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[扉越しでは唸り声までは届かない。
しかし何かに呼応したよう、胸の奥が熱くなる感覚があった]
……………っ、
[今すぐにでも駆け出して行きたくなる衝動を抑え、イレーネに触れる手を引き、拳を握った]
人、狼……?
――……………レーネは、ここに。
[呟きを漏らして、ソファから身を起こす]
─広間─
っ、フォル…?
[離れたフォルカーの手が拳を握る。呟かれた単語に身を強張らせた]
ぇ、フォル、待って。ボクも…。
[音の下へ向かおうとするフォルカーを追うよに立ち上がるも、ここに、と言われて足は止まる]
―玄関―
[体は冷えていた。
風邪をひくかもしれないと、どこか遠いところで思って、
集会所に戻る。
と、階段から落ちてきた姿に、扉をあけたまま固まった]
え?
[きょとん、と二人を見る。声を聞く]
何、やってるんです?
まるで、……
[声も聞こえたけれど、思わず、問いかけた。
人狼みたいに。言いかけた言葉はとまったけれど]
はははは、人の都合か…、
残念だが、俺は人である事は許されない運命らしい。
[苦しむ様子のオトフリートを、余裕の笑みを浮かべながら見下ろし]
生まれたときを呪ったことがあった、
人でありながら、人として扱われる事を許されない。
解放された時、俺はのし上がってやった。
俺は人になれたと…思ってた。
ここの村にきて、村の人たちと接して…、それを強く実感できていた。
普通の人じゃないことを知らされた時も、皆と接することで気にはならなかった。
[僅かに息苦しく痛む胸は、いまだある迷いのためか。
自分の言っている事、はじめの事は、ウェンデルには伝わったかもしれない]
だけど、俺は化け物だ、人を殺して食らう獣だ。
所詮俺は、人間であることなんて許されなかったんだよ。
[吐き捨てる言葉、それは自分に言い聞かせるようでもあったかもしれない。]
人が人を食い物にして生きてくことだってあるんだ。
別に俺が人を食う事も、仕方のない事だろう…。
[二つの食うの意味する事は違う事だけど。
鋭い爪の生えた右腕、ゆっくりとオトフリートに歩みよっていく]
オトフ、とりあえずお前からだ…。
[低くうなるような声、冷たく鋭利な言葉でそう告げる]
[フォルカーは広間の入り口で足を止めて振り返り、イレーネを見やる。
自分も、という彼女に言葉を重ねることはなく、されど、手を伸ばすわけでもない。数秒の間の後に、顔を背け階段の方へと向かった]
力になる…この場で…力になるって…なんだ?
[ぼやくように呟いて...はイレーネの部屋へと入り、『唯一とする望みはなんだ?』とだけのシンプルな、自分の名さえ書いてない紙を裏返し隠すように机の上に置いた。
生き延びるならば助かるのならばもっと人が死なねばならない。仕組みはなんとなく把握している。すぐに大勢は殺せない。明日、自分が死ねばまだ残れるだろうけれど。]
…冗長だ…
[それでもそれが…全てを淘汰してまで生き延びるのが彼女の望むものか?
あれもこれもなんてできない。一つだけ…否。むしろ何一つ届かないのがこの世界。
そんな世界誰が望む?それは直接関わらないものたちが望んだ世界。酷い冗談だ。残酷な演劇だ]
[語られる過去。それが如何ほどに凄惨であったかは知る由もなく]
……あなたの過去に何があったか。
あなたが、ここで、何を思っていたか。
生憎、俺には、わかりません、よ。
[けほ、とまた咳き込む。口元を拭った手には、淡い紅]
……そもそも。
そんな理屈は、どうでも、いいんです、よ。
俺は、ただ。
……喪われた事が。
赦せない、だけ。
[何が、とは、言わずとも伝わるか。
歩み寄る姿を睨むよに見つつ、右手に力を込める。
与えられるのは、多分、一撃。
それに、全てをかけるべく。
ただ、距離を測る]
[そのうちに、ウェンデルの姿も見えなくなった。
白くならない息を吐く。
そうして、顔を上げた]
行ってくるよ。
[前を見たままで告げる。
エルザは如何するかと直接問うことは無く。
その身を金色の粒子に変えて、集会所の方へと流れゆく]
……そうですね。
[言葉を返すまでにまた間が空いた。
もう何も無いはずの左肩が僅かに疼いた]
望むこと全てが叶うような世界じゃない…。
[金色が流れてゆくのを見送る。
すぐには動けなかったが]
それでも…と。
[呟き、意識を集会所へと向ける。
くすんだ色がスッと光の後を追った]
―一階:廊下―
[始めに見えたのは、玄関に立ち尽くすウェンデルの姿だった]
ハシェさん、
[何が、と問いかけ、言葉は止まる。
足を進めていくうちに階段の傍の様子も目に入り、何が起こっているかは、容易に知れたから]
[ウェンデルの声にそちらを見る、一瞥するだけで、その瞳は正気をもってる人のものには見えなかっただろう]
ヘルちゃんのことか?
