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[手持ちのハンカチで汗を拭い、けれど、それでも足りずに、籠の下に敷いていた布も使う]
全く…女の子以外の服を脱がしても、こちとら何も楽しくないんだぞ、と。
つっても、起きる気配すら無い…か。
[唇を噛む。スティーヴを振り返り、]
飛べない俺より、アンタの方が速い。施療院に行ってくれないか?
…これが普通の治療でどうにかなるか分からんが、熱を抑えることくらいは出来るはずだ。このままじゃ、脱水症状を起こしちまう。
ああ、頼む。
…………先生か。
[完全に怯えてしまった子犬を強く抱き、後から覗き込む。
脱がされた服の下、翼胞が強い脈動をするのが見て取れた。]
施療院に運びたい所だが、病人の様子を見ると約束した。
………先生を呼んできた方が早いな。任せていいか。
[足を扉の外に向けながら、視線を投げる。]
どうやら意見は一致したようだな。
――ラスを頼む。
[唇を噛むカルロスに頷き、疾風を抱いたまま外へ。
小屋に入れてやり、近くの木から飛び立った。]
ああ、こっちは任された。出来ることは少なそうだが。
[投げられた視線を受け止め、しっかりと頷く。
常より、低く鋭い声で、]
…出来るだけ、速く。頼む。
[部屋を出るスティーヴを見送る]
[額に汗を浮かべつつ、体を仰向けへともぞと動かす。
自分の鼓動を確認するかのように右手を胸に当てながら顔をゆっくり巡らせると、そこにあった顔に少しだけ驚いた表情をした後、]
…カルロス?
寝込みを襲うなよ…
[細く開いた目で、うわごとのように口の中だけで呟いて、口の端を上げてにまりと笑う。
だがその笑みは力無く、息はまだ荒い。]
[汗を拭い終え、籠に入った服を広げる。
着せようと、ラスの方を向けば]
…起きたか?…意識はしっかりしてるか?
[静かに声をかける。けれど、あまりにあまりな返答に]
お前の寝込みなんぞ襲っても、何も楽しくない。
…んな軽口叩く前に、果物でも食って水分補給しとけ。
今、スティーヴが医者呼びに行ってる。
[溜息を吐いた後、食えるか訊ねる様に林檎を指差す]
……異端でも、
想ってくれる、ひとはいる。
[ふるりと、ほとんど震えるように首を振る。
けれど否定は、言葉とは裏腹に、肯定するような響きがあった]
…ん。
[半身を起こし、指差された林檎に手を伸ばす。
――が、その手が林檎にたどり着く前に、布団から起き上がると]
ああ、親父をみてこないと。
あとお袋と…
[ふらと、覚束ない足取りで部屋を出ようと扉へと向かった。]
[こんな時にまで、他者の存在を気遣うラスに眼を円く。
けれど、立ち上がる様には流石に慌て、布団に引きずり戻そうと、腕を伸ばす]
…っ、ふざけんな、バカ。
お前…、少しは頼ることを覚えておけよ。
お前が頼ると一言言えば、俺はきちんとそっちだって見に行ってやる。なんで、そんなことにも気付かない?
[荒げかけた声は、押し殺した分だけ必死さが滲む]
あァ、そうだな
[くすり、と、狐はわらった。
頭を、髪を、撫でて、頬へとすべらせる。
指を離して、後ろにさがった。]
そうだろうな
[笑みをえがく、くちびるは見えない。]
…頼る?
何言ってんだ。
俺の親を俺が見ずにどうするんだよ。
[カルロスの言葉には、不思議そうにきょとりと目を丸くして見て、苦笑交じりに返しながら腕を取られても強くは引っ張らないが部屋を出ようと、扉に手をかけた。]
そう言うこと、当然そうに言うなよ…。
[家に帰れず、親に会う事すら出来ぬ身には酷く響いて。
傷ついた顔で、取った腕を離した]
ホント…なんでこの村には、自分の健康を顧みない奴が多いんだかね?
ラスも、動き回るならせめて…もうちょっとマシな体調になってからしろ。……向こうで倒れでもしたら、更に不安にさせるだろ。
[滑る指の感触。
ぎゅと硬く目を瞑るも、離れてゆくのを知れば、
すぐさま眼は開かれて手が動きかけた]
―――……なに、が
[唇を引き結ぶ。
揺らめく眼は、面の奥を捉えない。
行きどころを失くした手が、宙を彷徨った]
さァ、なにがか。
[くすり、喉で嗤うおと。]
――エリカ。
おまえは、何を望む?
[名を囁いて、狐は、金の目で、揺れるひとみをとらえた。]
[いつもなら、傷ついたカルロスの顔を見れば申し訳無さそうに眉を下げるだろうに、振り返ったその目はがらんどうで。
それが糸のように細められる事は無く。]
いや、ああ、そうだ、施療院に払ってない金も、払わないと。
[カルロスの言葉は全く届いていないかのように、うわごとのように焦点の合わない目で呟いて。
半身に服も身につけないまま立ち上がり、すたすたと父親の部屋と母親の部屋を覗いて無事を確認し、ゆらりと夢遊病のように外に出ると、小屋から飛び出てきた疾風が激しく吠え立てた。]
私は……っ、
ただ――
[朱唇が動くも、音は紡がれず。
拳を握り、己の胸元に引き寄せる。
頑是なく、かぶりを振った。
不安定な足場、逃げ道はない]
望まない、何も……。
[振り向かれ、視線が合う。
ただそれだけの事に、何故か恐怖が生じて躊躇いを生む]
ラス…?おい。なぁ……、なあって!
[焦燥に駆られ、声の大きさを自制も出来ず、叫び呼びかける。
遅れ、部屋を飛び出して、外に飛び出れば抱きついてでも止めようと、また腕を伸ばす]
んな変な様子で外に出たら、今は危険だ…!
施療院の人間なら、今からスティーヴが連れてくるから!
あぁ、疾風、今日も美人だな――
[言う笑みは力無く。
後ろからカルロスに腕を捕まれるも、まるで気がつかないように膝をく、と曲げ、熱い翼胞から大きな翼がしゅわりと出、飛び上がる事で抜け逃げる。
カルロスの手の中には、仄暗く黒いドロドロしたものが一瞬纏わりつくだろう。
ばさり、力強く空を叩く。
――その翼は、漆黒の。闇の色をしていた。]
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