笑んで]
探検ですか。
色々な場所にいけましたか?
そっか、名簿あるんだっけ。
[今更のように呟く。
頭を下げられたピアは、肩の上でぺこ、とお辞儀を返した。
一応、風獣王に連なるもの、としての矜持とかあるらしい]
ああ、兄貴?
特に変わってないっぽいよ。オレも、会うの久しぶりだったけど、相変わらずだったし。
[硬い笑みには気づいているのかいないのか。
返す言葉は、大雑把]
オト殿。……エーリッヒ殿。
[ 声を発した当人と同じだけの間を置いて、影は名を紡ぐ。
ゆったりとした歩みで近くに寄る頃には、エーリッヒはオトフリートの元に辿り着いていた。]
私は散歩ですね。
アーベル殿……心竜王様の随行者殿も、そうであったようです。
[ 影の眼差しは対の一から、機鋼の竜へと転じられる。]
探検、それは楽しそうですね。
ノーラさんも、こんにちは。
[影輝竜にも笑顔を向けて、二人の言葉に頷く]
いつもは入れない場所に近付けるから、面白いですよ。
でも、本殿を覗き見しようとしたら怒られちゃいました。
[ぺろりと小さく舌を出す。機械竜がカシャカシャと羽ばたいて、呆れたように瞳を青く明滅させた]
[自分と同じように頭を下げた猿に、
思わず口元が緩んでしまいそうになり、また、慌てて硬く引き結ぶ。
ティルの口ぶりに、深く頷いて]
お変わりないのは良い事ですね。
翠樹の竜王と陽光の竜王にはお会いになりましたか?
小さなお子を連れておられて、驚きました。
[本人は雑談しているつもりだが、口調はまるで参考書を読み上げるようだ。]
それは怒られるでしょうね。
[エーリッヒの言葉に、小さく笑う。]
今は会議で忙しいでしょうし。
竜王方の邪魔になるような場所は、きっと見られなかったでしょう?
―竜皇殿―
[竜都の心の坩堝と逆の静寂を求め、気配なく青年は建物の外を散策していた。心の動きを押さえれば動く彫像のようなもので、佇めば景色の一部に溶け込んでいただろう。
途中で随行者に出会いそうになれば踵を返していたから、その軌跡は青年の領域に相応しく混沌とも言えるものだった]
……疲れたな。
[事情が事情ゆえに力強い随行者が多く【心の間】とは異なる。
それでもやがて静かな場所を見つけ、目を閉じて佇んでいた]
まあ、兄貴がいきなり気が利くよーになったりしたら、それはそれで気味悪いけどなっ。
[あっけらかん、と言ってのける一言は、身内故の気安いもの]
ん、ちょこっと挨拶はしたと思ったけど、ちゃんと話してないなあ。
んでも、ちっちゃい子とか、会議の間どーすんだろ……。
[会議場には、竜王以外には入れないわけで。
その間の子守はどうするんだろうか、とかある意味余計な事を考えつつ]
……ってゆーか、さ。
おねーさん、なんか、無理してる?
ギュンターさんは、
お怒りになると恐ろしいですからね。
[ 口調は先に似て、けれど僅かな幼さを帯びる。それは歳を経たものと、未熟なものとの差異であろう。
青の眼を明滅させる機械竜に、ノーラの手が持ち上がり、黒布を押えるように折っていた指が伸びた。]
こちらは、エーリッヒさんが創ったものでしたっけ。
[あまり荷物にならないよう、大きなものは買うことはなく。購入も帰りが良いだろうと数もあまり買わなかった]
会議が終わるまではもう少し時間があるしの。
後はのんびり過ごすとするか。
[小さな袋だけを手に、商店街の商品を見回りながら竜皇殿のある方向へと歩み始める。買い物をする姿は孫に土産を買う爺状態だったが、そんなことは気にしない]
ああ。
読書をされるおつもりだったのなら、
お邪魔してしまったでしょうか。
[ 触れる寸前で手は止まり、月闇の竜へと首を巡らせて問を落とす。]
書は知識の集まり。良いものを得られますよう。
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