[ゆがんだ笑みを浮かべてオトフリートを見る。
向こうからの刃も届くだろうとい距離に近づき、それはこちらの爪が届く距離でもある。
爪を振るい、冷静さを失った今の自分に、向こうからの反撃など頭になかった。]
[エーリッヒの言葉が届く。
玄関の扉の向こうには、自衛団がいる。
それに思い当たった瞬間、扉を閉めた]
エーリッヒさんは、人間です。
[小さく、呟くのはまわりの音に紛れたか。
ただ、階段の様子を見ているだけではいたくなかった。
エーリッヒが人狼なら、彼がヘルムートを殺したのだとわかっても、
人狼は殺すものだと知っても。
名前が呼ばれた。
エーリッヒの目が、こちらを見た。
駄目だと、思った。
一瞬のまれた時、場が動く]
―集会所/???―
[身体は埋められた。
そばに居ても、触れる事ももうできない。]
……どうしよっかなぁ。
[今までのように、退屈しのぎに料理をする事もできない。
紅茶を淹れて、甘いものを食べて気を紛らわせる事もできない。
自分はどうしたいのだろう。
何をしたいのだろう、何をすればいいのだろう。
今わかっているのは、ただハインリヒの傍にいたい…という事だけ。
だから、ハインリヒが行く先についていく。
階段の辺りの騒ぎがもし聞こえれば、そちらを気にするけれど。
ハインリヒがそちらに向かわないなら、時々ちらちらと視線を向けるだけにとどめるだろう]
―外・西の崖付近→玄関―
[何も知らない、気づかない。
ヘルミーネが自分のせいで死んでしまったかもしれない事も。
無知は罪という言葉は今の自分に良く当てはまった。それすらも今は知らないわけだが。
墓へと寄ろうと、目星をつけて向かいかけて。
何か供えられるものでもあればと、玄関口へと入ろうとして、開けっ放しで立ちつくす、ウェンデルの姿が見えた。
散々昨日言われたせいもあり、若干歩みが止まりかけるが、様子がおかしい事に気づけば、その向こうを見ようと後ろから覗き込んだ。]
へ……
[階段前で繰り広げられる攻防に、目が点になった。]
嗚呼。
分かってるつもり、…だったんだケドな。
[姿を消す直前、向けたのは苦い笑い]
― →集会所・階段―
[粒子が再び女の形を為したのは、騒動のすぐ近く。
すぐ下で縺れ合う2人の姿に、目を見開いた]
[歪んだ笑みと共に向けられた、問い。
それに、答えはしなかった]
……それは……。
[一つ、息を吸う。
身の内の躍動は、人狼を殺せとざわめきたつ。
それに、溺れるつもりはないが。
今は、それすらも力にせねばならない、と思い定め]
……教えて、あげま、せん、よっ!
[出来うる限りの力で床を蹴り、距離を詰め。
波打つ刃──魔除けの力を秘めるという、それを。
持てる全力で、突き出す。
切っ先が狙うのは、命の鼓動の刻まれる場所]
─広間─
[止まった足。既に扉まで進んでいたフォルカーが数秒こちらを見て、何も言わずに出て行く]
………─────。
[扉の向こうでは何かが起きている。身の内のものがざわめき、表層が、揺らぐ]
……ダメ、今行ったら……。
[引き摺られる、そう感じた。足元に落ちた毛布はそのままに、両手が身体を抱く]
[人の形をしたモノに、似つかわしくない獣の腕。
直に目にするのは、初めてだった]
……じ、ん、ろう。
[ウェンデルの呟きは聞こえず、エーリッヒを視界に捉え、そう評した。
高揚感と恐怖と、その両方が綯い交ぜになる。
熱いのか寒いのか、分からない。
持ち上がりかけた手が止まる。
体は、動かなかった]
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